泥酔していた金正恩氏は怒鳴り散らし、夜を徹して反省文を書くよう命じた。
昨年(2023年)、『政治家の酒癖』(平凡社新書)という本を出した。紙幅の都合で割愛した愛すべき政治家についてここで紹介したい。
粛清理由は「姿勢が悪いから?」
両脇を刈り上げ、ポマードで固めた独特の髪型に詰め襟の人民服姿。いまではお馴染みだが、当初、独特のスタイルに世界は困惑した。インターネットで画像検索すると驚くが、祖父であり「建国の父」である金日成そっくりなのだ。金日成に似せるために整形を繰り返したとの脱北者の証言すらある。
10代半ばからタバコを吸い、酒を浴びるように飲んでいたという。お気に入りの酒はウオッカ。期待を裏切らない酒豪感が漂う。北朝鮮が現体制になってから世界を驚かせたのは粛正の多さである。2017年2月にマレーシアで金正男氏が暗殺されたらしいことは多くの人の記憶にとどまるっているだろうが、粛正された人数は、定かではない。
幹部クラスに限っても5年で164人。1年で33人。小学校の1クラスがまるごとふっとぶ計算だ(ちなみにこれらには心臓麻痺や泥酔しての交通事故死などは含まれていない)。
もちろん、この推測は正しいかどうかはわからない。あくまでも韓国筋の情報だ。そうした前提で読んで欲しいが、本当になにがきっかけで粛正されるかはわからないのだ。
例えば、金勇進副首相は2016年8月処刑されたが、6月末の最高人民会議の席上、メガネをはずして拭いていたことが正恩氏の逆鱗に触れ命を落としたといわれている。さすがにそんな理由はないと思われるだろうが、当初は「姿勢が悪いから」と報じられていたから、なんだかメガネを拭いていても粛清されかねない気もしてくる。どちらにしろ、理解に苦しむ。
「泥酔状態」で処刑説
この問題をさらに複雑にするのが酒だ。
例えば、下記の記事ではいかにこの君主と酒のl組み合わせが怖いかを物語っている。
なんだか典型的な酔っ払いのエピソードでこちらも泣けてくる。長老たちは生きた心地がしなかったに違いない。
実はこの3年前に、正恩の叔父で政権ナンバー2だった張成沢朝鮮労働党行政部長が処刑されている。この事件は日本でも大々的に報じられたので覚えている人も多いだろう。背景はいろいろ語られているが読売新聞の報道によると直接的には酒が引き金になっていたという。
金正恩氏には重病説がつきまとう。韓国の国家情報院によれば、身長は約170センチとされるが体重は、権力を継承した2011年末の約80キロから14年には120キロに、16年には130キロに達した。国情院は20年11月の国会説明では体重が140キロに達したと説明していた。映像や写真を見る限りでは実際、体重増は否定できない。肥満はご存じのように心臓病のリスクを高める。祖父の金日成(キム・イルソン)も、父の金正日(キム・ジョンイル)も心筋梗塞で死亡しており、酒もタバコもなんでもこいとなれば心臓への負担はさらに増す。
影武者説とジェットスキーダイエット
常にささやかれていた体調不安説がピークに達したのが2021年9月9日未明に行われた軍事パレード。激やせして髪型も一変させた金正恩氏の映像に「影武者説」がインターネット上を駆け巡った。悲しいかな、誰もダイエットとは考えずに、影武者説や死亡説を喧伝した。確かに体重は右肩上がりに増え続け、10年間で約1・8倍。そこで反転して激やせとは考えにくい。
結局、この激やせ映像は本人の可能性が高い。実際、韓国の国家情報院は二ヶ月前の7月8日の韓国国会情報委員会で「正恩氏が体重を10~20キロほど減らした」と説明している。また、米国の北朝鮮専門メディアNKニュースは6月に民間衛星会社「プラネットラボ」の衛星写真を根拠に、日本海側の元山沖で同月6日と13日に、それぞれ10数台のジェットスキーの一群とプレジャーボートが航行している様子が確認されたと伝えたという。
こうした点と点を結んでいけば、影武者説の可能性は極めて小さくなる。とはいえ、20キロ落とすにはジェットスキーに励んだくらいでは難しいはずだ。病気で無ければかなりの食事制限と強い運動を強いられたはずだ。果たして金正恩式ダイエットがあるのか。気になるのは私だけではあるまい。
※トップ画像はそっくりさんです。
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