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上原ひろみ・盛岡公演(2023.12.17)―素人の感想

盛岡駅西口正面にある市民文化ホールで、上原ひろみのジャズを聴いた。

この公演は、今回の日本ツアー(Japan Tour 2023 SONICWONDRRLAND)の終盤の方に当たり、札幌と大阪の間に盛岡公演が挟まれている。遠征先を見ると、東京より西の方が多く、北国としては、仙台、札幌、盛岡が入っていた。四人編成で、ピアノとキーボードの上原ひろみの他、ベースがHadrien Feraud、ドラムがGene Coye、トランペットがAdam O`Farrillから成るカルテットである。

メンバー(左から、トランペット、ドラムス、ピアノ+キーボード、ベース、各奏者)

いきなり個人的な話で恐縮ですが、少しジャズと私について、触れておく。自分の備忘録のためにも。
2005年に盛岡に来てからは、歌舞伎中心生活になってしまい、ジャズからは遠ざかっていたが、1980年代後半頃からジャズ中心生活になり、特に山梨県の甲府に住んでいた西暦2000年前後の数年間は、ジャズのライブハウスに入り浸るような生活を送っていた。
その頃、その後も暫くの間は、現在流行物を中心にジャズのアルバムもせっせと買い集めていたが、盛岡で被災した2011年の東日本大震災で、自宅と大学に置いてあった大量のCDが破損して以来、アルバムを買う習慣は徐々になくなって行った。
歌舞伎座等に歌舞伎を見に行くついでに、ジャズのライブハウスやジャズ喫茶等に立ち寄ることもあったが、徐々にそれも少なくなった。
そういう訳で、今どんなジャズが流行っているのか、どんな演奏者や歌手がいるのか、最近のジャズの状況は殆ど把握していない。
日本のジャズピアニストで、出る度にアルバムを買ったのは、大西順子、山中千尋や上原ひろみの途中までで、その後はすっかり止まっている。

またジャズは比較的小さな店のライブで聞く、という原則のようなものを持っていた。
横浜にいた時は、前に何かの記事で紹介したダウンビートというジャズ喫茶や、ドルフィーというライブハウスに通っていた。

その他、御茶ノ水や吉祥寺によく通った。
高田馬場、早稲田通りのイントロという地下の小さな店にもよく行った。

甲府にいた時は、アローンというジャズハウスに一時期入り浸り、ボンベイサファイアを飲みながら毎日のように聞いていた。著名な人もよく来て演奏した。

甲府駅の近くにはその頃、地元の時計店の方が、商売の副業(本業? 道楽?)でやっていた、何とも巨大なジャズ喫茶があった。恐らく日本一広いジャズ喫茶だったのではないか。店の名は忘れてしまった。「コットンハウス」とか名付けていたのではなかったろうか???
この店では、トランペットの近藤等則と舞踊家の田中泯が来て、手の届く所でパフォーマンスをやったこともある。
甲府では、その時計店の方がやっていたラジオのジャズ番組にも出させていただいた。
私が選曲し、ジョバンニ・ミラバッシがチリの革命歌をピアノソロで弾いた曲、マイルス・デイヴィスのパンゲアの最初のところ、フィニアス・ニューボーンジュニアの確かFor Carlというピアノ曲、そしてアン・バートンのThis is a lovely wayで始まる歌で締めた。
甲府の商店街で流れたらしい。
また、出張のたびに地元のライブハウスを訪ねるのが癖になった。札幌や新潟や仙台やその他あちこちに行ったと思う。
その代わり今回のように大ホールで聞くことはあまりなかった。
1980年代にソニー・ロリンズを新宿の厚生年金会館で聞いて衝撃を受けて以来、大ホールでのジャズ「鑑賞」は数える程しかない。マイルス・デイヴィスは、聞きに行こうとしていたところ、いきなり死んでしまった。

というわけで、私はジャズのただの「愛好家」で、研究でジャズっぽい音楽を扱ったことはあるが、ジャズについては評論すら書いたことがないので、以下はただの僭越な感想に過ぎない。

二階の前の方から舞台を見る

前半の二曲は、いきなり始まってそのまま勢いで突っ走るタイプの曲で、少なくとも私が知っている時代までは現代ジャズの主流であった気がする、後期マイルス・デイヴィス流の、リズム感溢れる、そして時々、上に甲府のラジオ番組でかけたと書いた「パンゲア」風の邪悪な感じが混じるような、そんな曲調であった。
コンサートが始まり、いきなり、一気に音楽の世界に連れて行かれる。
もう一つの特徴は、ピアノやキーボードと共に、主役はトランペットで、時々ミュートを付けた、マイルス流のフヨフヨという音も鳴った。
上原はしばしばピアノとキーボードを両天秤で演奏し、また全体を通じて、半分位は立って弾いていたのではなかろうか。

その後、メンバーの紹介と、短い話が入った。今回いろいろ回ったが、その中では、米子、仙台、盛岡は、ジャズが街に浸透している、という感想もあった。
私は個人的に、盛岡に来てからは、ジャズからはすっかり遠のいてしまった。盛岡には有名な開運橋ジョニーの他にも、幾つかのジャズハウスやジャズ喫茶があり、何度か行ったこともある。
特にジョニーでは、秋吉敏子氏の演奏を聞き、終わってから偶然隣席に座って食事していた秋吉氏から、いろいろお話を伺ったこともある。一緒に写真も撮っていただいた。たまたま、名古屋か何処かのブルーノートで、Monday満ちるを聞いたので、そのことも話したかも知れない。
しかしその程度で、ジャズが街に浸透しているという感じは持っていなかった。恐らく、私自身が、ジャズから遠のいていたことが、大きいのだろう。

前半では、その後、一転してスローなトランペットのメロディーから入る曲に変わったが、ここでも主役はトランペットであった。
このまま最後まで行くのかと一瞬思ったが、実はそうではなく、後半には全く別の演出が入る。
確か前半の最後は、ゆっくりと始まり、そして徐々に盛り上げて行き、そして最後はクライマックスの極致に達する、というタイプの曲。
ここで、上原のあの、反復畳み掛け盛り上げの技法が全貌を現わし、殆ど立って、ピアノ、キーボード両天秤で弾いていた。
ただ、最初はキーボードの、あの後期もしくは中期マイルス流の、バリバリ邪悪な爆音から始まり、会場の空気も結構張り詰めたように思う。

そこで20分の休憩を挟んで、後半となる。
ライブハウスなら、飲んだり食ったりの合間の演奏で、またマイルス・デイヴィスの挿話では、「うっせい、バカ野郎」ということになるのだが、この市民文化ホールの客席空間では、飲食禁止なので、私も含め、みんな休み時間も大人しく過ごしていた。
ただ、トイレの数が少ないらしく、男性トイレさえ長蛇の列だったのには驚いた。いつも感じることだが、特に女性の場合、会場でのトイレ事情は大変だ。
このビルは、日頃私が仕事場として使っている、「アイーナ」と呼ばれる県民会館の隣にあり、しょっちゅう出入りしているせいで構造を知っているので、私は一回会場の外に出て、空いているトイレに行った。

また確か先月の市川海老蔵の時もそうだったが、海老蔵や上原ひろみ級の大物であっても、会場の外に広告は異様に少なかった。指定席で満席であるせいか、ネットで宣伝をしているせいなのか、分からない。大物だから余計に少ない、ということも、あり得る。
岩手県に来てよく感じるのは、何事につけ、広告・宣伝が、控え目である、ということだった。そういう県民性のせいなのか。あるいは、なにか規制でもあるのか。
広告・宣伝が控え目、というのが悪く出ると、例えばバスの路線図や、駅の構内図などが、小さ過ぎるなど不親切で、殆ど実際上の役に立たない、といったことにつながる。

前半の最初の三曲までは、トランペットがピアノ・キーボードと共に主役級の位置にあったが、後半になると雰囲気が変わり、何曲目か忘れたが、ジャズの一つの聴き所である、それぞれのソロが盛大に披露されるという曲があった。
ピアノ+キーボードから始まり、トランペット、ベースと続いたが、ここまでは普通であった。そしてドラムス。
普通なら、大体五分程度だろう。それがなかなか終わらない。10分以上続き、それでも終わらない。会場はかなり前から、文字通り興奮の渦に包まれている。
歌舞伎の掛け声ではないが、あちこちから、ヘーイという声も挙がっている。ライブハウスに入り浸っていた昔を思い出す。
シンバルを静かに鳴らすところから始まり、手も足もすべて駆使した大音量を経て、再び静かになる、これが15分近く続いたと思う。
Gene Coyeのドラム、圧巻であった。

これはライブの醍醐味であろう。録音版ではこうは行かない。
昔、ソニー・ロリンズのグループの生演奏に圧倒され、同じ曲のアルバムを買った。しかしアルバムの方は、作り込まれている、という意味では、「作品」となっているが、ライブのあの、その場の雰囲気をも味方に付けて乗りまくる、時間もオーバーする、あの感じが、消えてしまっていた。当たり前だが。
ある時、たまたま立ち寄った仙台の晩翠通りというところにあるライブハウスで、規定のプログラムが終わり、客がみんな帰って、私一人酒を飲みながらだらだら居残っていたら、追い出されるのかと思いきや、演奏の方が(確かギターの人だったと思う)、「これからが本番だ」とか言いながら、朝方まで他の何人かと、客は私一人、あとは店の人と関係者のみ、という極上のライブを聞かせてくれた。セッションの練習代わりだったのかも知れないが。それがジャズの醍醐味だ。

上原カルテットのコンサートは、会場の時間も決まっているので、ハプニングは避けなければならないし、ドラムスのその蜿蜒たるソロも、毎日の既定路線だったのかも知れないが、しかし仮にそうだったとしても、流石に10分を超えると、このジャズにとっては大き過ぎる会場も、小さなライブハウス的雰囲気になる。
最初の方のトランペットを含め、ジャズの特性を最大限に生かす演出としても、上原カルテット、流石であった。

全体として、いきなり始まる一発型の曲、全体が基本的にスローで抒情的な曲、静かに始まり極限まで盛り上がる曲、途中の各楽器のソロパートの時間を最大限に用意した曲、と幾つかの曲のタイプを、バランス良く配したコンサートで、久しぶりのジャズライブ、楽しかった。
曲目はSonicWonderlandというアルバムに準拠しているのだろうが、それ自体は、聞いていないので、分からない。

会場で買ったパンフレットには、メンバー紹介などと共に、上原ひろみの長いインタビュー記事が載っていて、楽しめる。(綺麗な本なので、表紙のみ、紹介させていただきます。)

今回の日本ツアーのパンフレット・表紙

ついでに、Tシャツも買ってしまった。

Tシャツ(表)

黄色い車で行脚してるのだろうか?



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