東京富士美術館(東京都八王子市・八王子駅)
東京富士美術館はかなり山の方にあるので、八王子駅からだとバスなどの交通手段を使わないと到底たどりつくことができない。ただ山の中にあるだけあってかなり広大な場所であることは利点の一つなのかもしれない。
美術館でおなじみの作品解説、こちらの美術館も館内のWi-Fiを使って無料で提供している。アーティゾン美術館に続いてのこの配慮がありがたい。私立美術館にもかかわらず中学生までは土曜日が無料というのも好感度が高い。また、子供向けとして美術作品にまつわるクイズのシートもあったりして、飽きさせないように工夫が感じられる。
正面のエレベータを上がって右手が企画展、左手が常設展となる。まずは常設展から見学。この展示数が凄くて度肝を抜かれる。展示室は全部で8つあり、そのうち5つで今回は西洋画を中心とした展示を行なっている。撮影も可能。
まずはルネサンス時期が中心となっており、ラトゥール、ルーベンス、ブリューゲル(親・子)、といった画家の作品が惜しげもなく展示されている。個人的にはオノレ・フラゴナールの作品があったことに感動。
後半に差し掛かると時代が下り、ターナー、ドラクロワらの作品がある。彫刻の方でもロダンやマイヨールの作品がある。ナポレオンにまつわる絵が多いのも特徴かもしれない。
やがて印象派のエリアへ。ユトリロ、ピサロ、マネらの作品がある。中でもルノワールの『読書する女』がやはり目玉の逸品か。モネもね。現代美術からはアンディ・ウォーホル、ロバート・インディアナまで網羅している。
特別展として今回は山本作兵衛展を併設して行なっている。ユネスコ「世界の記憶」遺産として国内で最初に選出された筑豊地方の炭鉱画で、もともとは炭坑夫として働いていた山本作兵衛が、その引退後に記録していた炭鉱の絵画。美術教育を受けたことがない人なので、いわゆるアウトサイダー・アートに括られるかもしれない。とはいえあくまで記録としての冷静な視点で描かれているのが注目すべき点かもしれない。一見するとシンプルながらかなり仔細に書き込まれた絵は、従事していた炭鉱の仕事の過酷さを感じさせるに充分。こちらは撮影ができない。
もう一つ特別展示として「タヴォラ・ドーリア」の複製が展示されている。ダ・ヴィンチの描いた幻の壁画を知る手がかりとされている作品で、紆余曲折あってイタリアへ寄贈され、修復されてこのたび複製絵画が展示されているという。この作品を誰が(ダ・ヴィンチが?)どんな意図で描いたのかを知る手がかりとなっているらしい。イメージして作られた塑像もある。
常設展示室を抜けるとこれまでに行われた展覧会のポスターが展示されている回廊がある。回廊を通り過ぎると今回の企画展である上村松園・上村松篁・上村淳之の三代による展覧会。こちらは撮影ができない。
上村松園というと『源氏物語』の六条御息所を描いた傑作『焔』が有名で、今回の展示ではその習作(下書き)を見られる。個人的に目を奪われたのは『花がたみ』で、恋心にとらわれて狂気に陥った少女の恍惚とした表情がとにかく圧倒的。正直なところ『焔』を超えるくらいのインパクトがある。この作品を観られただけでも個人的には目的を果たしたといっても過言ではない。
訪れたのは平日だったにも関わらず常設展・企画展ふくめてかなりの見学者がいる。年配の方が比較的おおいのはある程度きまった層だからかもしれないけれど、これだけの展示数を誇る美術館になかなか訪れることができないのは本当に勿体無い。久々に圧倒された美術館の一つ。トイレはウォシュレット式。