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映画『ノマドランド』

監督・製作・脚色・編集:クロエ・ジャオ

出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン

原作:「ノマド 漂流する高齢労働者たち」

メディアパートナー:朝日新聞

2020年/アメリカ

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2020 20th Century Studios.

~以下感想文~

自分の中の幸せの概念がぐらつくようなそんな作品でした。

定住地を持たずRVで走り続けながら季節労働者としてお金を稼ぐ。
一見ノマドというと「究極の自由人」というイメージですが、BGMの物悲しさと相まって哀愁のただよう‟画”が最後まで続きました。

主人公のファーンは夫を亡くし、思い出に囚われてしまったようにも思えました。彼女と一緒に暮らそうと言ってくれる人たちがいるにも関わらず、彼女はその申し出を受けることはなかった。いや、もう受け入れられないところまできてしまっていたのか、、、どちらにせよ、彼女は刹那的な出会いを繰り返すノマドを続けていきます。

彼女が描かれるシーンというのが、RVの中での「食事」と「睡眠」のシーンが多かったように思います。RVの中ということもあり、とにかく画が暗い。彼女の表情も、無邪気に笑っているシーンは少なかった。とにかく淡々と、その日を懸命に生きている。

また「排泄」のシーンもきちんと描かれていたと思います。「食事」「睡眠」「排泄」「仕事」‥‥‥人間が生きていくうえで必要不可欠なコトを粛々とこなしていく毎日。

ノマドというともっともっと自由でキラキラと輝いているイメージだったのですが、この作品が描いていたのは夢見る若者のノマドとは異なる高齢者のとても現実的なノマドでした。
それぞれがノマドに至った背景や理由は異なるけれど、焚火に照らされる顔はどこか憂いを帯びている。それは孤独と共に生きている人達ならではの表情なのかもしれません。

作中ファーンが立ち寄る普通の家(普通という言葉はあまり好きではありませんが他になんと表現していいか分からない)が、とても心地良さそうに描写されていたのも、対比がくっきりと表れていて感慨深かった。
RVで足を曲げて寝ているのと比べてしまうと・・・大きなベッド・清潔で気持ちの良さそうなシーツ・整えられた庭・親子で連弾していたピアノ・子どものおもちゃや服が散らかっている幸せそのものの家の中‥‥‥孤独な車内とは180度異なるそれらの‟世間的な”幸せの象徴みたいなシーンが、ファーンの乗るボロRVと対照的で、それが私自身に「幸せってなんだっけ?」と強く問いかけた。

彼らは自由であるけれど、どこか哀しみを帯びていて、そして誇り高い。
誰にも媚びない。死ぬ場所は自分で決める。やめるのも自由。続けるのも自由。誰も何も強要しない。荷物や人間関係など余計なモノを持たない彼らは、誰かに遠慮することなく自分の意志で旅を続けている。
そして行く先々でまた再会を心待ちにする仲間がいる。


私がもう一つ深く考えさせられたのは、Amazonです。よく利用するので、こういった季節労働者たちに支えられている企業なのだと、改めて強く考えました。最高の便利さはこうやって成り立っていて、そして格差はこうやってどんどんと広がっていくのか・・・と。

そして何より強い不安を感じたのは「老いること」です。
今や人生80年と言われる時代なのに、老いたらなんだか社会から爪はじきにされるようなそんな不安感が拭えませんでした。
私が小さい頃はまだ「お年寄りを大事に」という言葉があったと思うのですが‥‥‥これからますます「自由」で「個性豊か」で、それでいて「過酷」な時代がもしかしたらやってくるのかもしれません。何を選択するのも自由、だけれど・・・自己責任ですからね、という時代。とても楽しそうと思う一方、やはりそれは楽ではないはず。

自分はどう生きるのが幸せなのか?それを心に強く問われる作品だと思いました。

今年観た映画でベスト3に入るおススメです!


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