見出し画像

ギャラリー5610(東京都渋谷区・表参道駅 砂と形)

ギャラリー5610で開催されているのが作詞家・松井五郎作品展の「砂と形」。「すなとけい」という名前の通り、砂時計をモチーフにした作品を展示している。作詞家という肩書きだけ見れば詩を紹介する、というイメージを持ちそうなところ、ここでは言葉を駆使したアートの趣が強い作品として構成されている。

会場に足を踏み入れれば、台形の天辺に砂時計を乗せた灯台を模した演出や床には流木が添えられていて一気にその世界へと連れ去られてしまう。砂時計は砂の色や形(割れているものもある)、それに砂時計の中に埋もれているアイテムなどが情感を掻き立てる。

砂時計の中に生と死

詩が添えられた砂時計の他には映像作品、詩の断片を乗せたもの、言葉の書かれたプレートを重ねて一つの詩としているものなど、言葉を基点にした多くの表現方法があって面白い。

透明なプレートに重ねられた言葉が詩をつくる

一般的に日本の音楽を聴いてきていればシーンにおける活躍は知ってのとおり、手がけた作品を誰もが一度は耳にしたことがあるだろうし、幅広い作品を今でも最前線で世に生み出しているバイタリティに膝をつくばかりだけれど、会場の作品を見ているとその源は音楽だけではないことも感じられてくる。正直なところ度肝を抜かれた。音楽制作と並行しながらアート作品として充分すぎるクオリティのものを作れる、そのアイデアには驚嘆するばかり。

映画『ひまわり』の撮影場所はウクライナ

個人的には瓶の中に単語の紙片が混じっている「人」「愛」「私」シリーズが好み。「人」が溢れている紙片の中に1枚だけ「僕」「君」が入っていて、それを見つけられるか(例え片方が見つかってもその時にもう片方は見失うというヂレンマ)、「愛」が歪んだ形や間違った形(心→金になっていたり)の紙片の中に1枚だけある本当の「愛」を見つけられるか、「私」という紙片の中に本当の「私」を見つけられるかといったテーマを提示することで自分自身と向き合う、といった面白い試み。実際に手に取って探すこともできる。

「僕」だけは見つけられたけど「君」が見つからない やるせない

あとは「tears」と書かれた紙を水に浮かべて溶かすことで海に帰す涙を表現していたり、言葉が基点であることはブレずにその表現方法を彩っている。2年ほど前に板橋区立美術館で展覧会を開催したデザイナー・造本作家の駒形克己と一緒に仕事をしていた縁で、今回の展覧会にあわせてコラボレーション作品『時と夢』も出版している。久々に購入してしまった。会場にご本人がいらっしゃったのでサインを貰えばよかったかな、と少し後悔。会期中は可能な限り在廊しているそう。

トイレは地下 ウォシュレット式である


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?