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新世界におけるホテルの提供価値

私が働くHOTEL SHE, KYOTOがクローズして、早1ヶ月が経ちました。

当初は4月24日までが休館予定でしたが、現在は5月末まで延長。正直、この先もいつまでクローズ期間が続くかわかりません。

緊急事態宣言が解除されたとしても、すぐに旅行客が戻ってくる保証は1ミリもなく、ましてやインバウンド需要は少なく見積もっても1〜2年は苦しい状況が続くでしょう。

全国展開していた大手ホテルチェーンが経営破綻したというニュースからもわかる通り、ホテルを含むサービス業はこれまでにない危機に晒されています。


今ホテルは 『場の提供』 ができない 

ホテルという産業は、何百年にも渡って概念がほとんどアップデートされてこなかった業態です。江戸時代の旅籠でも布団と食事は提供していたわけで、バブル時代の団体旅行も、LCCが生まれた後の海外旅行も、業態変化はほとんど起きていません。(飲食や移動インフラなどは結構変わってますよね。)

ホテルの提供価値は、当たり前ですが『場の提供』。

ロビーがあって、レストランがあって、客室がある。そこに非日常的な空間演出や、ホスピタリティが加算されることで館ごとの差別化がなされてきました。

ですが、新型コロナウイルスの影響で、その場にお客さまをお呼びすること自体が困難になりました。(もちろん完全に不可能、という訳ではないと思います。リモートワーカーへの開放や、ホテルシーでも先日よりシェルターとしての利用受け入れがスタートしました。)


場が失われても、非日常はお届けできる

HOTEL SHE, KYOTOも4月早々にクローズ判断となったわけですが、そうなるとお客さまに直接的にサービスをお届けすることができません。もう指をくわえてコロナの収束を待つか、ホテルの付随事業としてケータリングサービスを始めて、京都市内を自転車で駆け回るしかないわけです。

でも考えてみると、場を失ったからといって、ホテルの本質的な価値である非日常をお届けしたり素敵な夜をお過ごし頂くためのサービス提供ができない訳ではないのです。

北海道から沖縄など、いつもはサービスをお届けすることが難しい遠くのお客さまにも、インターネット回線を使えば私たちのサービスをお届けできるはずです。


憂鬱なGWに、私たちが届けたかったもの

例年ゴールデンウィークと言えば、日本中どのホテルも1年で最も忙しい時期であり、同時に多くのお客さまの笑顔を見ることができる期間でもあります。

4月にホテルのクローズが決まったタイミングで、きっと今年のGWは100年に一度の憂鬱な日々が訪れることがわかりました。

だからこそ、5月1日から6日のGWの夜に、HOTEL SHE, KYOTOではとあるリモートイベントを開催しました。


自宅からホテルにチェックインする体験を

本来は6月に「泊まれる演劇 MIDNIGT MOTEL」という演目で、ホテル一棟を舞台に物語を体験していただく参加型演劇を企画していました。

ですが、この状況により実施を断念、無期限の延期となりました。ちょうど同じタイミングでHOTEL SHE, KYOTOのクローズも決定。

ですが人は追い詰められると凄いもので、いつもは絶対に思いつかないアイデアと、死んでも実現してやるという強い信念(もはや呪い)で、企画方針を大転換し、仲間を募り、無謀にしか思えないスケジュールで3週間後のGWに狙いを定めてイベント制作をスタートしました。

ベンチマークにする先行事例はどこにもなく、賛同してくださったクリエイターの方々と毎晩遅くまで話し合い、トライ&エラーを繰り返したのちに、ホテル×演劇×オンラインという全く意味のわからない新型エンターテイメントが生まれました。

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480名のお客さまがオンラインホテルにチェックイン

ざっくりとした企画内容は、(1)HOTEL SHE, KYOTOを架空のホテルに見立てて (2)そこで巻き起こるサスペンス劇を (3)お客さまが自宅のPCやスマートフォンで鑑賞しながら (4)物語に参加する体験型イベント、です。

Harumari TOKYOさんがめちゃくちゃわかりやすくまとめてくださったので、是非こちらも読んでみてください。


オンライン企画といっても無料公開ではなく、いつものHOTEL SHE, KYOTOのお部屋代金(一人当たり)と同等の価格でチケットを販売しました。(有難いことに即完売しました。)

期間中は毎晩19時から怒涛の4公演をおこなったのですが、その全てをライブ配信し、実際の客室やロビー、通常は立ち入ることができないリネン室や屋上までをフル活用。「まるで実際のホテルにチェックインしたような体験」にこだわって制作しました。


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作品タイトルもホテルの客室を連想させる『ROOM 101』とし、劇中の案内もコンシェルジュがシームレスに担当(オープニングもエンディングもなし)、ご参加いただくお客さまのご自宅に実際に”招待状”が届く演出などを取り入れました。

お客さまの感想も、鑑賞ではなく宿泊チェックインといった言葉に溢れていて、「実際にホテルシーに泊まりたい」といった声もたくさん頂き、めちゃくちゃ嬉しかった...(中には連泊いただいた方も!)


なお、『ROOM 101』の再演もいつかやりたいですし、6月に早くも次回作である『ROOM 102』も控えております。もしご興味をお持ちいただいた方は公式ツイッター公式noteをチェック頂けると幸いです。


ホテルの提供価値はお客様を笑顔にすること

『新世界におけるホテルの提供価値』なんて、いかにも「時代が変われば価値も変わるの?」みたいな記事タイトルですが、いつの時代も変わらず、私たちホテルの役目はお客さまを笑顔にすることだと思います。

もし提供の場が失われたのなら別の方法でサービスを提供をすればいいし、場が戻ってきた日には、失った分だけ直接提供させて頂きたい。やっぱりリアルに敵うものはないのですから。

ブレてはいけないものはしっかり握りしめて、よく分かんない定説や常識はには耳を塞いで、匍匐前進でもいいから前に進みたい。

そして、日常が戻ったら真っ先に旅先に選ばれるホテルでありたい。




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