八王子夢美術館(東京都八王子市・八王子駅 月岡芳年展)
企画展として月岡芳年の展覧会を行なっている。同じ八王子で開催されている東京富士美術館の版画展と併せてぜひ訪れたいところ。北斎・広重と吉田博・川瀬巴水を結ぶミッシングリンクとして月岡芳年の作品を見るというのも粋なものである。これは是が非でも訪れなくてはならないと意気込んで訪問。
最後の浮世絵師と言われる月岡芳年。彼の作品というと無惨絵が有名ではあるけれど、今回はそれよりも後期の浮世絵師として脂が乗ってからの作品が中心となっている。無惨絵で描いてきた残酷な描写を華麗に昇華した作品の変遷を見ることができるというのが今回のポイントで、まず最初は武者絵ということで武士の絵を中心に描いている。鬼若丸や怪童丸といった日本古来の物語に登場する人物から、八幡太郎義家、上杉謙信、蘇我兄弟といった実在の人物を描いた作品、変わったところでは水滸伝の人物なんかも描いている。水滸伝は江戸時代に爆発的な人気を誇った小説なのでここでは珍しくない。
次に真骨頂とも言えるのが三十六怪撰と呼ばれる物ノ怪のシリーズで、ここでは妖怪、怨霊、怪談といった題材を採用している。舌切り雀から、文福茶釜、牡丹灯籠、番町皿屋敷といった題材はかなりの不気味さを持っている中に、ある種のコミカルさも持ち合わせており、師匠の歌川国芳っぽさもここでは垣間見えるかもしれない。記憶に残るのが「奥州安達がはらひとつ家の図」で、逆さ吊りにされた臨月の妊婦を殺そうとする鬼婆の図である。実は親子なのにそれに気づいていないというとても切ない物語で、その惨劇を予感させる衝撃的なシーンを切り取っていて必見。
月岡芳年は婦人図を描くのにも長けていて、その妖艶を次のコーナーで特集している。江戸の色々な町にいる人気な女性と月ごとの風景を軽やかに描く『東京自慢十二ヶ月』や、暗さう、あつさう、にくらしさう、などのささいな仕草を上手に切り取った『風俗三十二相』といったシリーズで女性の表情を描いている。描いている本人自身もノリノリで描いてそうである。そんな風俗を切り取ったのに呼応して次のコーナーでは新聞の挿絵なども少し紹介されている。
最後は人物像の背景に月を描く『月百姿』のシリーズ。満月、半月、三日月、新月に至るまで色々な形で月の光と共鳴させる人物像の際立ちが面白い。源氏物語に登場する夕顔の霊や戦国武将の斎藤利三、はたまた孫悟空、曹操といった広がりもある。先の鬼婆と同じあらすじを描いた「狐家月」といった作品もある。作中に月が描かれていない作品もいくつかあって、月に照らされた対象物の光の加減で月を想像させる、みたいなことを演出しているように思える。
前回ここを訪れた時には公募展だったのもあってそこまで時間を要さなかったのだけれど、今回はたっぷりその数150作品。さらに常設展として同時代同姓同名同士で仲良しがいることでお馴染みの鈴木信太郎や激坂でお馴染みの小島善太郎、城所祥、大野五郎、それに最近になった読んだ小説の表紙にもなっていたので少しだけ馴染みがある清原啓子の作品もある。トイレは洋式。
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