ちひろ美術館(東京都練馬区・上井草駅)
いわさきちひろは絵本画家として知られ、長野県の安曇野と東京の練馬区にぞれぞれ美術館がある。東京は上井草駅から歩いて10分くらいの場所、冬季期間は休館しており、訪れたのはちょうど休館期間が明けて開館になった日。開館から1時間ほどにして既にちらほらと見学している人が見受けられる。その多くは親子連れであり、絵本作家の美術館ならではというところ。実際に絵本の読み聞かせイベントもある。
木組の館内はとても落ち着いた雰囲気で、ちひろ本人の作風を彷彿とさせるような造りになっている。2階建ての展示室1階では彼女の成り立ちを、絵本作家を目指すまでの道のりを作品と共に紹介している。山の手に生まれて家族の愛に囲まれて育ったちひろ。「コドモノクニ」をはじめとした雑誌から児童文学に親しんだ中で憧れを持ち、やがて児童文学の画家を志すようになる。ローランサンの画風にも影響を受けており、作品もいくつか手元に置いていたという。
意外だったのが、三姉妹の長女ということもあったのだろうか若い頃にに婿養子を迎えて結婚している。しかし夫は赴任地の満洲で自殺を遂げ、失意のうちに帰国したという。戦争の激化に及んで空襲を受け疎開したことが彼女のその後の人生に大きな転換となっており、その後は共産党での活動など反戦への意識が高まって行く。次の夫もその活動の中で知り合った。夫はやがて弁護士になり、国会議員になっている。もともとは油彩画を描いていたちひろは水彩画を中心にシフトし、雑誌『子どものしあわせ』を皮切りに評判となる。その作風はとにかく優しく、どこか儚さを持っている。戦争を経て原爆の朝を描いた作品には戦争反対への強い想いが込められている。
1階には展示室が3つあり、生前に使っていたアトリエの再現もされている(左利きだったため窓に対して利き手が陰にならないように配置されている)。生前の高畑勲もいわさきちひろの絵本をたまたま見かけて衝撃を受け熱心なファンとなったという。中でもそのきっかけとなった『あめのひのおるすばん』や『となりにきたこ』の作品が展示されている。
2階では企画展としてエリック・カールの作品と世界の絵本(絵本の賞であるコールデコット賞)として『がまくんとかえるくん』のアーノルド・ローベルなどを紹介している。また、『はらぺこあおむし』などで知られるエリック・カールはちひろ美術館との交流もあり、夫人との来日時にはよく訪れたそう。独特の画風で知られるが、ティッシュ・ペーパーを巧みに使ったコラージュ作品だということを初めて知る。2階ではえほん図書館(読み聞かせはここで行なっている)や子供の休憩室などが配備されており、子供のための美術館としてふさわしい造りに。中庭にもいわさきちひろの作品をイメージした銅像などがあってゆっくり休める。トイレは洋式。