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空蓮房(東京都台東区・蔵前駅)

都内において寺社に接続しているミュージアムとしては、神田明神資料館、武蔵国分寺跡資料館、明治神宮ミュージアム、増上寺宝物館などが知られているところだけれど、台東区の長応院にもひっそりと美術に関する施設がある。空蓮房と名付けられているこちらの場所は、境内にそっと建つアート専門の空間として建てられた瞑想ギャラリーである。

こちらの空蓮房はさすがに寺に関わるギャラリーというだけあるのか、とても変わった展示方法をしており、予約制による見学なのだけれど入館できるのは各時間にたった一人だけ。これは雑念を振り払って作品に向き合い、作り手と鑑賞者の緊迫した時空の中に仏教と芸術と現代をつなぐ一点を見いだしてもらうことを目的としていることから。複数人で訪問したとしても見学は一人ずつ行うというシステムとなっている。

ここが入口 ぱっと見ではわからない

境内にある、おそらくかつては蔵だったものを作り替えた空蓮房は、躙り口から玉石の敷かれた通路を突き進んで入るとてもコンパクトな部屋となっている。真っ白な壁に囲まれて必要最低限の照明のみというシンプルを突き詰めたかたちをした展示室は、扉を閉めることで外界とのつながりを絶ち、否が応でも作品と向き合うことになる。

空白

今回は多和田有希による「歌う船」と題した展覧会を開催。年に3回ほどの展示期間のみ開館しているためレア度はかなり高いかもしれない。まずは寺社で住職に声をかけてから入室する。そのタイミングで涙壺と名付けられた小さな造形物を手渡される。こちらは数人がそれぞれ思い出にしている写真を燃やしたことで作られた陶器。展示室の任意の場所に置くことで見学者も作品を彩る一員となる。

置く

部屋は二つに区切られており、それぞれに陶器や写真がポツンと配されている空間。在りし日に思いを馳せながら、また自らの今、そしてこれから迎えるであろう先を瞑想する、という不思議な体験をする。締め切られた室内は何も雑音なく、ひたすらに鑑賞者は作品、そして空間と向き合う。これまでのどんな施設よりも寺社との結びつきを感じる空間である。トイレはなし。

清明

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