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東ドイツの複雑さが辛い映画『グンダ―マン 優しき裏切り者の歌』

監督:アンドレアス・ドレーゼン

脚本:ライラ・シュティーラー

音楽:イェンス・クヴァント

出演:アレクサンダー・シェーア アンナ・ウンターベルガー

提供:太秦/マクザム/シンカ

原題:GUNDERMANN

字幕・資料監修:山根恵子

2018年/128分/ドイツ


~感想文~

映画とは直接関係はないのですが、今年初めに読了した小説『革命前夜』の下地がなかったら、私にはなかなか理解するのが難しい映画だったかもしれません。

セリフはあるのですが、全体的に説明が少なく、時代背景が頭に入っていないと日本人には理解に少し時間がかかるように思います。(←いや、私だけ笑)

時系列も行ったり来たりするので、最初どの場面なのか私は追いつくのに少し考えてしまいました。(←だって主人公、見た目が変わらないんだもん!)
また、主人公に関わる人たちの、出来事に対しての醜い部分というか細かな描写はされていません。けっこうドロドロしてるはずなのに、グンダ―マンの優しい歌詞がそれを癒し和らげてくれているようでした。


資本主義である西ドイツに対して、共産主義であった東ドイツに暮らす人々の何とも言えない息苦しさが伝わってくる映画です。
人々の身なりもなんとなく垢抜けていないように見えるし、街の風景もなんだか暗い・・・。そして炭鉱を掘りつくした後に残っている何もない広大な土地。
時代的なものもあるかもしれませんが、全体的に空気が重苦しいです。
須賀しのぶさんの『革命前夜』を読んでいる時にも感じた、「グレー」がかっている印象なのです。灰色の世界。


同じ国民であるけれど、誰も信用できない・・・2021年を生きる私たちにはちょっと想像できません。
お互いがお互いを監視する。一国民にスパイとしての仕事を課し、それによって国家としての体裁を保っていた。西への渇望と逃れられない現実が画面を通じて伝わってきます。
複雑な心情と環境が、シュタージ(秘密警察)への協力となり、心に重石がのしかかる。


『革命前夜』に当時の東ドイツの緊迫感を表現している一文があります。

「いいこと教えてあげる。この国の人間関係って、二つしかないの。仲間か、そうでないか。より正確に言えば、密告しないか、するかよ。」
126頁クリスタの台詞

須賀しのぶさんの小説はフィクションでありながら、まるで歴史モノを読んでいるようなリアルさがありました。


と、ここまで書いてみて、当時の東ドイツは西ドイツに比べるとなんて遅れていたのだろう・・・と思いますが、現在の私たちの生活の中にも似たようなものってありませんか?

私たちはスマホやパソコンを使って日々いろんなものを検索し、購入し、投稿しています。これまでの人類の生活にはあり得なかった、遠くの見知らぬ人との交流が簡単にできるようになりました。

しかしこのプラットフォームを提供する側からすると、毎秒毎分の膨大なデータは、どんどん湧き出る黄金の泉!なはずです。

東ドイツのように、人海戦術で個々人を調べなくても、ある程度の幅を絞ってデータを抽出すれば、手に入れたい情報を得られるようになっていると思います。
これは東ドイツに暮らしていた人々のように窮屈なものではなく、ましてや密告でもなく、むしろ私たちが自ら進んで検索し、投稿し、物を購入しているだけです。たったそれだけで、どんな人であるかを無償でほいほいとデータを提供しています。
こんなちっぽけな人間のことなんて気にするはずがない、と思ってしまいがちですが、ちっぽけなデータが膨大な量になると十分説得力があるデータになり、そこから大きな利益が発生します。


最近このような本を立て続けに読んでいるので悲観論者のように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありません。私もスマホがなければもはや生活は成り立たないだろうし、こうやってnoteに投稿していることも然りです。

ただ、私たちは暴力的な形で監視されてはいないけれど、便利さと引き換えに常に日々の行動を観察され無償でデータを提供している、ということを認識していてもいいのではないか、と個人としては思います。
そして、”密告”ではないけれど、ネット上の偏った正義も少し似ているところがあると思います。


「自分への裏切り 自分に失望した」

というグンダ―マンのセリフがありました。
自分への裏切りが何より辛いものであり、何より心の引っ掛かりとなり長く居座るものなのでしょう。


灰色の世界にグンダ―マンの美しい歌が流れる映画『グンダ―マン』

灰色の世界にバッハの音楽が流れる小説『革命前夜』

東ドイツのピリッとした空気を味わいたい方はぜひ♡





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