フィリピン研修2023春(3)-NPO法人アクションとは
今回の研修のパートナーとしてなぜアクションにお願いしたか、その理由をちょっと書いておきたいと思います。
アクションは代表の横田宗(よこたはじめ)さんがまだ高校3年生の時、フィリピンの孤児院支援事業にかかわったことから始まった団体で、1994年設立、間もなく30年となります。日本の特定非営利活動法人ですが、フィリピンの社会福祉開発省(Department of social welfare and development、日本の厚生労働省)により正式に認定された社会福祉開発団体です。
今回の研修のパートナーとしてアクションにお願いした理由は三つあります。
一つ目は新しいフィリピン研修の形の模索です。拓殖大学ではフィリピン大学と学術交流協定を結び、一年間の交換留学を行ってきました。国際学部では、さらに、毎年二月~三月にかけて、ひと月(4週間)の短期研修を行ってきました。短期研修は、英語/フィリピン語集中クラス、フィリピン社会文化に関しフィリピン大学の専門家による講義、フィリピンの伝統文化に関するワークショップに加え、博物館、ADB・日系企業訪問、NGOの事業地訪問などの郊外研修と、なかなか盛沢山のカリキュラムを組んできました。学生には大変好評でしたが、継続が困難になってきたため、この見直しです。
基本方針としては期間の短縮化と語学と体験学習モジュールの分離です。期間の短縮化は学生負担の減額を可能にします(研修費用の増大が徐々に参加者の募集の障害となりつつありました)。語学と体験学習の分離により学習の効率化・集中化が可能になります。
近年フィリピンでは、「セブ島英語留学」のようなマンツーマンの英語集中研修が一般化していることもあり、語学(英語)教育という観点から見れば、同じ学費で四週間徹底的に英語を勉強するほうが、費用対効果は良くなります。他方、体験学習についてみれば、より短期間に同じ内容を集中することが可能です。そこで、残念ながら、英語学習については、「セブ島英語留学」(マニラ、もしくはバギオでもできないわけではありませんが)に任せ、体験学習の部分について、より内容の深い研修を企画してみたく思ったわけです。
第二に、本学部においては、英語に加えて、アジアの言語を中心とした第二外国語を選択必修としています(フィリピン語、インドネシア語、マレーシア語、タイ語、ベトナム語、ヒンディー語、韓国語、中国語、アラビア語など)。フィリピン語(Filipino、そのべースはタガログ語)を専攻した学生にとって、北部ルソンのバギオ(イロカノ語)やセブ、ダバオのようなビザヤ語地域ではない、タガログ語地域での研修が望ましい条件でした(もちろんフィリピン語は、現在、フィリピン各地で広く通用する状態になってはいますが)。
(なお、本気でフィリピン語を学びたい学生は、交換留学に応募するか、短期集中希望者には、マニラにあるThe Christian Language Study Center (CLSC)を紹介する予定です)
最後に、国際協力の体験学習ができる受け入れ団体として日系のNGO団体を調べたところ、NPO法人アクションの活動に特に魅力を感じたためです。アクションの諸事業はとても面白いので、後日また書きたいと思うのですが、簡単にまとめると、
(1)貧困家庭・貧困地域・児童福祉施設の子ども達への直接的支援、
(2)貧困家庭の母親・父親への支援、
(3)子どもに優しい社会を実現するための制度の提言
という3つの領域で、活発に活動を実施しています。
この研修で私達が直接その現場を視察・参加できたのは、孤児院における孤児とのふれあい(農園作業も含む)、小学校の栄養不良児童に対する給食支援とそのための農園活動(NPO法人Table for Twoと共同事業)、貧困地域の子ども達への炊き出し・お弁当の配布(フィリピンのNGO団体Tatagと共同事業)、貧困地域や児童養護施設の子どもたちの健全な育成やライフスキルの獲得を目的とした美容師講座や、空手やダンスレッスンです。
ただし、今回直接その現場を見ることはできませんでしたが、アクション事務所で説明を受けた事業として、
貧困地域や児童養護施設の子どもたちのためのマッサージ技術講座
貧困家庭の児童が学校に通うための奨学金支援や学用品の配布
女性の所得向上を目指すエコミス・プロジェクト(お菓子の袋などを利用したハンディクラフトづくり)
青少年更生施設の子ども達のための研修プログラム作り(ライフスキル事業)や、施設のスタッフがこども達に適切なケアを提供できるようになるための研修プログラムの開発(ハウスペアレント事業)(JICA草の根技術協力事業)
青少年への性教育プログラムや子どもの人身売買の予防と救済のためのプロジェクト(USAID、米国国際開発庁助成事業)
などがあります。
このように、貧困の現場で貧困児童・青少年のための直接支援を行うだけでなく、彼らをサポートする社会制度を改善しようとしているところに、アクションの独自性があります。また、日系NGO団体は単独で事業を実施する傾向があるのに対し、他の日系/ローカルなNGO団体やフィリピンの地方自体や関係省庁と連携することにより、より効果的かつ広がりのある事業運営を志向しているところもアクションの特徴といってよいと思います。
例えば、上述のハウスペアレント事業は、社会福祉開発省(Department of social welfare and development、日本の厚生労働省)の事業として採択され、全国的に指導員の育成とハウスペアレントの研修を行っているものです。また、小学校における給食支援はTable for Twoと、また、貧困地域の子ども達への炊き出しはTatagというフィリピン現地のローカルNGOとの共同事業です。
さらに、日系NGO団体の活動予算は、多くの場合日本からの会費・寄付収入および(JICAや民間財団からの)補助金に依存することが多いのですが、フィリピン国内およびUSAIDなどの国際的支援機関の援助を受けているところも新しい特徴と言えます。
以上の多領域の活動を同時並行的に実施していますが、このような状態は、もちろん一夜にして成立したわけではなく、フィリピンにおける30年近い活動を通じて、徐々に他のNGO団体、関係政府機関や民間企業との信頼・連携が深まる中で、可能になってきたものであることに注意する必要があります。
その意味で、今回の私達の研修で学ぶことが出来たのは、アクションの活動の「氷山の一角」であり、本研修の目的である「国際協力の多様なありかた」を知るうえで、「学びがいのある」団体ということができます。
(続く)
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