1830人の教師が参加した調査研究
皆さん、こんにちは。奈良里紗@世界一楽しく障害科学の情報発信をモットーに活動しております弱視難聴の研究者です。
さて、本日、対面朗読で読んでもらった最新の研究論文について今日はご照会したいと思います。
この研究は、今年に発行された特殊教育学研究に掲載されていたものです。
皆さん、ご存じのように、公立の教師は人事異動があります。
人事異動は職能成長につながるという観点から促進されるようになった仕組みです。
ところが、特別支援教育にとって、この人事異動の仕組みは慎重に取り扱う必要があると私は考えています。
公立の小学校の先生が人事異動で職場がかわっても、基本的にこれまでつみあげてきた教師としての専門性は新しい職場でも役立ちます。
英悟の教師が別の学校に人事異動になっても、同じ英語を教えるのですから問題ありません。
ところが、特別支援学校については、知的障害特別支援学校から盲学校へ、盲学校からろう学校へ、ろう学校から肢体不自由特別支援学校へと、障害種別を超えた人事異動が行われています。
私は、盲学校の先生になりたくて学びました。でも、ろう学校や知的障害特別支援学校など、ほかの障害種別の学校に転勤になったときに、果たしてこれまで学んできたことが活かせるのだろうかと思いました。
実際、私が博士論文で取り組んだ研究においても、ベテラン教師が盲学校に転勤したきた場合、その専門性は0スタートになることが明らかになっています。
今回ご紹介する研究では、1830人の知的障害特別支援学校に勤務する教師が参加しました。
そして、私がこれまで取り組んできた研究同様、知的障害特別支援学校においても、中堅からベテランといわれる勤務年数が長い教員であっても、知的障害特別支援学校での勤務年数が短いと、自信をもって指導にあたることができない実態を明らかにしました。
私の研究では、盲学校に焦点をあてていましたが、この研究によって知的障害特別支援学校でも同様の状況が生じているということが明らかになったのです。
ちょっと考えればわかりそうなことなのですが、この人事異動の仕組みは見直されるどころか、近年、より短期化している状況にあります。3年から5年で別の障害種に転勤となるケースも散見され、各特別支援学校で中核教員として役割を担っていた教員が突然いなくなるなんてこともおきています。
まさに、この4月、そんな状況になっててんやわんやな特別支援学校が全国にいくつあるのか、残念でなりません。教師のキャリアをなんだと思っているのか、そして、何より障害のあるこどもたちの教育保障、人権保障はどこへ?と思ってしまいます。
従前から続くこうした人事異動の制度は、悪いことばかりではないはずです。閉鎖的になりがちな教育環境を人の流動性によって防ぐこともできるでしょう。人事異動を0にするのではなく、どうしたらより効果的に教師の職能成長を促進でき、かつ、障害のあるこどもたちに質の高い教育を法相できるのか、そうした社会の仕組みづくりを考えていくことが求められていると感じています。
私はこの課題の解決に取り組むために、3年計画で研究をしています。今、まさに、1つの研究成果をまとめているところです。きちんと発表ができる状態になったらまたご報告したいと思います。
本日の文献情報は下記です。
別府さおり・吉井勘人・田上幸太(2023)知的障害教育に携わる教師の職能成長と学びの特徴:特別支援学校(知的障害)勤務経験と知的障害教育の専門性に着目して.特殊教育学研究, 60,4, 197-211.
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