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藤沢市雛祭り/遊行寺宝物館(神奈川県藤沢市・藤沢駅)
神奈川県の藤沢市はかつて東海道の宿場町として藤沢宿があり栄えた場所。桃の節句の時期に期間限定イベントとして色々な施設で雛祭りの展示を行っており、そのタイミングで訪問することに。また藤沢宿の周辺にある施設も併せて訪問。
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・ふじさわ宿交流館
藤沢宿の名残を伝える中心的な施設なのがふじさわ宿交流館。こちらでは江戸時代に隆盛した藤沢宿の歴史を紹介する展示室がある。展示室は1つというシンプルなもので、旅人の衣装や旅道具などが展示されており、その展示自体はそれほど多いわけではないけれど、藤沢宿のジオラマが展示されているほかコンピュータグラフィックで作成したシミュレータがあったりと、割と意欲的な展示姿勢が窺えるところ。
江戸幕府が開かれるよりも前に整備されていた東海道における第六の宿場としてつくられた藤沢宿は、大山詣や江ノ島参詣の中継地としても賑わっていたという。東海道に江ノ島道、鎌倉道、大山道に八王子道や厚木道など、多くの行き先へ向かうための宿は江戸初期には将軍専用の宿泊施設として御殿も建てられていたという。将軍だけでなく大名行列や朝鮮・琉球などの外国施設、オランダ商館の施設なども立ち寄っている。
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藤沢宿の中で有名なエピソードとしては小栗判官の物語が残されているという。相模の豪族の屋敷に泊まった小栗判官が金品目当てで毒殺されそうになったとき、その場に居合わせた遊女の照手姫に助けられ、遊行寺へ逃れたという逸話で現代ではあまり馴染みがないものの、古くから人形浄瑠璃や歌舞伎の題材とされて流行したのだという。物語の重要な場面で「藤沢の上人」が登場することから、この近くにある遊行寺や長生院といった寺院を尋ねる人も増えたという。
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他に特筆すべきこととしては藤沢宿になる前の鎌倉時代についての逸話で源義経に関する遺構が残されていること。鎌倉幕府の初代将軍である源頼朝の弟として源平合戦で平家討伐の第一人者となった源義経だったが、兄との関係が悪化し、ついには討伐されて東北の地で自害することとなった。その首が本当に義経のものであるか確かめるための首実験として義経の首がこのあたりの腰越で行われ、そのまま打ち捨てられたという。藤沢に伝わる伝説ではそのあと白旗川へと上り口伝を残したという。
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他には隣にある休憩室・談話室では企画展示として藤沢宿にまつわる雛祭りの展示が行われている。トイレはウォシュレット式。
・旧桔梗屋
旧桔梗屋は旧東海道の藤沢宿において茶・紙問屋を営んでいた旧家で、市内に現存している唯一の店蔵と江戸末期の文庫蔵などが国登録の有形文化財となっている史跡である。普段から空いているわけではないが、今回は藤沢宿まつりの一環で店蔵1階が会場として開放されて自由に入ることができるようになっている。
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・旧稲元屋呉服店
旧稲元屋呉服店は戦前の藤沢を代表する呉服商だったもの。かつて「豊元屋」の子で生家の家業である「稲穂屋」を継いだ初代が、それぞれの屋号から一文字ずつとって名付けられたもの。明治から昭和にかけて明治天皇をはじめとした皇族の宿泊所として用いられたという。普段こちらも非公開だが藤沢宿まつりの一環で内蔵と一番蔵を会場として公開している。
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・蔵まえギャラリー
蔵まえギャラリーは昭和初期に使われていた旧榎本米店の母屋と内蔵とを保存したまま有効活用されてきたアートスペース。色々なギャラリーとしての活動をしてきたが、三月をもってクローズすることとなったそうで、そういう意味で藤沢宿まつりは最後の大きなイベントだったといえるかもしれない。
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・旧飯山邸
蔵まえギャラリーがクローズすることに関連し、これまで行ってきたアートスペースとしての業態はすぐ近くにあるこの旧飯山邸に移管されるという。今回の藤沢宿まつりの一環として、オープンに先駆けてひと足先に公開することになった模様。こうした旧跡を再利用するという動き、なかなか軌道に乗らないのが難しいところだとスタッフの方も言っている。悩ましい。
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・遊行寺宝物館(神奈川県藤沢市・藤沢駅)
鎌倉仏教の一つである時宗の総本山である遊行寺。惣門から上るいろは坂の景観が美しい。実は遊行寺というのは通称であり、正式名称は清浄光寺という。時宗の祖でもある一遍上人やその弟子である真教上人といった面々が時衆として全国を遊行したことから名づけられたもので、こちらの境内にあるのが遊行寺宝物館で、企画展がある時に開館している。
2階にある展示室ではいきなり空也上人立像からお出迎え。口から六体の仏が出ているという印象的な像で、割と仏像関連の中でも人気の高いフォルムをしているのでイメージできる人も多いかもしれない。これは六波羅蜜寺にある立像とかなり近い形をしているが、遊行寺の方は年老いた風貌になっているのが特徴。空也上人は時宗と直接の関係があるわけではないものの、時宗の代名詞とも言える踊り念仏の開祖として位置づけられており、また民間信仰である念仏聖の先駆けとして一遍上人に影響を与えている。
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企画展が「神仏を敬う」という名称で神仏習合(日本の神様は仏あるとし、たとえば仏陀は日本の実情に合わせて神の姿で現れた、という「本地垂迹説」を元にした考え)をテーマとした展示であることから、展示室の中では主に天神(菅原道真)との関係についてを多く紹介している。一遍が淡路国にある志筑神社を参詣した時に「天神の本体は阿弥陀如来を手づあう観音菩薩である」と述べたことから、時宗内における天神信仰が定着し、現在も遊行寺に多くの天神像が収蔵されているのだという。
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色々な時代の天神像が紹介されている。菅原道真というと政敵である藤原氏によって太宰府へと左遷され、失意のうちに亡くなったことから怨霊となるまでに至った人物。現在では学問の神としても知られているところ。天神像の制作年代も作品の中に採り入れられているアイテムから推定されているのは興味深い。
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トイレは館内になく境内の休憩所に設けられており洋式。境内には遊行寺のシンボルである大銀杏の樹がある他、地蔵堂にあるひぎり地蔵菩薩、中朱雀門(市指定の重要文化財)、徳川綱吉の「生類憐れみの令」に伴って江戸市中の金魚・銀魚を放した放生池といった見どころも多い。
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