サントリー美術館(聖徳太子 日出づる処の天子)〜フジフィルムスクエア(東京都港区・六本木駅)〜旧芝離宮恩賜庭園(東京都港区・浜松町駅)
・サントリー美術館(聖徳太子 日出づる処の天子)
前回おとずれたときに休館の憂き目に遭ったサントリー美術館。満を持して訪れる。
西洋美術、日本画、現代アート、建築、文学、工芸、茶器、音楽、博物館その他、ジャンルを無差別に食い散らかしている感がある自身の鑑賞スタンスの中でも特に敷居の高い歴史。聖徳太子の時代である飛鳥時代となるとさっぱりである。なぜここをチョイスしたかというと単純に手持ちのチケット有効期限が切れそうだったのが主な理由なのだけれど、結論から言うと、行ってよかった。美術品が多く展示されているのもそうだけれど、一つ一つの説明がとても丁寧で学芸員の方の仕事っぷりに感心しっぱなしだった。
2021年から翌年にかけて聖徳太子が没してから1400年の節目にあたるそうで、聖徳太子の建立した四天王寺をはじめ様々な催しが行われており、この展覧会もその一つ。よくよく考えてみれば1400年も前の人物をテーマにした作品が今でも残っているのは凄いことで、例えば自分の作ったもの(文章でも作品でもなんでも)が1400年後にまで残っているか? とすればまずありえないわけで、それだけでも貴重な体験だし、日本文化とは切り離せない仏教においての祖ともいえる人物。かつては日本紙幣の肖像にもなったこともあり、確かに聖徳太子あるいは厩戸皇子は誰もが名前くらいは知っている。
用明天皇の皇子として生まれ、父の死後は叔母にあたる推古天皇の摂政として政治を行ったとされる聖徳太子。現在では虚構説が指摘されたりと謎めいた人物でもある。実在はともあれ、今回の展覧会では聖徳太子の行った痕跡、聖徳太子を採り上げた絵画や木像などが多く展示されている。
中でも何帖もの掛け軸に生涯が描かれた「聖徳太子絵伝」は、各所に点在している掛け軸を組み合わせて一生涯となるように仮想している今回の目玉とも言える企画で、これを各所から借り受け、生涯を追えるように組み合わせ、一つ一つに解説を入れるというその労力にひたすら脱帽である。その他にもしれっと国宝や重要美術品が多く並んでいるのも驚く。
仏教を取り入れた聖徳太子はやがて太子自身への信仰・崇拝の対象ともなって行く。特に奈良、平安、鎌倉の時代に隆盛した仏教においても主要な人物として様々な書にも記されるようになる。このあたりの神格化ももしかしたら非実在説を裏付ける一因なのかもしれない。
太子が建立した四天王寺の名品も展示されている。技術の粋を集めた工芸美術品など、見ていてため息が出るほどの精巧さで、いいもの見たな、って感じになる。四天王寺で行われる舞楽の用具も展示されていて面白い。
終盤には今回のタイトルにもなっている山岸凉子『日出処の天子』の原画が展示されている。聖徳太子やそれを取り巻く蘇我氏の問題など、乙巳の変(大化の改新)に至るまでの歴史が耽美な筆致で描かれていて興味深い。確か本棚のどこかに眠っているはずなので読み直してみようと思った。
ちなみに6階に上ると四天王寺についての映像が放映されている。また日によっては同じフロアにある茶室「玄鳥庵」で茶席が楽しめるらしい。ここは知らなかった。トイレはいずれの階も安定のウォシュレット式。
・フジフィルムスクエア(師弟、それぞれの写真表現)
フジフィルムスクエアの企画展では、「師弟、それぞれの写真表現」と題して、写真家の師匠と弟子との作品を並べて展示している。木村伊兵衛、森山大道、荒木経惟、篠山紀信、細江英公、大辻清司といった写真家と、その師匠・弟子、あるいは関係した人物の作品を並べて展示し、それぞれの作風を対比しながら鑑賞するのも面白いが、それぞれの作品がそもそも魅力的なので、単体でもじっくりと楽しむことができる。モノクロ写真なのもまた力強い。
同じスペースにある資料館も 前回おとずれた時にはそれほど見物者はいなかった印象だったのだけれど、今回は結構な人数の見物者がいて、日常が戻ってきたことを肌で感じている。ちなみに資料館は希望者にはコンシェルジュによるカメラの歴史などの説明もしてくれるそう。
スクエアの中には他に3つのギャラリースペースがあり、報道写真展とアマチュア写真グループの発表会が行われていたが、報道写真の方は週刊誌などの写真に賞を与える、といった趣でゴシップ記事などが中心だったため正直なところあまりシンパシーを感じられなかった。
もう1つのスペースでは本間理恵子という写真家の展示が行われている。
伊坂幸太郎や彩瀬まる、白井智之といった小説家の本の表紙なども手掛ける写真家だそうで、透明のキューブに詰まった女性像などメッセージ性の強い作風が多く展示されている。こちらはなかなか面白かった。人物像もさることながらロケーションが抜群で、被写体をイメージしながらこういった場所を選ぶのは面白いだろうな、と感じる。そこに芸術性を盛り込ませるのも技術がなせる技かもしれない。カラー写真だからこその美しさ(淡白さというべきか)がそれを引き立たせる。
・旧芝離宮恩賜庭園
おそらく最後に訪れたのが10年くらい前、右も左もわからないままフラッと立ち寄ったあの頃に比べて、今はそれなりに庭園を鑑賞する審美眼は備わってきていると信じたいがゆえに訪れた、浜松町駅から歩いてすぐにある庭園。近くにもっと敷地の広い浜離宮恩賜庭園があるため見逃しがちな場所だけれど、どうしてなかなか、散歩して鑑賞するには充分な広さである。
ここでは何と言っても西湖の堤(杭州の堤を模した石造りの堤)が魅力的で、小石川後楽園にも似た作庭がされているので、庭園としてのブームみたいなものがあるのかもしれない。
もともとは江戸幕府の老中・大久保家の大名庭園で、幕末には紀州徳川家、有栖川宮家、宮内省といったところが所有したという歴史がある。関東大震災で建物と樹木のほとんどを消失したものの、旧芝離宮恩賜庭園として復旧・整備されて歴史は100年近くに及ぶという。
これで都立文化財に指定されている9つの庭園のうち7つを制覇。残るは向島百花園と殿ヶ谷戸庭園。どちらも生活圏から遠いので、いつになるか。ちなみに9つのうち4つが岩崎家が関連している。財閥の力をここでも感じる。