感情があふれだす
父親が入所して姉がアメリカに帰り、私は父親と暮らした一軒家で一人暮らしをすることになった。車いすユーザーの私でも暮らせるように最低限のバリアはなくしていたがそれでも不便なことには変わりない。加齢もあり仕事もあって自分のことで正直いっぱいいっぱいであるが、さらに父親を施設にいれたといっても(勝手に望まない支援をされないように)常に職員さんとはコンタクトをとるようにしていたし、日用品やお菓子をもっていったり、週に1回は散歩に連れ出したり、となかなかハードな日々ではある。
そのうえ、家の維持。結構古い家なのでがたもきているし、庭には雑草が生え放題、虫も多くて駆除したり。昔、アパートで一人暮らしをしたことがあるが、その時とは比べ物にならないほどの大変さである。
父親と夕方電話するときや会いにいったときにそんな話をする。
以前はなかったのに入所から数か月したころから話の途中に泣きそうな声になることが増えた。「ありがとうなぁ」
昼間デイサービスに参加しているときにも突然泣きそうになることがある、とナースのホワイトさんからも聞いた。
感情失禁。
ネットでたまたま見ていた記事にそんな言葉がのっていた。
そういうことか・・・。
しんどいときに体をさわられる(背中をさすられる)とものすごい剣幕で怒る、と言われたことがあったけど、それはしんどいからだと思っていた。
普段「紳士」と呼ばれている穏やかな面しか見せていなかった父親の変わりぶりは職員にとってびっくりするものだったらしい。
うまく感情をコントロールできない。周りにいる人に対する感情の出し方かがわからない。そんなこともすぐ忘れてしまうけれど。
一方でその場限りの感情でも、その時は確かにそう思ってたのであるから感情を出してくれるのは単純にうれしい。そう私は思ってしまうのだった。
施設にいるとどうしてもいろんな刺激を受けることは少ない。今はコロナ禍だから制限はあるけれど、できる限り姉と協力して刺激を与え続けようと思う。父親の担当になったブルーさんは、ちょこちょこっと英語を交えて挨拶程度の会話をしてくれたり、ナースのホワイトさんは昔やっていたダイビングや旅行の話を父親としてくれたり、大御所は一緒にユーチューブで音楽を聴いておしゃべりしてくれたり。私が普段様子を聞ける職員さんからそういう話やそのときの父親の様子、その様子を見てどう思ったかまで教えてもらうこともあって、父親は穏やかに暮らせているなと実感するのである。