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東京都現代美術館(東京都江東区・清澄白河駅 石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか)

だいぶ前の展示だったけれど、本日までアーカイブで展示を見ることができるため記憶を思い出しながら辿る。

資生堂の広告からスタートし、大阪万博を経てパルコの広告、本の装丁からCDジャケット、舞台や映画の衣装に至るまで多岐に渡る活動の中でエンタテインメントとして自分の作品とは何かを追求した石岡瑛子。宇宙人とも言われるようなエキセントリックだったその人物像を追いながら、彼女の仕事の足跡を辿った世界初の大規模な回顧展。映画関連の映像も多くあるので、開催までには権利関係のクリアなども大変だったという。個人的には『落下の王国』の衣装で衝撃を受けたのもあって興味深かったため足を運んだ次第。

まず展示室に入る前室で真っ赤な壁が出迎える。石岡瑛子のデザインに欠かせない赤。生命の色。石岡瑛子の生前最後のインタビュー音声が聞こえる中で彼女のメッセージが残されている。

・デザインの背骨として考えていることは、まずタイムレスということ。次にオリジナリティがあること。そしてレボリューショナリーであること。

・血がデザインできるか、汗がデザインできるか、涙がデザインできるか、別の言い方をするならば、”感情をデザインできるか”ということです。私の中の熱気を、観客にデザインというボキャブラリでどのように伝えることができるだろう。

今回の展示コンセプトとしても捉えられている。

展示室で最初に飛び込んでくるのは資生堂の前田美波里を前面に押し出した象徴的な広告。石岡瑛子の初期の代表作と言ってもいい。意図的に狭くした通路の先にこの広告を置くというインパクトのある展示演出が心憎い。さらにその前には石鹸をナイフで切る、というインパクトのある広告。質の良い石鹸なのでナイフで切っても破片が出ないこともアピールしている。あくまで広告という範疇の中からクリエイティブな発想を持っていたことがわかる。それは資生堂から独立して手がけた大阪万博のポスターデザインにも垣間見える。

次のエリアは斬新なデザインで知られるPARCOの広告。ファッションの発信地なのに一糸まとわず佇む女性だったり、奇抜的に見える民族衣装を扱ったりと、これまでのアパレル広告とは一線を画した表現に目を奪われる。ポスターの他にCMも手がけている。

近くにはデザインの仕事振りがわかる資料集が展示されている。色彩指定などが非常に細かく指定されており、プロの仕事の一端を知ることができる。

角川書店の広告を手がけたことから本や雑誌の装丁にも広がって行き、そこからパッケージデザインの仕事まで手がけるようになる。表現は感情移入であり、作り手と受け手が共有できるかどうかを主軸に置いていた。

・オリジナリティを持った他の分野のクリエイターとコラボすることは、エキサイティングなボクシングをするようなもの。

次の展示室ではそこから日本を離れて海外へ拠点を移してからの仕事が紹介される。マンネリズムに陥って充電期間として過ごした15ヶ月を経て、各分野の表現者たちとのコラボレーションによって自らの表現を磨いて行くことになる。

マイルス・デイヴィスの顔面が前面に押し出されるアルバム『TUTU』は特にインパクトのあるデザインで、それについても細かい色指定がされているのがわかる。

ヴェルナー・ヘルツォークによる『忠臣蔵』のオペラでは舞台美術と衣装デザインを手がけている。また、フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』でもポスターデザインを務めるなど、海外アーティストとの仕事が中心となっている。

薄暗かった展示室から一転して次の展示室は全面が金色に染まった輝きの部屋。三島由紀夫『金閣寺』の海外映画(コッポラやジョージ・ルーカスが関わっている)を美術監督として手がけている。真っ二つに割られた金閣寺が圧巻である。特にコッポラからはその後も一緒に仕事をすることが多く、次の展示室では映画『ドラキュラ』の舞台衣装が展示されている。おどろおどろしいテーマの作品に映える衣装が印象的な作品。ここでこのフロアの展示は終了。

・私は衣装をやっているのではなく、視覚言語を作っているのだ。

・デザインは、デザイン言語を使って演技し、実際に演技するパフォーマーとぶつかりあい、スパークする。

・革命的であるということは、若い人の特権のように言われることが多いけれど、年齢を重ねるたびにラディカルになる表現者もいると思う。それが私の念願。

・地球のすべてが私にとってのアトリエで、地球のすべてが私にとっての素材。

ターセム・シンとの出会いは素晴らしい化学反応を引き起こしたと言っても過言ではない。地下フロアでは続いて映画の衣装に重点を置いた展示として、まず映画『ザ・セル』の衣装。主要なキャラクターについての複数のアイデアを資料を一切みずに描いた64枚のアイデアドローイングをファックスで送り、そこから練り上げていったという。ここでは実際に作中で効果的に用いられている衣装の映像が見られる。

次の部屋では『落下の王国』。今回の目的の一つといっても過言ではない。目を奪われるような大自然と共存する刺激的な色彩の衣装。幻想的な舞台演出と相まってカルト的な人気を誇る映画である。正直なところ興行的には成功したとは言えないけれども、記憶に刻まれる作品であることに間違いない。

映画の次はミュージシャンや舞台演出の衣装で、グレース・ジョーンズ、シルク・ドゥ・ソレイユ、ビョーク、さらにソルトレイクシティオリンピックの衣装も担当している。オリンピックといえば北京オリンピックにおける衣装で、チャン・イーモウ監督による演出のもとで印象的な開会式を彩ったことも記憶には新しい。

次の展示室では『ニーベルングの指環』の衣装デザイン。最も広い展示室を用意してあらゆる衣装が紹介されている。2年近くの歳月をかけて注力した仕事で20年間に渡って再演された。高い天井の中で展示されている演出方法も相まってその圧倒的な存在感は重厚な印象をもたらす。

生前最後に手がけた映画の仕事が『白雪姫と鏡の女王』で、これがターセム・シンとの最後の映画となり、アカデミー賞で衣装デザイン賞にノミネートされた。

展示会の最後には本人が高校生の頃に作った絵本が残されている。『えこの一代記』。この大いなるスタート地点から彼女の素晴らしい歴史が始まったのだ。「世界中を旅して、美味しいものを食べて。私の夢が叶いますように!」


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