医療と治安当局の限界
数か月前の事。
お巡りさんの家庭訪問があった。
和多志たちの地域を順番に回ってくれていたそうで、
生活の中での困りごとなどを聞いてくれていた。
和多志の雑談したいモードに、あえて引っかかってくれたお巡りさん。
「和多志の元の同僚で、警察官から転職した人がいたんですよ~。
理由を聞いたら、言葉が通じる人を相手に仕事がしたいって。
朝から晩まで一日中、迷子か酔っ払いの相手ばっかりで、
嫌になっちゃった、って言ってましたよ~。」
そんな和多志の言葉に
「わかるわ~。それ、ホントにあるんですよ。
ちょっと違うかもしれないけど、
『宇宙から攻撃を受けてる』って言い張るおばあちゃんがいるけど、
まさか「あんた、狂ってるよ」とも言えないでしょ。
話を聞く以外にこっちは何にもできないし…。」
と言うお巡りさん。
「うわぁ~、大変ですね~」
と言う和多志に
「そうなんですよ。相手も大変なんだろうけど、こっちも大変なんですよ~(笑)」
とお巡りさん。
こんな会話をして、お巡りさんは
「何かあったら言ってくださいね~」
と優しい笑顔で次のお宅に向かわれました。
そんなことがあってから、数か月後。
和多志の元に、あっと驚く資料が届きました。
なんと軍事兵器が一般の人間に流れてしまって、
それを手にした人は、いきなり本番!というわけにはいかなくて、
やはり誰かを練習台にしなくてはいけないという事。
練習台は無作為に選ばれた一般市民だという事や
具体的な技術等が書かれた資料が入っていました。
今、ヨーロッパでは戦争が行われています。
武器がアンダーグラウンドな市場に流れて売買されていると聞きます。
10年以上前の話ですが、
日本の自衛隊がソマリア沖での海賊を取り締まった時に、
危害を加えずに海賊にその場を立ち去ってもらうための兵器がありました。
ピンポイントで数キロ先の特定の人物だけに声や音を聞かせる兵器です。
その兵器は、もちろん愛をささやくこともできます。
恋人同士なら、そういう使い方もできるでしょう。
でも、それは軍事兵器。相手は海賊。
だからこそ、その人、もしくはその一団にだけ聞こえる嫌な音を出すのです。その場にいられないレベルの嫌な音です。
日本が持っていた兵器ということは、アメリカも持っています。
もしこのような兵器がアンダーグラウンドな市場に流れていたら…。
そして、仮にそのような兵器が無作為に選ばれた一般市民に使われたと仮定します。
まず被害届は受理されないと考えられます。
というのは、証拠が押さえられないからです。
そして、被害者は「幻聴が聞こえる」という症状により、精神科にて何らかの病名が付くことでしょう。
では精神科医は、「本当に幻聴が聞こえているのか、
それとも病気以外の原因により、原因不明の声が聞こえたのか」
を判断できるのでしょうか?
和多志はできないと考えます。
現代の医療と治安当局の限界を見た気がしました。