「あたしは柴犬のアキ」6
今日も一日がはじまった。あたしは朝のルーティンワークをこなし家族を見送った。今日は何をしようかな。とりあえず小屋で寝よう。「アキちゃーん、アキちゃーん」隣のおばあちゃんの声が聞こえた。おばあちゃんのところまで走っていった。「今日はおはぎよ」と言って手を伸ばしてくれた。おはぎは地面に落とすと泥がついちゃうのでおばあちゃんは掌にのせたまま食べさせてくれた。本当にあずきは美味しい。大好物。アンパンもどら焼きも、なんでも投げ込んでね。いつも塀の隙間からおばあちゃんのお庭を覗いているけど、一度行ってみたいと思っている。とっても大きな犬小屋があって、木が何本も植えてあって、芝生が気持ちよさそう。テーブルとイスが置いてあって、おばあちゃんとおじいちゃんは時々そこに座ってお話をしている。私はこっそりその話をきく。あたしがこの家に来る何年か前まで「チコ」という柴犬を飼っていたらしい。その子とあたしがよく似てるっていつも話している。足袋をはいているかはいていないかの違いぐらいだって。あたしのこともいつも「可愛い可愛い」と話している。今度あたしのためにホームセンターにおやつを買いに行く話もしてた。お姉ちゃんが柴犬を飼いたがっていたのは、そのチコちゃんとよく遊んでいたかららしい。パパとママにチコと同じ犬を飼いたいとずっと頼んでいたらしい。おばあちゃんとおじいちゃんの話から色んなことが分かった。あたしはこのお隣のお庭でとってもとっても遊びたい。あのおおきな小屋で昼寝してみたい。いつもそう思っていた。
おはぎを食べ終わって、自分の小屋に戻ろうとした時おじいちゃんが出てきた。今日はあたしの気持ちを伝えようと決心して、隣との境の塀まで歩いていった。そして吠えた。おじいちゃんは「アキちゃんこんにちは」とニコニコしながら言った。あたしはひたすら吠えた。
いつもと違う雰囲気におじいちゃんはお腹が空いているのかなと思ったのか、もう一つおはぎをくれた。やったーラッキー。でもそうじゃないの。それからもひたすら吠えた。おばあちゃんとおじいちゃんは「アキちゃんどうしたの、何をいってるの」とあたしに色々聞いてくる。「お水、ご飯、散歩」どれも違う。それでも吠え続けた。おじいちゃんが「こっちに来たいの」と聞いた時思いっきり吠えた。やっと気が付いたおばあちゃんとおじいちゃんは、いつも木の枝を切る時に使っている、階段状になったアルミの脚立をこっちの庭におろしてくれた。「アキちゃん、さあおいで」あたしは階段を上がって塀に前足をかけた。おじいちゃんが両手を広げて「アキちゃんジャンプ」というので思い切っておじいちゃんめがけてジャンプしてしがみついた。おじいちゃんは「上手だねぇ、おりこうだねぇ」とほめてくれた。
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