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旧田中家住宅(埼玉県川口市・川口元郷駅)

川口市では文化財を多く保存しており、町のあちこちにも格式の高い家屋がいくつか現存している。それに伴ってか一般的な家屋も特徴的な見栄えのものも見受けられる。その中で一般に公開されているのが味噌問屋として隆盛を極めた旧田中家住宅で、煉瓦造りの3階建てとなる洋館と、木造の2階建てとなる和館とがつながっているというかなり豪華な作りをした邸宅である。

国指定重要文化財としても指定されている旧田中家住宅は日光御成道に面しており圧倒的な存在感を放っている。広大な敷地の中に屋敷と工場・蔵が建てられていたそうで、現在は工場は撤去されてしまったものの、敷地の広さから相当な規模だったことが窺える。高橋留美子『mao』に登場する屋敷のモデルになったと考えられており、まさに「お屋敷」と呼ぶに相応しい建物である。

かつては住宅の周りに工場や蔵があったという

順路はまず玄関からで、客を出迎える帳場の裏手には食堂が残っている。面白いのが防火シャッターが手動式で残っていることと、使用人がすぐに移動できるように部屋からの呼び出しランプが備え付けられていること。この当時の金持ちのステータスと言える。さらに洋風中心の飾りと日本建築の格天井を組み合わせた応接室へと続き、応接間の玄関を見据えながら上の階へ。上の階へ続く階段もまたシックな造りをしている。

防火シャッターがある一般住宅

上の階となる3階では大広間と、それに連なる控えの間がある。こちらも天井は漆喰で菱形の花弁飾りが施された重厚な作りをしている。大広間はジョージアン様式を基調としてまとめている。当時は大広間の窓から味噌の醸造蔵が立ち並び、川までの貯木場なども眺めることができたという。またこの階には一段あがったところに蔵があり、現在は展示室として味噌についての紹介がある。

大広間にはピアノもあります

次に階段を下りた2階へ。2階が和館とつながっているため順路は1階→3階→2階という流れになっている。2階は書斎と座敷がある。書斎は主人が用いていた部屋で、天井は格廻り縁付き折り上げ漆喰天井となっている。また北側にはバルコニーも設けられていたという。座敷は洋館のなかでも和風を取り入れた数奇屋風の書院造となっており、欄間には松林桂月の彫り物を嵌めている。さらに旧田中家住宅にまつわる展示室もあり、代々の名跡である田中徳兵衛のこと、設計技師の櫻井忍夫のことなどが紹介される。

こういう書斎が欲しかったんですよ

そのまま和館の2階へと順路は続く。和館2階は8畳の座敷と4畳の次の間からなる客間がある。2階を丸ごと客間として用いており、天井には屋久杉、柱や長押は檜が使われている上、建具には桐などが使われているという贅沢な仕様。それぞれの箇所に最適な木材を充てがっており、とにかくレベルが段違いである。

はいお次は和館へ

和館の階段を下りた1階は15畳からなる座敷と12畳の次の間、それに10畳の仏間という、これまた広大な屋敷になっている。座敷は書院造で、やはり天井は屋久杉、柱は檜に建具は桐と、こちらもまたこだわっている。こちらの欄間にも松林桂月の絵が彫られており、ほぼ貸切状態の部屋の中に座っていると殿様のような気分になる。最後は勝手口と土間で使用人の主に使うスペース。使用人部屋もあり、男性と女性で部屋が分かれているのはもちろんのこと、その移動手段も分けられていた(女性は階段、男性は梯子)というのも面白い。

でたわねお屋敷ならではの座敷

建物を出た次は庭園と、その先にある茶室。庭園は味噌醸造蔵の跡地に作られたもので比較的あたらしいものだが、池泉回遊式の財力を感じさせる。茶室も味噌醸造蔵の建築材を用いて作られた新しいもので、8畳と小間の2つの茶室や立礼の行えるホールがある。その隠れ家的な雰囲気は、財界人が通う料亭のような背徳感さえある。驚いたのはこれだけの建物でありながら見学者は他にゼロという貸切状態。なんというありがたさであり勿体無さだろうか。トイレは個室洋式。

お忍びの料亭みたいな茶室


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