世の中には青色が溢れている 青い色を見ると、なんだかうれしくなる 青色といえば、海、青い目、青い車、 それぐらいしか思い浮かばなかった 少しがっかりして歩いていたら、 頭の上に真っ青な空が広がっていた 世の中には赤色が溢れている 赤い色を見ると、なんだか元気になる 赤色といえば、夕焼け、バラの花、赤いシャツ、 それぐらいしか思い浮かばなかった 少しがっかりして歩いていたら、 目の前に寒椿の花が咲いていた 世の中には白色が溢れている 白い色を見ると、なんだか落ち着いてくる
通りを歩いていたら、一人の女とすれ違った 知らない女だった でもそれが実は昔良く知っていた女なんじゃないかと思った 名前も顔も覚えていない女と何十年ぶりにすれ違ったんじゃないか そんな可能性だって何億分の一ぐらいはあるんじゃないか それぐらい珍しいことは、世の中にいっぱいあるじゃないか そう思うと僕は嬉しくなり、振り返ることなく歩いて行った 通りを歩いていたら、一匹の犬とすれ違った 知らない犬だった でもそれが実は昔飼ってた犬なんじゃないかと思った 昔飼ってた犬が生まれ変わ
朝、駅に向かっていたら、木々の間から風が吹いてきた 向こう側から自転車に乗った女がきた 昔の近所の野球好きのおばさんそっくりだった 「ねえ、今日はどっちが勝つと思う?」 そう言ってその女は通り過ぎて行った すると風は止み、僕は駅へと向かった 朝、電車に乗っていたら、窓の隙間から風が吹いてきた 目の前に体の大きい男がきた 昔のケンカっぱやい友だちそっくりだった 「おい、お前、いい気になってんじゃねえぞ」 そう言ってその男は次の駅で降りて行った すると風は止み、僕は眠りについた
黒は白、白は黒 どっちも同じ、見る時による 嘘は本当、本当は嘘 どっちも同じ、見る場所による 悪は善、善は悪 どっちも同じ、見る人による
空は青色、青いのは空 空に浮かぶ雲は白色、白いのは雲 海は青色、青いのは海 海に立つ波は白色、白いのは波 木の葉は緑色、緑なのは木の葉 木の葉に滴る露は白色、白いのは露 僕は何色?何色が僕? 僕の目から落ちる涙は白色、白いのは涙
秋の夜長に目を覚ます どこからともなく音がする それは電車の通る音だった こんな時間に電車など通らないはずだけど でもそれは懐かしくて心休まる音だった やがて音は聞こえなくなり、夜も更けていった 秋の夜長に目を覚ます どこからともなく音がする それは家の柱の鼓動の音だった 朝や昼間には聞いた覚えはないはずだけど でもそれは素朴で柔らかな心休まる音だった やがて音は聞こえなくなり、夜も更けていった
昔、山あいのある村に、いじわるな鳥がいました。いつも高い木の上にとまって、村人たちが働いているのを見おろしていました。 村人たちは、毎日一生懸命に美味しい野菜を作っていたのですが、いじわるな鳥は手伝うこともしないで、じっと村人たちを見おろしているだけでした。 「まったく、鳥の奴め、少しは手伝ったらどうなんだ。」 「俺たちはこんなに汗をかいてるのに、奴はいつも涼しい顔をして見ているだけだ。」 このように村人たちはいじわるな鳥の悪口を言い合っていました。でもいじわるな鳥はと
会社員だったころ、早く会社に行きたかった別に会社が好きだったわけじゃない でも何故か早く家を出たかった 会社にいる時、早く家に帰りたかった 別に会社が嫌いだったわけじゃない でも何故か早く会社を出たかった 若い頃、早く旅行に行きたいと思っていた パリやローマに行くのが楽しみだった でも行ってみると早く家に帰りたくなった
僕らは毎日ページをめくる 次のページにはたいてい見たくない風景がのっている それでも僕らは毎日ページをめくる 僕らは毎日ページをめくる 次のページにはたいてい思い出したくない話がのっている それでも僕らは毎日ページをめくる 僕らは毎日ページをめくる 次のページには時々見たことのない風景が見える だから僕らは毎日ページをめくる
いつもその湖畔に行くと、一隻のボートがあった 色落ちした古くて白い手漕ぎボートだった 一体いつからここにあるんだろう いつもその湖畔に行くと、一隻のボートがあった 色落ちした古くて白い手漕ぎボートだった 一体いつまでここにあるんだろう 夢の中でその湖畔に行くと、一隻のボートがあった 色落ちした古くて白い手漕ぎボートだった 僕はいつからここにいるんだろう 夢の中でその湖畔に行くと、一隻のボートがあった 色落ちした古くて白い手漕ぎボートだった 僕はいつまでここにいるんだろう
日が暮れて 醒めた目をした 鹿太郎 振り向きもせず 凛々と鳴く
目を閉じると、海が見えた その時僕は、解放された
白い家の窓が開いている 日が照り盛る夏の午後 通りには誰一人いない 白い家の窓が開いている 蝉たちが鳴く夏の午後 入道雲が広がっている 白い家の窓が開いている 子供たちはみんな家にいる夏の午後 部屋の窓には海が映っている
夏を楽しむ、夏を憂う、夏を愛しむ それでも夏は過ぎてゆく 秋と冬が好きで夏が嫌い でも記憶にあるのは夏の思い出ばかり 夏に苦しむ、夏を想う、夏を嫌う それでも夏は過ぎてゆく
目を閉じると、そのネズミがいた じっと立ったままこっちを見ていた 何か言いたげだった 「ネズミさん、どうしたの?何か言いたいの?」 するとそのネズミは声を出さずに口を動かした 僕は目を開けて、聞き取ろうとした 目を開けると、そのネズミは地平の向こうに走って行った 目を閉じると、そのネズミがいた じっと立ったままこっちを見ていた 何か言いたげだった 「ネズミさん、どうしたの?何か言いたいの?」 するとそのネズミは声を出さずに口を動かした 僕は目を開けて、聞き取ろうとした 目を
左からモーツァルトが聞こえてきて、右から鳥がさえずる声が聞こえてきた 聞き入ったのは、鳥の声だった でもその鳥の声を思い出す時、聞こえてくるのはモーツァルトだった 前からモーツァルトが聞こえてきて、後ろから風がそよぐ音が聞こえてきた 聞き入ったのは、風の音だった でもその風の音を思い出す時、聞こえてくるのはモーツァルトだった 鳥の声を聞いても、風の音には聞こえない 風の音を聞いても、鳥の声には聞こえない モーツァルトは何にでも聞こえる モーツァルトの音は不思議な音だ