東京都現代美術館(東京都江東区・清澄白河駅/クリステャン・ディオール展)
クリスチャン・ディオールの企画展が想像以上の行列になっているということで話題の東京都現代美術館。どうあっても混雑に巻き込まれることは予想できたので行く機会を窺っていたのだけれど、ようやくピークの時期からは落ち着いてきて見学することに。一時期よりは落ち着いてきたといえど入場までには長い行列。ディオール好きが世の中にこんなにいるとは。
しかしながら行列になっていることに納得するくらいに素晴らしい展示であることは間違いない。毎回こちらの美術館は展示ごとにレイアウトがガラッと変わるのだけれど、今回は上下階をぶち抜いての展示コーナーがあったりと斬新な試み。一つ一つの展示室を巡るごとに新たな演出に度肝を抜かれる。
ファッション業界を75年以上に渡って牽引し続けている輝かしい創造の数々に焦点を当てて、建築設計事務所OMAの重松象平によってデザインされた空間が配され、ディオール自身が影響を受けた芸術、庭園、舞踏会などをイメージした展示構成となっている。ファッションをテーマにした企画展のため、もちろん多くのファッション展示がメインとなっているのだけれど、その展示の見せ方が特徴的で、各展示室で全く構成が異なるため1日がかりで見られるレベル。
後に「ニュールック」と評された最初のコレクションである1947年のコレクションがディオールの始まりである。ディオールのメゾンに在籍し後を継ぐことになるディレクターたちもこの「ニュールック」の再解釈を提起し続けているという意味では、クリスチャン・ディオールの原点といえる。日本に最初に進出した西洋のファッションブランドとして、1953年に鐘紡や大丸と契約を結んでいる。マダム・マサコ、田中千代、上田安子、杉野芳子や磯村春といったファッションの専門家たちと交流を深め、帝国ホテルでファッションショーが開催された。
またクリスチャン・ディオール本人だけでなく、彼のメゾンに在籍していたイヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリといった歴代のクリエイティブ・ディレクターたちの作品を発表する展示室をくぐり抜ける。
やがて今回の展示室の中で最もインパクトを与える上下階をぶち抜いた壁面のファッションショー。また写真家の高木由利子によるディオールの撮影作品も合わせて展示している(ポスターやカタログの撮影もしている)。最後は白を基調とした通路にオートクチュールとプレタポルテのドレスを紹介したディオールのアトリエで地上1階は終わり後半へ。
下の地下2階ではまず神話のキャラクタがディオールの服を見たらどうなるか?などの興味深いテーマや、シャーリーズ・セロン、ジョニー・デップ、ナタリー・ポートマンなどが出演する歴代のCMを放映したり、帽子、靴、宝石、バッグ、メイク、香水に至るまで同等の価値を認めるトータルコーディネートを想定したコロラマの部屋、そして彼が母と夢中になった園芸が原点となり、花を刺繍したドレスが紹介される「ミス・ディオールの庭」が広がる。
次の部屋は星空の中に迷い込んだかのような煌びやかな展示室となっている。グレース・ケリー、リタ・ヘイワース、マレーネ・ディートリッヒといった映画スターを皮切りに、多くのハリウッドスターがディオールのファッションに名を連ね、アルフレッド・ヒッチコック、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーなど多くの映画監督の作品にも関与している。ここでは彼女たちが身を包んだドレスや香水を紹介する。
上下階をぶち抜いた「ディオールの夜会」を今度は下の階から見られる。壁の上の方が鏡張りになっていることでさらに空間が広がっているように見えるという斬新な試み。時間と共に変化する壁の色彩が黒い空間の中で浮かび上がるように映え、ここもまたいつまでも見飽きない。
いよいよ終盤は「レディ・ディオール」として、芸術とファッションに生涯を捧げたディオールの思いを体現させたようなバッグの数々が紹介される。芸術分野の多くの現代アート作家とコラボレーションした数量限定のバッグが所狭しと並べられる。日本からは名和晃平や大庭大介、井田幸昌といったアーティストがレディ・ディオールを変身させている。
最後は経営についても少し。ファッション界において早い段階から子会社やブティック、ライセンス生産のネットワークを広げることで自身のブランドを世界へ広める戦略を用いた。日本で最初にファッションショーを開催した西洋ブランドであると同時に、ヨーロッパ、アメリカ、北アフリカ、アジアといった世界各国に自身のブランドを展開した。展開すると共に世界の文化交流として、各地の装飾芸術を自身のデザインに取り入れるという解釈も行っていたという。
主に女性に向けたファッションブランドであることから見学者のほとんどが女性だったけれど、とにかくあらゆる展示室が脅威的で興味深く、いつまでも観て飽きない展示構成となっている。美術館の入口側にある地下講堂では、展示室内やショップの隣で放映されているCM映像を観られるようになっており、こちらは雑音もなく長時間ずっと観られるのもありがたい。トイレはウォシュレット式。