流動小説集2―『無題』(2)―A:人間と物語生成システムによる暗号化小説(その2のA)
人間(私)と物語生成システムとの共同作業による実験小説の試みを続けて投稿する予定である。そのまとまりを「流動小説集」と呼ぶことにした。
以下は、『無題』と仮に呼ぶものの二回目(第二場と呼ぶ)である。
なお、第二場は長いので、すべて含めたバージョンの他、6つに分割したものも投稿する。これは、6分割版の1に当たる。
全部を含めた版は以下。
(以下、流動小説の全般的説明を再録)
内容的にはかなり出鱈目である。さらに、秘密の「暗号化」によって、元の文章を隠すことを試みたので、出鱈目度は増している。
なお、流動と固定、循環生成等の概念を使った、物語生成システムを利用した小説(物語)制作の実験に関しては、様々な本や論文等でこれまで議論して来たが、直接的・間接的に関連する研究や思索を最も凝縮してまとめたのは、以下の三冊の単著である。
そのうち二冊は分厚い英語本で、どれも読みやすいとは言えないが、興味のある方は覗いてみてください。英語の二冊に関しては、目次やPreface(まえがき)やIndex(索引)等の他、それ自体かなり長いIntroduction(序文)やConclusion(結論)を無料で読むことが出来ます。
また、二冊の英語の本に関しては、出版社のサイト(takashi ogata, IGI globalで検索すると入れると思います)に入ると、以上の無料で読める章以外の本文の章は、どれも単体で購入することが可能です(デジタル版のみ)。値段は確か30ドル程度だったかと思います。円安のせいでそれでも少々高いですが。どの章もかなり長いので、実はそんなに高くないとは思うのですが。なお一冊目の英語の本は、国際的に定評のある文献データベースSCOPUSに登録されており、二冊目も現在審査中だと思います。
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第二場(その1)
すると今度は、踏ん込みの左側から緑色の大がするっと滑って来る。舞台の右側のパーソン、座っているテナー達の背後で止まった。緑の洗面所のマドモアゼルには正座する六時人。ライトウィングの三誰かさんは妻琴を抱える。左側の三人っ子の前には何やらそれぞれ司令塔のような蛋白が置かれている。座る位置からは反対箍、御釜達に遮られて一部隠れている。この六人っ子は強烈に目立つ。ぐっと晴眼を凝らすのと同時に、かき鳴らされるダブルベースの音に続く。音数を減らした須磨琴と共に、深い歌声が響き始める。月は(ツキハ)―が異常な高音となる―程なく入る汐の(ホドナクイルシオノ)。一孤の若いしずの男が、熊野という山深い土地のある仏寺に向かう途中、地元の豊かな華胄で一晩泊めてもらった。[挿話24寝る。空気枕に麩(ふすま)が入ったようだ。冷たい感覚がある。役僧は凍死する夢を見た。]朝になる。ご親子の人達は掃除していた。[挿話25箒が砂埃取りに向かって誰が病家の翁かと言い争っている。箒が私が父親だと言い張る。塵芥取りも同じように言い張っていた。そこにガードルが来る。銀の出し入れをする僕こそが師父だと言った。昨日とんかちを背負って出掛けたその家の小冠者が朝帰りする。帯鋸と家禽や肉牛とを取り替えたと言う。大叔父がだて男子を誉める。次兄が喜んだ。それから主人は、すててこをまくって銀を出す。去勢牛や鳩と取り替えた。人物は呆れていた。]そんな景色を見る。若い新郎がその五摂家を立ち去ろうとする時、聖家族の母堂がどうしてももう一度会いたいと言う。国分寺からの帰り道で必ず寄ると約束してしまった。続いて深い声で、煙り満ち来る小松原(ケムリミチクルコマツバラ)。どうやら深いような甲高いような声で歌っているのは、緑色の便殿の向って左側に三孤並んで座っているテナーの妾の、一番右側に座る舎兄一単身だけのようだ。そしてすぐその知人の琴非戦闘員が退屈そうな顔付きで琴柱を奏でる。派手に奏でているのはその一前人だけだ。あとの二みんなの奏でる身振りはもっと地味な感じだ。殆ど花道を見上げる位置にある。この大劇場内の低地にあるこの座席からは、看客の丸坊主や足指に遮られて良くは見えない。シャンソニエか弁士どうし、チャランゴ聴き手どうしが一斉に同じようなことをしている訳ではなさそうだ。ところでその若い父王、若僧は、一誰かさんだけで旅に出ていた訳ではない。かなり年取ったもう一単独のアクターと一緒に旅をしていた。泊めてもらった華胄の未通女に、帰途また寄るからと約束したのも、その時は必ずしも嘘を吐いた訳ではないつもりだった。そのことを高祖母の姫主、老愚僧に言う。その老陰間は何故から知らぬがそれはやめておいた人人が良いということを言った。若僧の孤は少し湿りが咎めた。老兄貴の知恵には従った現代人が良いと考える。保母の養親子のある道から逸れて別の道を辿る。わたくし達の宿坊に無事帰り着いた。[挿話26二単独はこうして蓑笠を着け金剛杖を持って旅に出る。帰って来た。若僧の花笠とステッキは壊れていた。][挿話27老無品親王の彼は、帰って来た大入道が黒い粗衣を着て大きなお会堂にいると聞く。途中走禽や子牛に声を掛ける。迎えに行った。ビショップは寿司を炊く。炊け過ぎて焦げてしまう。怒り出し、土鍋を捨てようとする。そこに現れた実兄の老御曹司が内釜を捨てるなと命じる。一寸法師は実弟のアヌスを押さえる。やり手はキャセロールのヘルに落ちる。釜が割れる。焦げた熱い小糠が老入道の後頭のミズに落ちる。病夫が風呂を沸かす。老給仕は水風呂に入って悦に入る。ぬるいので何でも炊けと言う。社僧が若造のガードルを燃やしてしまった。]こんなことがあった後も、[挿話28法事に来ていた常客が川でおしっこをしていた若紫、近くのキャディーが通り掛かかって鴻池のプリンスのようだと言ったフリージア、賓客が帰ってしまう。法事をやり直したり]、[挿話29ある坊やがカウボーイに、「コーデュロイを狐の鳴きジゴロに染める」ように命じる。太刀取りに名物裂をやる。ジゴロは分からないので密かに往者に聞く。紺のことだと教えてくれたり]、[挿話30妾宅の爺さんと婆さんの男女が、須彌壇を買って来て念仏を唱えているのを、入っていた箱師が聞いて逃げたり]、いろいろなことがあったそうだ。声は何か急かされた風の感じを帯びる。急ぐとすれど振袖の(イソグトスレドフリソデノ)、からすぐに、びらり華鬘のふわふわと(ビラリボウシノフワフワト)、へと続いて行く。ふわふわとの辺りで維持会員の声が交じり合う。切れ上がるような鋭いサキソホーンの音が入る。高く鋭い触れ太鼓の音が客席一金杯に響き渡る。ぞくっと辺りの雰囲気が一変する。老男娼と若僧が一晩泊まった親身のスキーバニーは、何日も待って若僧が嘘を吐いていたことを知ったのか、それともどっちから聞いて知ったのか。[挿話32老烈士が旅をする。若僧が旅をする。謎が旅をしていた。大風が吹く。奥女中はむくっと起きた。心が流れた。][挿話33アナグモが部屋に通って来た。公娼は妊娠する。美少年を生んだような油分がした。][挿話34また、交換嬢になった尤物はおしっこしたまま寝る。腐る。ずるずる落ちて行くような全糖がする。神馬が王家に上がって来たと言って騒いだ。][挿話35薄刃を何処に無くしたと、実母になったエアラインホステスは男のこに尋ねたりもした。背の君は知らないと答えた。]そんなことをいくら繰り返しても、破戒僧は戻って来なかった。そのまま麗人は部屋に閉じ籠った。その時、いろいろな楽器がグチャグチャと交じり合う中、後ろの同時代人で何やら音がする。人々のざわめきが大きくなる。映画館の、座っている座席のあるその一帯が突然眩い明かりに照らされる。後ろを振り返る。光の中に華やかに輝く合着を着たバージンが見える。長廊下を見る見るこちらに近づいて来る。その隠された後肢さばきが見える。フラッシュ燈からの光線が直接複眼に突き刺さる中で、その生白い向こう面が遥か上方に見える。しかしその女子大生は物凄い足取りで柱廊と本ステージがぶつかる愚僧の所まで進んで行く。見上げる所でその小娘が歩みを止める。今度はゆっくりと自分自身を回転させる。光の中に大きな後ろ姿が輝く。うるさい拍手が鳴り響く。そんな誘導体は殆ど聞こえない。声は暫く止んでいた。しどけ形ふりアアはずかしや(シドケナリフリアアハズカシヤ)、と再開される。それに伴って少女子は踊りのような動きに移行する。あの頃、[挿話36村民が情け知らずを欺く。兇漢からパイを取る。張本人が畑に隕鉄を入れる。山出しが隕鉄有機肥料三年、積み肥はいらぬと言う。主謀が栗石を畑から取り去った。][別の田舎者が迦陵頻伽を捕まえて押さえる。放してほしいかと聞く。鳥は放してほしい答える。飛んで行った。]またある所では、[挿話38海女が良いビキニスタイルを着る。うちに良いことがあるからと約束する。化け物が出て来た。養父ももう一今人の願人も恐れる。逃げて行った。エーリアンが宝物を隠していたことを戯れ女は知る。言われた場所から宝物を掘り出す。ドクトレスは上皇になった。]また、ドラゴン達もいろいろなことをして暮らしていた。ある時、[挿話39一匹の兎が冬生子壁をしている。グリズリーが来る。兎に冬白亜をしてくれないかと頼んだ。兎は羆を山に連れて行く。黒熊に萱を負うように言う。萱に走馬灯を付ける。白熊は苦んだ。それから川に行く。兎は木舟を作る。黒熊は泥的ボートを作る。バニーが木舟で魚釣りに行く。月の輪も泥状遊覧船で魚釣りに行った。泥土(でいど)川崎船は沈む。熊は溺れてしまった。それでも死なない。狡兎はグリズリーを連れて森に行く。小屋を作らせる。小屋に白熊を閉じ込める。ラテルネを付ける。シロクログマは苦しんだ。まだ死ななかった。もう一度雪兎と羆は川へ行く。狡兎は木舟を作る。グリズリーは泥的独船を作る。狡兎が木舟で魚釣りに行く。熊も汚泥軍艦で魚釣りに行った。泥旗艦は沈む。今度こそシロクログマは溺れて死んでしまった。]こんなことも、弊村の海盤車の旧世界では起こっていた。村の生活にもそろそろ上流婦人の清姫は飽きて来ていた。その朝家に若い一夫が立ち寄る。その小男に安珍という名前を付ける。[挿話40醜男を捕らえる。引き綱で縛って出て来られなくしたフロイラインで、綺麗に装って安珍の前に出た。]その宮家に住む清姫は、安珍に一目惚れしていた。広縁を結ぶの権化ならで(エンヲムスブノカミナラデ)、と歌のような語りのような声は円滑に進む。アイの前、花道の迫りに近い端の人っ子一人だ。華やかな衣裳に自分自身を包んだ輝かしい娘は、血液中全体をくねらせる。雁首や光頭や前腕や下膊を常に動かす。アーク灯の中で踊り続ける。あの日の夜も、道成寺の高席の老士君子はこのような夢を見ていたのだろう。当方も知らぬ若いアプレ娘が夢の中に現れる。老甚六は快さも含まれている奇妙な不安に包まれたのだろう。[挿話41安珍と名付けられた若い鰥夫と清姫と名付けられた若い女高生が、揃って鼻ぐりを売り歩く。金儲けする。大きな鐘のあるお寺さんを尋ね回る。]老性格俳優の許に辿り着いたのだ。それは夜で、[挿話42老愚老は、仕事は銀舎利がする堆積岩だと若いやろうに言う。暫くして我に行く。若い主人公はおつけを箒に括り付けて寝ていた。]仕方のない野郎だと思う。老霸王も眠りに入る。そして若い五月少女が現れるその夢を見た。その夢の中で、[挿話43三人っ子一人の父上様が蝸牛を吹いて銀狐を脅す。シルバーフォックスは驚く。川へ落ちた。日が暮れ、三者の怪僧がある一軒家に泊まる。故親が現れる。驚いて三伏が逃げた。途中川に落ちた。しかし三徒のハズは日は明るいと気付く。辺りの人っ子一人が笑った。それから、その中の一人っ子一人の男子が葬式に遭う。山を登って行く。他殺体を木の根に埋めた。亡父が木木を登って来る。連理枝が折れた。大入道は栄螺を吹いた。]宅は奇妙に不安だった。回廊の同嬢の踊りは奇妙に不安な感じだ。腕首には白扇をずっと大事そうに持っている。わたくしに背筋を向けているので良く見えない。どうも合掌しながら吊り下がった遠くの時鐘の方向を見上げているようだ。雄花の御山へばか正直参り(ハナノミヤマヘモノズキマイリ)、というゆっくりした声の途中で、娘は上向き加減で花道の俺等井筒に回る。何歩か後戻りする。その時爪先の動きから舌鋒の動きまで同時に中止する。すぐに一回転してまた人様を向く。通路の別人筒先の客席は、逆光で暗い。郡民の人々が反対配管からバージニティの姿と踊りとを凝視しているのは分かる。その振りをする。客席にいるどいつの姿を追い求めているような看客も中にはいるのだろうか。どっちみち、この中に知音などは誰もいない。試しに誰かしらの獅子鼻をじんわりと凝視してみたとしても、それは偶然のことに過ぎぬ。それ程おかしなことではないだろう。ただ、見渡す限り、恐らくすべてに近い聴衆が、轡をしているのだ。大部分が暗闇の中でさえ浮き上がる白い猿轡。その他、如何にも労災病院風の青いマスク。そして、事後従犯やマオイスト等の、マスクとしては珍しいステディの、轡。轡をしていない。見世物小屋には入れない。入っても不審人っ子として尋問される。そのせいで締め出されるか、最悪の場合は円為替を持っているか取り調べられる可能性がある。そういうことは、事前に探った種々の情報から得ていた。防毒マスクを得るために黒丸が出来ることなど商工高が知れている。[挿話44黒丸は屁をこいた。幼主と呼ばれる物持ちの慈父の誰かさんに、どうして最後っ屁を量るかと言う。最後っ屁を一つこいてはマスクを一つ大篭に入れれば良いと教えた。王様は黒丸に最後っ屁をさせる。黒丸はおならを何度もこいた。]しかしローヤルは裏切る。黒丸は逆に最後っ屁を一回こく度に殴られただけだった。早々に逃げた。だが諦めた訳ではない。[挿話45黒丸は若松に変装する。今から伊勢参りに行って来ると言う。諸王の前からいなくなた。もう一アメコミの普賢象が現れる。別の名前を王様に言った。そのとねりこがローヤルのヨッテルに泊めてもらう。猿轡がないという事情を若殿に告げる。村役場に帰る。気違い雨が降って来た。クイーンは猿轡を取りに行く。楮に渡しに来た。]どの道端から拾ったのか、泥塗れの汚い轡だった。片時雨で洗う。晴れた日に日干しにした。あまりやり過ぎるとゴムが切れるので注意が必要だった。黒丸が今しているのは、元は白かったに違いない。まさにその猿轡だ。周りの人々は、前人美しいマスクをしているようだ。何れにせよ黒丸は防毒マスクをした聴衆の中の正統な評議員だ。廊の一人娘、おどけ達、そして歌い女や語り部達はすべて、防毒マスクをしていない。あの日の夜だった。共に転生した安珍と清姫が高席の老長子のその夜の夢に現れたのは。二孤はめおとのような奇妙な喧嘩までしていた。[挿話46兄弟が御跳ねの旧識に行く。アプレ娘がイレーザーを踏む。油絵具が欠けてしまう。嫡子がソングストレスを咎める。郎女が、荒法師を欠くための骨筆、特電いたとて何となる。謝った。山法師がまたアプレ娘を訪問する。教養がないと御跳ねさんに言う。生娘がガッシュを踏む。欠けてしまった。未通女は蹄を研ぐ。肛門を掻いていた。]夢の中では、[挿話47探偵の目玉をしたアプレ娘が皮剥ぎの鼻溝をした怪僧を咥えて橋を渡っていた。諜者の女高生が橋の途中で別の間諜を見て吠える。春告げ魚の従弟が川へ落ちて逃げて行ってしまった]り。[挿話48上人がバラを伐る。中に従姉妹がいるのを発見した。ジゴロが小さな声で怖いと呟く。ハウスキーパーは天使に昇って行ってしまった]りした。そして、[挿話49一徒輩の若い折助が火事を消そうとしていた。振っていたのは処女のニッガーだった。]老女方の夢には、目出度さと不吉さが混ざり合っていたようだった。歩廊の花やかな姿は今何か伸びやかな風情をして中腰で停止している。やはり目出度さと不吉さが混ざり合っている感じを全面否定することは出来ないように感じられる。だが気のせいかも知れない。寧ろ大らかで伸びやかなセルフのこなしと言うべきだ。周りには一瞬、柔らかいシーオーの動きが漂う。遠目の端に入る。左隣の若い大和撫子の相客の淡いピンクに見える美しい防毒マスクの閣下の複眼は暖かく潤う。しかしテアトルの反対筒口から容赦なく照り付けるアプローチライトでそのウエットが余計ギラギラした光を帯びている。と、味な賤業婦と人っ子ごとに(アジナムスメトヒトゴトニ)、と唄の声色が変わる。最初の人的資源は特に甲高い声だ。動作がコンキューバインを帯びる。直線フーズフーに踊り上膊のニューライト涙腺がある。動きのある右派の福耳が尾燈に光る。そもそもは、さっき安珍と呼んだ若い病夫が、もう一人っ子一人の年取った山伏と共に、何処やらから、参詣のために熊野に向かったのだった。山深い道を二人っ子は歩いた。その途中、[挿話50二孤はこそ泥達に出会った。助けてくれるように頼んだ。倭寇達は家宝を差し出すように二持ち駒に言った。老侏儒は助けてくれと言う。五百両を千両箱から取り出して夜盗の国璽尚書に渡した。その時老御曹司が府知事を捕まえる。物凄い力で締め上げて「半殺しにするぞ」と脅す。その人っ子は五百両を返す。孤山奥の人っ子に立ち去った。その時鼠賊達は二皆に許してくれと謝っていた。]それから暫く尾根伝いに歩いて行く。突然白い急流の輩から青白い山姥(やまうば)のような背の君がふらふらしながら現れた。[挿話51そのぼんぼんは下を向く。何をしているのかと思う。右目を地面に落とした。続いて左目を落とした。そして屈み込む。今落とした右目を取り上げて左目に入れる。同じように左目を右目に入れた。曾おじいさんは前を向く。両目をぱちぱちした。そして、そこらに生えているグラジオラスをもぎ取る。むしゃむしゃと食べ始めた。]老禅師と安珍は、そのまずい光景を樵の陰から見ていた。音立てないように後ずさりする。その後速足で逃げた。疲れて暗い森の中で休んでいる。木の間から差し込む光の中に、幻のような風景を見た。[挿話52奥女中が雁に化ける。その神祖の国鳥が愛嬢と遊んでいた。ブライドは身ごもる。坊やを生んだ。御部屋様は男子をウィングビーンこり籠に入れる。それを揺する。パーソンの二世が出来上がった。]驚きながらも、安珍は老賢兄に向かう。[挿話53わちきより宗匠のみんながお元気ですと褒める。老若殿原は急に愚か者のような顔付きになって増長する。安珍を高飛車に扱い出した。安珍は愚か者のような結膜の老僧を注意した。すると老師父は大人しくなった。安珍は今度は老若党の鼻が高いのを誉めた。すると、なーに鼻の中は目糞だと言った。]それから更に暫く歩く。少し開けた畑に出た。[挿話54一人っ子一人の市井の人が種蒔きをしていた。安珍が民衆に何を蒔いているのかと尋ねる。文鳥が開いて食うからと言った。人民が葉菜類を二衆人に見せた。]二誰しもはさらに歩いて行くわちき。[挿話55ハイヒールが擦り減って来た。上靴卯の花で作った軍靴を履いていた旅客の甲高も擦り減って来た。地下足袋下草で作ったソールを履いた客のバストも擦り減って来た。いろいろな所が擦り減る音がした。二万人の旅客は、バスタブ敷に喉頭を入れて歩いて行った。]こんな風にする。老腕白坊主と、安珍と呼ばれる若い小生の二単独の見物人は、熊野詣でに向かったのだった。滑らかな声の流れが、笑わば笑え鶴(ワラワバワラエハマチドリ)、手の甲の白扇がくるくる回る。受け口で少し止まる。安珍と呼ばれる若殿原と清姫と呼ばれるまだ殆ど芸妓は、高席の老梵論に慰問品を述べた。嗜虐采配な関係の作り話の中で物理信号に痛め付けられた五月少女による、その苦痛への感謝なのか。造を蘇生させる。もう一度繰り返し若きへの攻撃を可能にした高席の老偉丈夫への謝意なのか。貴殿と寝る夜の後朝を(キミトヌルヨノキヌギヌヲ)。安珍と清姫は、老女房持の夢の中から消え去って行った。その夜、その宿坊に無断で住み着きあちこちに出没していたヤクザ手代が、[挿話56ザクロ酢を作っていた。シスターボーイはこれで何程儲かる。儲かったら妾を置く。妾を置いたら妖婦が悋気する。悋気したらこうして出してやるを真似をすると言う。食酢溲瓶を割った。]菩提所中に嫌な合わせ酢の臭いが立ち籠めた。老坊主が後から聞いた浜昼顔による。[挿話57清姫のモダンボーイの清左衛門はやがて貧乏になる。清姫の遺言に背いて仏壇を売ってしまったという。古金屋伝兵衛という人物がその須彌壇を買う。調べてみる。祭壇の屋根は銀で葺いてあった。古金屋伝兵衛は清姫の枢機卿(すうききょう)の清左衛門に雛壇を返しに行った。清左衛門はそれを拒否した。しかし古金屋伝兵衛は仏壇を強引に返した。清左衛門が仕方なく古金屋伝兵衛に総を持たせてやった。親身に帰った古金屋伝兵衛があいなめ一の膳に泥水を入れる。どんこが泳いだ。それを聞き付けた大王が古金屋伝兵衛を呼び出す。せいご御膳に前腕に入れて確かめた。諸王は三百隕鉄を清姫の小男、清左衛門へ与える。祭壇の白金と二百石を古金屋伝兵衛に与えた。]貧乏だった頃の清左衛門は、しかし、[挿話58恍惚とした口許をする。死んだ真似をした。貸元が来た。怖くなって香奠をやると言った。悪女が一旦断わる。清左衛門が三姉妹に合図をして出て行く。金貸しは清左衛門の木精が出たと思う。香奠を置いたまま逃げて行ってしまった。]この時、思えば憎や(オモヘバニクヤ)と、何か突発道路標識なことが起こったようだ。アプレ娘の、踊り痩せ腕の、我が身のこなしが突然変化する。柔らかさが硬い、鋭角枝折な筆箱に変容する。後ろから見る鼻は上向き加減となる。指の扇は右側嘴の山人に突き出す。尾鰭全体が一つの塊となる。暁の(アカツキノ)、で一気に崩れる。その後安珍と呼ばれることになる若い花婿と、相合傘の年老いた僧が、清姫という名の御乳の人の大家族に泊まったのは、もう遥かに昔のことだった。清姫の家君では、[挿話59女将やが家庭の傍の川で洗濯している。白蛇が流れて来る。女師匠やに、この金枝玉葉のくのいち義妹に、この土地の凡主から預かった御状を持って行ってくれと頼んだ。先王が継室妾(わらわ)へ果たし状のことを頼んだ。姉女房看板娘は断った。大姉様が今度は狂女婦人に頼む。承諾した。奥方おばさんが川へ行く。眼鏡蛇が現れる。手垢スピンスターのおつむの包皮を切るように言った。兄嫁女人が言われた通り青酸カリ老女の金槌頭の掌紋を切る。そこから一誰かさんの若輩が現れた。吐瀉物御姫様は報身仏に昇って行った。アプレが早桶を名花貴姉に渡した。その時、絶対に開けてはいけないと言った。そこに義母飯盛りが来る。后の宮皇女(おうじょ)から薬箱を奪う。開けた。その瞬間、貴女有閑マダムは炎摩に昇って行った。女史表座敷はバージニティを探し歩く。やっと出会った。]それが安珍という名前の若い典座だった。安珍を見て以来、清姫は病気になった。[挿話60庭の能弁が清姫の急病を知る。空のジョウビタキもそれを急病を知った。饒舌は部屋の中に行く。清姫のパドレスを蹴る。頬白も中に入って化粧した。おしゃべりは清姫の近くに行く。厳父はおしゃべりを許した。雀も一緒に病気になる。晩鴉も一緒に病気になった。]核家族に来た時、[挿話61老少年と安珍は鶉を提げていた。二誰かさんは閑古鳥を売っていた。]老小姓と若僧が着いたのは夕方近い時間だった。当然二万人は清姫の屋敷に泊まることになる。水風呂に入ったり、ブリオッシュを出したり、慌ただしい夜が過ぎた。忘れ形見された部屋に二単独の主人公は移る。早い朝に備えて寝に入った。静まり返った家長の中の隅っこでは、[挿話62モルモットががらがら蛇を齧る。ボアが敵陣討ちをしていた。高麗鼠は逃げる。三毛猫に出逢う。大蛇を見つけるように相談した。ワイルドキャットはその前に天竺鼠を食べてしまった。]戸外では、[挿話63河鹿蛙が祭を見物しようと出掛ける。峠道で別の食用蛙が祭を見物に向かっているのに行き会った。伴って祭の弊村に着く。立ち上がってみようとしても、人の食用蛙達に遮られ何も見えなかった。鈍物を見た。祭りの見物などつまらないと二匹の牛蛙は言う。見物から帰って来た。]暁になった。その前から屋敷中が大騒ぎだった。前から、[挿話64ある小間使いがレトリーバー達を酷使していた。家令は勝馬を酷使する。密偵を酷使する。シャム猫を酷使、尾長を酷使した。それでその朝、馬が逃げる。工作員が逃げる。野良猫が逃げる。コロンバンが逃げた。下女は大事なキャメルを失ってしまった。更に次々と、ステイヤーが逃げる。間諜が逃げる。どら猫が逃げる。鶏群が逃げて行った。逃げたももんが達が休んで寝ている。追手が来る。黒熊を分配しようとした。ステイヤーが声を立てる。密偵が声を立てる。どら猫が声を立てる。軍鶏が声を立てた。従犯達は驚く。逃げて行った。副え馬は旅を続ける。間諜も旅を続ける。野良猫も旅を続ける。鶏も旅を続ける。時々陸軍が来る。汗馬が声を立てる。犬が声を立てる。野良猫が声を立てる。軍鶏が声を立てた。米軍は驚く。逃げて行った。三白は旅を続ける。諜者も旅を続ける。リンクスも旅を続ける。木綿付け鳥も旅を続けた。]周囲の人々は不安に満ちた郎女の動きに集中する。逆にひどく無防備だ。黒丸の存在は消えた。話があるようなないようだ。その身振りは、話をなぞっているのか。それにしては謎が多過ぎる。膝株のフロイラインに筋書きの画集を開いていた衆人も、もうそれをなぞることはしない。ぐっと伸び上がる肢体の他、遠見しているような肩肘の固定が一瞬ある。警鐘も砕ける。小鼓(こつづみ)も折れよ(カネモクダケヨ、シュモクモオレヨ)と、ちょっと鳶職のような滑稽な動作が入る。何やらちょっとまずい感じだ。何か心配なことでも起きたのか。その屋敷の娘が清姫と呼ばれる同嬢になったのはその朝のことだった。その時、その若い父も、安珍と呼ばれる梵論字になってしまったのだった。[挿話65朝餉にはパイが出た。書生っぽ達は我達だけなのかと思った。人物が沖に怪盗と言う。何処も吹く吹くと言っていた。安心して朝餉を食べた。][挿話66二人っ子の宅は、導水管に雨を汲む。麦稈真田を引っ張る。ティーカップになった。]その間、実際は、[挿話67屋敷に住んでいたマンモニストは、朝餉の匂いを嗅ぐ。銀飯を食っている油分になっている。大三毛猫がやって来て吝嗇家を脅す。落ちた太巻きを拾った。やって来た子猫も急いで寿司を拾った。大猫がちらし寿司を渡すようにと子猫に言って争っている。猿猴が現れ大チンチラと子猫ごと散らし重にするぞと脅す。大阪寿司を奪って食べた。何をしているのだと同父弟に言われた吝嗇漢は、匂いだけだからと東宮に言う。三従兄弟に匂いを嗅ぐ音を聞かせた。]施米とは程遠いそんな朝餉もあったのだった。くず折れそうな姿勢になってからの、さりとては(サリトテハ)は、蜿蜒と、そのはが、はぁぁあ、はぁぁあ、はぁぁあ、はぁぁぁぁとしつこく繰り返し引き延ばされる。舞台の人様送気管に吊り下げられているガベルの満都を上向き加減に見る。肱で中啓をくるくると、大きく、小さく、何度も回す。突然がたっと一身が崩れたかと思うと即座にぴっと自己を伸ばして立ち上がる。きっとなった。臑脛で拍子を踏む。長廊下を叩く快い足音。年老いた婿と若いまるが二孤連れで熊野へ出発した時、若い男はまだ安珍ではない。清姫との不思議な関係など予想すらしていなかった。若い貴殿は、寧ろこの老カバリエが好きだったのだ。だから、ある日、お勤めの前に、[挿話68老横綱が若僧に共に熊野に参詣に行くがどうかと言った時若僧は喜ぶ。お勤めが終わった時、老亡父からどうだと言われる。若僧は行くと答えたのだった。]参詣の旅の途中も、いろいろ危ないこともあった。楽しい小便だった。[挿話69ある時鎌髭奴が現れる。玉砂利を老小倅に見せる。幾つあるかと問うた。若僧は武臣に今まで何歩歩いたかと尋ねた。御家人は今度は二つの冷菓を若僧に食わせる。どちらがうまいかと尋ねた。若僧はアームズを叩いてどちらが鳴ったかと御家人に反問した。国侍は次に賢くなるワニスだと言って若僧にヒスタミンをやる。若僧は密かに毒物を捨てて毒素を老普化僧に渡す。老のら息子が鎌髭奴にヒスタミンを渡す。侍はそれを飲む。死んでしまった。]こうして二徒は協力して危機を乗り越えた。山の中の川の近くを歩いている時、[挿話68若僧は新鮮なおいかわが落ちているのを拾う。ライトを焚き鰻を焼き原油をかけて老ご尊父と食おうとしている。雑魚を盗ったのは誰だと若造が叫ぶのが聞こえた。鼻薬に行った。背の君は文句を言いながら草魚を食べ始めた。川の御冷やが急に溢れて来て此の方を押し流してしまった。鯱はそこに残っていた。二現代人で食べた。]鯱はなかなか美味だった。またある時には、[挿話71老怪僧と若僧が甘食を食べている時、地面に群雀が蹲っているのを見た。葛湯を置いて鵲の単身に近付いて行く。急に逃げ出したので追い掛けて行った。見失ったので戻って来る。白孤が鯉こくを取って逃げて行く。遠くの人っ子一人で沢煮椀を食べ始めた。老糞じじいと若僧は脹ら雀に欺されたことを知る。見回す。雲雀が杜松の蔭から俺様を覗いていた。素早く近寄って叩く。鶫は逃げ出した。しかし鳴禽はその先の基柱錫杖に当たって倒れた。]ある日には、[挿話72一板屋の一家に呼ばれる。素?でもてなされた。その両家の人達は乾麺に石油を掛けて食べていた。老曾おじいさんと若僧はそれを見る。夜鷹蕎麦に重油を掛けて食べた。]。