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「あたしは柴犬のアキ」10
朝になった。晴れていてとても気持ちがいい。昨日の夜に降った雨のせいでお庭の芝生は濡れている。ちょっと冷たいけどとりあえず走ってみた。楽しい。さぁ今日も穴掘りの続きをするわよ。絶対バレてはだめ。慎重に慎重にいくわよ。早くみんな出かけてくれないかなぁ。
パパは朝早くに仕事に行った。寝ている時に車のエンジンの音が聞こえたからわかった。お姉ちゃんお兄ちゃんが学校へ行き最後にママがお別れのナゼナゼをしてくれた。よし、穴掘り開始。隣のおばあちゃんにもわからないようにしないといけないし、モモちゃんのあばちゃんにもばれないようにしないといけない。けっこう気を遣う作業ね。掘り始めた。嘘、サクサク掘れる。雨が降って土が柔らかくなったのね。どんどん掘るわよ。お腹の毛が泥まみれになる。足は四本とも泥だらけ。綺麗なのは尻尾だけ。ちょっと掘ってはくぐれるか試す。まだ駄目。もうちょっと。あっ向かいのおばちゃんとモモちゃんだ。ジャーキーを食べながらももちゃんと話す。「私のおうちからは掘っている姿は見えないわ、まだ誰にも気づかれていないと思うわ」モモちゃんは心配してみてくれているのね。ありがとう。
モモちゃんが行ってから、また掘り始めた。少し疲れたので小屋で休んでいると、隣のおばあちゃんがたい焼きをくれた。ふふっ、また餡子ね。魚の形をしているけど魚の味はしないのね。「アキちゃんどろどろじゃないの、どうしたの」おばあちゃんはあたしの異変に気が付いた。バレるといけないので庭を転がったり土の部分にお腹をお擦り付けたりしておばあちゃんの見えるところで遊んだ。「アキちゃん元気ね、土あそびをしているのね」おばあちゃんはそう言うと自分の家に入った。危なかった。たい焼きでお腹いっぱいになったので眠たくなった。また小屋に入ってお昼寝をしようと思った。泥だらけの体を舐めて綺麗にするのに時間がかかった。綺麗になったので小屋に入りお昼寝をした。穴掘りはなかなか時間がかかるのね。
夜になってリビングにいたらママが「アキ、汚れているね。何して遊んでたの」と笑いながら言った。あたしは気が気でなかった。濡れたタオルで体を拭かれて気持ち良かった。