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東京都現代美術館(東京都江東区・清澄白河駅 井上泰幸、吉阪隆正、TCAA、MOTコレクション)

久々におとずれた東京都現代美術館。昨年の夏以来になる。なんだ、もうそんなに時間が経ってしまったのね。時間が経つのは早いというかなんというか。どうしても見ておきたい展覧会が3つも重なっていたため、半日を費やす覚悟で全てを見ようと訪問。なかなかの体力と精神力が必要でもある。

・生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展

最初は井上泰幸展。特撮美術監督として日本の特撮を作ってきたといっても過言ではない人物で、この人がいなければ特撮はここまで発展しなかった。特に円谷英二の黄金期には全てのミニチュアセットを手がけているという。日本アカデミー賞とかたまにテレビで放映している時に常々おもうんだけれど、美術や音響スタッフの受賞がおまけ程度にしか使われていなくてヤキモキする。そんな気分を吹き飛ばしてくれる凄い展覧会。ゴジラもモスラもラドンも、ガメラまで総進撃。

怪獣総進撃

戦時中に社会人となっていた井上は海軍に所属して図面を引いたりしていたそうで、上海で銃撃にあって被弾し左足を失うという大怪我も負っている。戦後は美術を学んだ結果、新東宝で美術スタッフとして働くことになる。とにかく精密な設計によってミニチュアの技術を格段に上げたことが功績のひとつで、実際に街へ行って図面を記録しながらミニチュアに生かしている。自分で計算して割り出した縮尺の寸法表なども残っている。

特撮セットの裏側も興味深い

とにかく仕事量が多く、寸法は全て測った上でデザインしている他、時には監督とは別の独自の絵コンテを作成して、カメラアングルから見たミニチュアセットの大きさなどをイメージした上で制作したり、時にはその絵コンテが実際の作品に生かされたりと、多くの作品でコンビを組んだ円谷英二からは絶大な信頼を得ていた。
特撮にとってミニチュアは壊れるものなのが大前提だけれど、その壊れ方の順番や壊れる方向、どうすれば自然に破壊されたように見えるかまで計算して細かく指示に入れているという徹底ぶりには圧倒されるしかない。それでいて物腰がやわらかく温厚な人柄で多くの人から信頼されている。
後進の人たちや一緒に仕事をしてきたスタッフたちのインタビュー映像も紹介されているのだけれど、とにかくみんなが楽しそうに「仕事の鬼」振りを話しているのが印象深い。徹底的にこだわって、納得できるまでやりぬくという姿勢で仕事に打ち込んだという。

細部に至るまで作りこむ

後半には空の大怪獣ラドンのミニチュアセットが再現されて展示されている。圧巻の一言。破壊されてしまう消えるべきものであるにも関わらず細部にわたって作り込まれている。まさに本物の街さながらで、ここまで作り込まなくてはリアルは追求できないし観客を引き込むことができないことを理解した仕事だと伝わってくる。

この写真は若い

・吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる

次は吉阪隆正展。こちらは建築家の吉阪隆正を特集した展覧会になっている。ミニチュアの井上泰幸と合わせたあたりにキュレーターの強い意志を勝手に感じ取っている。

ひげの人

吉阪隆正は東京でいえばアテネ・フランセの建築家として知られている。といっても個人的には建築家に詳しくないので偉そうなことは語れないのだけれど、展示会の内容がかなり独特。所々に隠されている「かんそうナメクジ」や、謎のメビウスの輪、3階建ての自邸の原寸大図面など、観るものをアッと言わせるような面白い試みが随所に散りばめられていて、おそらく本人もかなり柔軟な思想の持ち主だったことが想像される。

随所に潜むかんそうナメクジ

もちろん建築家としても一流で、若い頃はル・コルビジェのアトリエで働いたりと建築技術を身につけ(三大弟子の一人)、ヴェネツィア・ビエンナーレのパビリオンや八王子にある大学セミナー・ハウスなど数多の模型が展示されている。大学セミナー・ハウスなんてめちゃくちゃ広大でつい宿泊してみたくなる。

大学セミナーハウス 広大である

吉阪隆正は建築家であると同時に探検家でもあったそうで、日本山岳会の理事を務めたり、アラスカ・マッキンリー遠征隊長を務めたりと色々な山に登っている上、アフリカ横断一万キロを達成するなどバイタリティも半端じゃない。それもあって、山岳に構える山荘やヒュッテ(山小屋)、それに立山ロープウェイの駅なんかも設計している。

遊具っぽいヒュッテの模型

最後は都市計画について。山手線の内側を緑化してしまおう、という大胆なコンセプトを打ち上げたり、地図の見方を変えることで物事の捉え方を変えよう、といった提案もしている。建築家という範囲ではおそらく収まらない人物のような気がする。その人と成りも含めて興味深いところ。 

いろんな角度から地球を見るのが大事

東京コンテンポラリーアートアワード

そのままエレベータで3階へ上がると特別展として「東京コンテンポラリーアートアワード」の受賞記念展が開催されていたので、せっかく来たのだしと拝見。今回は受賞者である山城知佳子藤井光の2名の作品を展示している。山城知佳子って以前に東京都写真美術館で個展やってなかったっけ? なんて朧げな記憶をたどりながら拝見。

藤井光 設営前っぽいこれも作品

まずは藤井光。一見すると設営前の展示会みたいな状況になっていて、最初これはまだ準備中なのかな? と疑ったほど。戦争画のタイトルと何にも無い画布を並べるという試みが大変に興味深い。
山城知佳子は映像が中心。急にオペラを歌い始める棒読み甚だしい沖縄の熟年夫婦の物語と、肉屋の女性の一日を辿るという、少しグロテスクな物語、なんだかザラザラしてくる。

山城知佳子 人形も観衆の一部

・MOTコレクション 光みつる庭/途切れないささやき

最後は「光みつる庭 途切れないささやき」と題したコレクション展を見学。1階では中西夏之の抽象的ながら生き物のような絵画、石川順恵堂本右美とつづき、李禹煥の何気ない日常をポエジーに切り取った『東の扉』、荒川修作の瀧口修造へのオマージュが手に取るように広がる『The Figure of Farm』といった作品に続いて印象深い康夏奈のインスタレーション『花寿波島の秘密』で、巨大な逆円錐の中に体を入れてみると全く違う世界が広がっているのが面白い。

逆円錐の中に広がる世界

3階に上がって次の展示室へ移ると次は版画のコーナー。長谷川潔河野通勢駒井哲郎浜口陽三といったおなじみの面々がある中で、個人的には浜田知明の作品が好み。どことなく影絵を思わせるような寂しさが広がっていて、版画でありながら版画でない世界を感じ取ってしまった。
次は舟越桂。今回の目当てその1で、今回のコレクション展のタイトルにもなった『途切れないささやき』がやはり目を引く。木彫りの人物に大理石を嵌め込んだ瞳。焦点が合っているような合っていないような不思議な表情。やはり良い。

ボルタンスキーお目見え

そして目当てその2であるクリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーション。ビスケット缶と写真と電球を合わせただけの作品でありながらタイトル『死んだスイス人の資料』そのまま、暴力的な死を想起させる作品になっているのが衝撃である。
隣接して福田尚代の『翼あるもの』シリーズの試みも面白い。小説を一頁ずつ織り込んで、重要な一行だけを際立たせる表現方法で、かつて読んだことのある『石さまざま』が使われていてなんだか嬉しい気分になる。
そのほかにもレベッカ・ホルンの急に動き出す『バタフライ・ムーン』、様々な宿泊者の言語をホテルの部屋に飛び交わせて記憶を掘り起こすアピチャッポン・ウィーラセクタンの映像『エメラルド』など興味深い作品を見つつ、最後にお馴染みとなった宮島達男のカウントする数値を見て終了。

宮島達男の部屋は紅

4種類の展示会を見るとなると、どう足掻いても最低でも4時間は必要。そして疲労感がすごい。トイレは基本的にウォシュレット式だけれど、ショップに隣接するトイレだけは洋式だったのが意外。

水のプロムナードにはカモがいた


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