本『わたしが芸術について語るなら』千住博
『わたしが芸術について語るならー未来のおとなへ語る』
2011年1月19日 第一刷発行
著者 千住博
発行所 株式会社ポプラ社
~ゆるゆる読書感想文~
図書館で借りた本で、そもそもなぜこの本を手に取ったのかからお話ししたいと思います。
私が”千住博”という名前に初めて出合ったのは、2018年夏に富山県美術館で行われていた「千住博展」に行ったことがきっかけです。
当時は恥ずかしながら千住博さんのお名前を存じ上げず、ただただ富山県美術館に行ってみたいという理由で出掛けて行ったところ、たまたまその時の企画展が千住博展でした。
建物を見に来たから~と、かる~い気持ちで企画展を覗くと・・・驚きました。そこには素晴らしい瀧の絵がいくつも並んでいました。
その瀧に圧倒されて、思いがけず時間をかけてじっくり見て回ったことを覚えています。
同じ年の秋にたまたま軽井沢へ行く機会があったので「軽井沢千住博美術館」へ立ち寄ることにしました。
軽井沢千住博美術館の建物は西沢立衛さんによるものだと知り、これは一度で二度おいしい!!!に違いないと確信しました。
軽井沢の美術館はとても開放的で陽の光がさんさんと降り注ぎ、作品達ものびのびと展示されているような気がしました。
この時点で、私はすっかり千住博ファンになっていました。
あまり記憶力が良いとは言えず(笑)、人の名前などもすぐに忘れてしまいがちな私ですが(涙)、この時千住博さんの名はしっかりインプットされたのです。
というわけで、図書館で子供向け本のおすすめ棚にあったこちらの一冊を迷うことなく手にしたという次第です。
前置きが長くなりましたが、こちらの本、副題に「未来のおとなへ語る」というだけあり、基本的にはこどもたちに読んでもらうことを前提としてなんだかとっつきにくい”芸術”という内容を易しく分かりやすく書いてくださっています。
難しい漢字もほとんどなく、多くの漢字にはルビがふってありすいすい読めます。
私がこどもの頃にこの本に出合っていたら、もう少し将来について真剣に考えたり、試してみたりしたかもしれません・・・と少し後悔したくなるくらいとても良い本だと思いました。
子どもの頃の大人の意見はウザったいと思うことが多いです。でもそれはその時点では想像が追いつかなくて理解ができないからです。
でも、人生の先を体験した人から出る言葉は、やっぱり的を射ているものです。
芸術はとっつきにくいものとして前述しましたが、千住博さんの視点から書かれた芸術は難しいものではなく、むしろとてもシンプルで分かりやすいものでした。
「芸術というのはコミュニケーションであり、なんとかして自分の思いを伝えたいという心の表れです。だとしたら、芸術に感動するというのは、そのなんとかして伝えたいとする心意気に対する感動なのではないでしょうか。」211、212頁より
つまり、芸術とはコミュニケーションだとおっしゃっています。
人はそれぞれ感動するポイントが違いますが、絵や歌、文章に限らず、料理や音、雰囲気や空間など、私たちは自分達が感じている以上に、そのすべての作者(まとめて作者と表現しました)の心を感じて感動するのかもしれませんね。(作者は人に限りません。日本人は古来より虫の音にも情緒を感じる感性を持ち合わせています。)
そして、私がこの本の中で一番好きだと思った箇所が
「この世は混沌の奏でるオーケストラなのですから。」92頁より
という一文です。千住博さんは「美は混沌にある」と書かれています。
この世には千差万別のものが一緒にあって、だからこそ美しい音色になるという意味なのだと私は理解しました。
同じ種類のものだけでは、表現に限りがあります。でもそこに違うものが加わるとまた新しい表現の可能性が広がります。
芸術とは、そういう違うもの同士が伝え合おうとして、それをお互いにキャッチしようとして交流する、そのものが芸術なのかな、と私なりにぼんやりと掴めたような気がしました。
さらに、千住博さんはとても心強い一文を残して下さっています。
「「わたし、個性がなくて‥‥‥」と、がっかりしている人がいますが、個性はないほうがよほど生きやすい。本当は無個性が一番楽なのです。」99頁より
この後に理由が述べられていますが、千住博さん曰く、”個性というのは最初から持っているもの”だそうです。
個性がないとがっかりしたり、思い悩んだりするのは、つまるところおそらく、個性を発揮して輝いているように見える人と比べることによってがっかりしているのではないかな、と私なりに思いました。
でもその輝いている人も、きっと自分で自分の味を出していった結果なのでしょうね。
なんにせよ、人と比べてもあまりよい感情は生まれないものです。
上を見るとキリがありません。
それよりも、自分が持っているものをせっせと磨く方がきっとよい方向に向かっていくのではないかと、未来のおとなたちへの本からそんなことにまで考えが飛躍してしまうくらい、とても素晴らしい本です。
子どもだけでなく、おとなが読んでも多くのことを気付かされる一冊です。