フィリピン研修2023春(10)ースカベンジャー地域
観光旅行の対象としてのフィリピンではなく、フィリピンの社会問題に関心があるひとの中に、なぜか「ゴミ山」を連想する人が多いようです。そのイメージには無理もないところもあるのですが(私もその責任者の一人でもあるので)、「ゴミ山」と言っても、そこにはいろいろな問題が含まれているので、一言補足しておきたいと思います。
まず、マニラ首都圏の「ゴミ山」問題は、私が研究を始めた40年(?)前からあまり変わりなく、現在でも深刻な問題として存在しています。ただし、ゴミ問題と見えるものの中には、
回収されないゴミが不衛生であるという衛生問題、
ゴミ回収が十分に行われていないという行政的問題、
日本のようにゴミ分別が行われていないというごみ処理方法の問題、
ポイ捨て問題に見るような住民の意識の問題、
ゴミ回収に従事するスカベンジャー(scavenger、ゴミ回収を生業とする人たち)問題-これは彼らが就けるようなもっと良い仕事がないという雇用問題、
ゴミ山の周りに発達した、スカベンジャーなど貧困者たちが住むスラム問題、
このようなスラム地域がしばしば不法占拠(Squatter)地域であるという土地所有にかかわる問題、
他にもあるかもしれませんが、このような問題が含まれているわけです。また、ゴミといっても
家庭ごみ、商業施設のゴミ、産業廃棄物、医療ゴミ(コロナ禍で急増)などいろいろあり、それぞれ個別に、
ゴミ排出量の削減(リデュース)、リサイクル、リユーズなど、環境負荷の低い、持続可能なゴミ対策を考える必要があります。
さらに、ここでいう「ゴミ」は固形ゴミ(solid waste)のことですが、
固形ゴミ(solid waste)に加えて、
下水・排水による河川・海浜地域の汚染
も深刻な状態にあります。これらは互いに関係している問題ですが、どこに焦点を当てるかにより、「解決方法」は当然変わってきます。
ゴミ問題は、マニラ首都圏(特にトンド・ナボタス地域およびケソン市パヤタス)が有名ですが、日本のNGO団体であるDaredemo Heroの努力のおかげて、近年セブ市におけるゴミ問題の深刻性も、かなり知られるようになってきました。しかしある程度の人口があれば、そして産業化が進んでいれば、必ず大量のごみが発生します。人口が急速に増えている地域では、問題の深刻性が加速化します。
さてここからはオロンガポの話ですが、オロンガポのような「地方都市」にも深刻なゴミ問題があります。
オロンガポ市が何もやっていないわけではありません。例えば、ちょっと調べただけですが、2009年から“CR3” (Compose, Reduce, Re-Use, Recycle program)がスタートし、オロンガポ市を構成する17の町(Barangay)レベルで、リサイクルできるゴミとできないゴミに分別回収すること,また、コンポストを使い有機ゴミの量を減らす取り組みを始めました。これはフィリピンでも進んだ取り組みとして高く評価されています。
2015年には、古いゴミ集積場を閉鎖し、改善した衛生的なゴミ集積施設を開設しました。New Cabalanにある旧施設は1980年代から市のごみ集積場として使われてきたもので、未処理のゴミの野外集積場でした。雨がふれば汚泥状態になり、高台にあるため、あふれた泥水が河川に混入し、レプトスピラ症(leptospirosis、ワイル病)による死者や多数の感染者の原因になったと言われています(死者11人感染者500人)。ゴミ山の崩落により死者が出たこともあります。ただし、新施設の建設により、その状態が完全に解消したかどうかは定かではありません。これは次回の訪問の際の課題にしたいと思います。
以上に加えて、米軍基地の返還の後に開発が進んだスービーク自由貿易港では、日本のJICAが世銀と一緒に、既存のごみ集積場の改善やごみ処理・環境保全に関して技術協力をしていることもわかりました(1997~2002)。
ただし、残念ながら、現在でもゴミの分別は十分にされておらず、そのため、依然として「伝統的」なゴミ処理方法が続いています。それが、スカベンジャーによるごみの回収と分別です。
分別されたごみは、仲介業者が購入し、ゴミの種別によって、さらに上位の企業が購入し再利用することになります。ゴミ処理・リサイクルの最末端従事者であるスカベンジャーは、作業中に健康被害に直面するだけでなく、賃金は低く、貧しい生活を余儀なくされています。
今回訪問したのはスカベンジャーが住むベゴーニア(Begonia)地区です。残念ながら、今回オロンガポ市の「ゴミ山」は見せてもらえませんでしたが、ここでは彼らの居住環境を視察するとともに、子どもたちのために、炊き出しのお弁当の配布を行いました。
地域の説明はTatagの代表から。この地域の支援は、ローカルNGOであるTatagと一緒にやっています。Tatagは1994年に元ストリートチルドレンらによって設立されたローカルNGOで、現在17の貧困地域とオロンガポ市内の路上で活動しています。ストリートチルドレン支援、貧困地域の母親グループの組織化や児童の権利の啓発活動を行っています。
彼らはこのようなところに住んでいます。
大家さんがいい人で、ゴミ回収人家族はアパートに住まわせてもらっています。家の中も見せてもらいましたが、狭いところに子だくさんの家族が住んでいます。シャワーなどないので、給水用の戸外の井戸で、男も女も水浴びをしています。
作業場の様子。男たちがゴミを集め、女たちが分別するという、性別役割分業があるようでした。神業のようにゴミを別の袋に投げ入れていました。なお、ゴミにも高く売れるゴミ、安くしか値が付かないゴミがあります。
炊き出しは、当初ご飯と唐揚げ、マッシュポテトの予定でしたが、炊飯器が壊れたため、急遽サンドイッチに変更。約70食用意しました。パン屋さんやラーメン屋さん、KFCなどでのアルバイト経験が、大変役に立ちました。
お弁当の配布の前にかなり全力で遊びました。子ども達はエネルギーが余っています。
お弁当の配布。サンドイッチ弁当、ジュース、クッキーのワンセットです。子どもだけの予定でしたが、一生懸命働いているスカベンジャーのお兄さんたちにも、特別にお弁当を差し上げました。
食後にさらに子どもたちとの交流。最後は別れを惜しみながら帰路につきました。
さて、夜の振り返りの時間に感想を問うと、孤児院の子ども達と比べ、「礼儀作法」が身についていないというのが、我々の学生たちの観察でした。思い起こすと、確かにそうだったかもしれません。孤児院は良きにつけ悪しきにつけ、隔離され、管理された環境での生活ですが、この地域では、家庭の貧困と地域の貧困が、直接子どもたちが住む生活環境となります。家庭には子どもを育てる時間的、金銭的余裕がなく、地域には子どもを見守る規範や、憧れるような、なりたいと思うような職業的ロールモデルが欠けています。少し注意深く見ることを覚えたかもしれません。
(注) 写真の出典は、明示的に©で示していないところは、全て©2023 Aratame 撮影の写真です。
(続く)
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