#1-1 カオスマップの向こう側 D2C女性アパレル編
カオスマップを掘り下げるnote第一弾。
全体概要は「#0 カオスマップの向こう側 (D2C編)」を参照ください。
左上から順番に行くので、
今回は「女性アパレル」から5ブランドピックアップ。
1.COHINA <Sサイズ女子のための綺麗めカジュアル>
<基本情報>
創業年:2017年
Product:XS~Sサイズの女性アパレル
Promotion:インスタフォロワー106千人(2019年11月時点)へのライブ配信
Place:自社WEBでのEC(※常設店舗なし)
Price:パンツ・スカート10,000円前後、ワンピース12,000円前後
数々のメディアにも掲載されているCOHINA。身長155cm以下の女性のためのベーシックファッションを展開するアパレルD2Cです。
アパレル未経験の創業者清水葵さん(151cm)と田中絢子さん(148cm)が自身の低身長へのコンプレックスから作り上げたファッションブランド。
「いつも、テイストを妥協するか、サイズを妥協するかのどちらかだったんです。たとえばお店で素敵な服を見つけて試着室に行っても、丈が合わない、切り替え位置が下がっちゃう、シルエットがダサくなる。小さい服を取り扱っているお店があっても、可愛すぎたり、若すぎたり。綺麗目なものやカジュアルなもの、年齢を重ねても着れるようなものってなかなかなくって……。
それなら自分たちがほしいテイストの服を作ってしまった方がいいんじゃないかということで、小柄な女性向けのファッションブランドを始めることにしました」(田中)
Forbes「小柄女性向けブランドに、わずか4か月で熱狂的なファンがつく理由」
インフルエンサーの憧れの世界観への共感ではなく、「自分でも着れる」「コンプレックスが解決できる」といった等身大の感情の呼び起こしを重視しています。
<顧客接点:共感を生むインスタライブ>
その共感を、106千人のフォロワーを持つインスタを使って作り出していきます。ポイントは、
・全ての画像に「身長記載」
・インスタライブによるインタラクティブな会話
全ての画像に「モデルの身長」を記載することで、自分の身長にあったモデルを探すことができ、全ての画像を同じ仕様にすることで、低身長コンプレックスに対応しやすいUX/UIを徹底。
インスタの画像も同様で、本文にはECページへの誘導リンクを貼ることで、気に入った商品があれば即座に購入できるようにしています。
また、インスタライブを毎日配信しているのも特徴です。「ライバー」と呼ばれるインスタライブを行うモデル(155cm以下)が、リアルの接客に近づけるように商品説明を実施。
モデルさんも、どちらかというと等身大に近いモデルで、一時期流行った「読モ」に近い感覚。
インスタライブにはチャット機能がついているため、顧客とのインタラクティブな会話や、中には顧客同士の会話が発生することで、広告宣伝、ECとしての役割でなく、コミュニティ形成・維持のための重要な役割を果たしています。
静的なインスタ投稿から動的なインスタライブまで利用してコミュニティ形成するD2Cの代表ブランドと言えます。
2.overE <胸が大きい女性向けブランド>
基本情報
創業年:2016年
Product:美乳・細みせを叶える女性アパレル
Promotion:Twitterフォロワー1.7万人(2019年11月時点)へ投稿
Place:自社WEBでのEC+試着ができるアトリエサロン
Price:ジャケット15,000円前後、ワンピース13,000円前後
アパレル未経験の創業者和田真由子さんやメンバーが「世の中にはこれほど服があるのに、自分に似合う服が見つからないのはなぜだろう」と悩んだ経験から作り上げたD2Cブランド。
先述のCOHINAさんと同様に、コモディティ化したファッションサイズから外れた「イレギュラー」なサイズに対応する女性アパレルブランド。
「無いものは作る」というのは起業の一つの精神ですね。
下着メーカーが発表していた、近年胸が大きな女性の割合が増え、4人に1人はEカップ以上という統計も起業の後押しとなりました。とはいえ、アパレルの知識も人脈もないので、まずは「胸が大きな女性向けのシャツが作りたいんです!」と工場を突撃。パタンナーさんが胸が大きな女性だったことから、手厚いご協力をいただき、製品作りをスタート。ようやく納得のいくものができ、着想(2015年5月)から1年3か月後となる2016年8月に会社を設立。同月中にクラウドファンディングサイトでの「overE」発表に至っています。
Googirl「私らしい起業のかたちvol.17 起業家 和田 真由子」
「理想のワンピース」と題して、お客様に襟の形から袖丈・色・形・着たいシーンや細かなこだわりまでアンケートを取った結果に基づいてパターンを作るなど、同じコンプレックスを持つ顧客の声を元に製品開発。
<顧客接点:アトリエでのリアルな会話>
また、ブランドとの顧客接点として、
・予約制試着専門の常設店舗
と、販売しない試着専門店舗があるのも特徴です。
銀座に「overE サロン&サテライトアトリエ」を構え、店舗ではオンラインストアで販売している商品を試着できるほか、発売前の商品サンプルを展示。サンプルに対する顧客の声をよりダイレクトに反映した商品作りを目指しており、まさに、ファンとのコミュニティスペースと言えます。
試着室の利用はWEB上での予約制となっており、試着・相談は無料。リピーター向けの30分コースや新規向けの60分コースがあり、個人の時間の都合に応じて利用時間を選択できます。
ランジェリーサイズを記入する項目があるのはoverEのブランドアイデンティティを感じる部分です。
3.Foo Tokyo <高級ナイトウェアブランド>
基本情報
創業年:2018年
Product:オーガニックコットンによるルームウェア、タオル、コスメ等
Promotion:WEBメディアfoostyle magazine
Place:自社WEBでのEC+リアル店舗(西陣織会館、井筒屋)
Price:パジャマ上下57,000円前後、バスタオル7,500円前後
上質な素材にこだわり抜いたナイトウェアを展開するD2Cブランド。
創業者の桑原真明さんの「頑張って働いている人を応援したい」という思いを元に、家に帰った時にリラックスできるルームウェアの企画に行き着いたようです。
ブランド名は、ひと息つく時の「ふーっ」に由来しているようです。「ほっ」と一息」じゃない感じが、「働いている人」を感じさせます。
「日本の生地は海外のハイブランドで使われているような素晴らしい品質です。日本の良いものを使って、日本発のブランドを作れたらと思いました。テクノロジーが発達する中で、アナログで残るものは、より贅沢なものになっていくと思うので、残ってくるであろうエモーショナルな部分をブランド化していきたいです」(桑原氏)
BRIDGE「上質素材にこだわるナイトウェアD2Cブランド「Foo Tokyo」運営のNext Brandersが総額5000万円の資金調達を実施」
それにしてもパジャマで57,000円は非常に高価。D2C=サプライチェーンを中抜きするから安い。と思われがちですが、あくまで「コスパ」が良いのであって、絶対額の価格を抑えることが目的ではありません。むしろ、高価格になりがちな小ロットの希少品の価格を適正に抑える、という考えの方が正しいかもしれません。
<顧客接点:WEBメディア「FooStyle magazine」>
顧客接点とは少し異なる視点になりますが、オウンドメディアでコンテンツマーケティングをして顧客を引き込んでいるのは一つの特徴です。
上質なライフスタイルを送るためのアイデアが掲載されており、footokyoの製品だけでなく、他社の製品も掲載しながら、コスメや食についても記事にしており、雑誌に近いメディアを自社で運営しています。
リアル店舗もありますが、独立したブランドショップというよりは百貨店の平場での展開。他にも、マルイウェブにも商品を掲載するなど、顧客と直接コミュニケーションを取るというよりは、広く世界に広めるためのチャネル拡大をしているようです。
4.RiLi TOKYO <熱狂的ファンが作りあげる女子ブランド>
基本情報
創業年:2017年
Product:ニットを中心に女性アパレル全般
Promotion:Owned Media「RiLi Tokyo」
instagram:RiLi Tokyo 253千人、RiLi Shopping 168千人(2019年11月時点)
Place:自社WEBでのEC(※常設店舗なし)
Price:ニット5,000円〜8,000円、パンツ・スカート5,000円前後
10代〜20代女性に熱狂的に支持されているキュレーションメディア「RiLi.Tokyo」で共感されるコンテンツを生成し、そのコンテンツに合う製品をセレクトし、ストアで販売する形で連動。
オリジナル製品よりもセレクトの方が多く、D2Cというよりは、メディア運営が主体のECビジネスモデル。
メディアを運営していると、ユーザーさんと自然とコミュニケーションが発生し、インスタグラムで流行っているものや、探しているけど売っていないものという需要が見えてくるようになったんですよね。そこで、発信していたコンテンツを記事から、商品という形で変換してみたらすごく喜ばれたんです。当時、インスタグラムでパジャマパーティーの写真を撮るのが流行っていたので、かわいいパジャマを探してきて売ったら、その日のうちに完売。これを拡大したらユーザーさんに喜んでもらえるコンテンツになりそうという発想からショップがはじまりました。なので、最初からショップをやろうと思っていたわけではないんですよね(代表 渡辺氏)
shopify「#RiLiっぽ」が爆発的人気を呼ぶRiLi STORE 誕生のきっかけは「ユーザーの声」
<顧客接点:RiLiっぽさを追求するインスタとWEBメディア>
インスタでは、
・メディアRiLi.Tokyoのフォロワーは253千人
・ストアRiLi.shoppingのフォロワーは168千人
と、メディアもストアもどちらも驚異のフォロワー数。そして、WEBメディアでは、インフルエンサーが「ファッション」「ビューティー」「ライフスタイル」などのカテゴリーでコンテンツをアップし、インスタとWEBメディアでファンコミュニティを作り上げています。
コンテンツごとに画像の上に一文のタイトルを載せ、分かりやすいUI設計にしているのと、メディアもストアも画像のサイズなどのトンマナが統一されているので、メディアからストアにも入って行きやすいUX。
面白いのはファンの中に形成されている「RiLIっぽさ」と言われる抽象的概念。ファンが求める「RiLiっぽいってこういうことだよね」というコンテンツを発信し、ファンとの「会話」や「いいね」から、何が共感されているかを検証し、次に活かすことで「RiLiっぽさ」をファンと作り上げてきている。
「RiLiっぽさ」を土台にコミュニティを積み上げてきており、この点はすぐに真似できないブランド資産となっていると思います。
5.17kg <インスタ発プチプラ韓国系レディースブランド>
基本情報
創業年:2017年
Product:韓国系女性アパレル
Promotion:instagramフォロワー 554千人(2019年11月時点)
Place:自社WEBでのEC+リアル店舗(ラフォーレ原宿)
Price:ニット5,000円〜8,000円、パンツ・スカート5,000円前後
創業した2017年と「Korean Girl」の頭文字をとったブランド名「17kg」
10代の女子から熱狂的な支持を受けるプチプライスの韓国系ファッションECブランドです。
RiLi Tokyoと同様に、D2Cというよりは、徹底的にインスタを研究して、そこから見える「女子が好きなもの」を届けるECブランドという感じ。
塚原さんが次に注目したのがインスタグラム。インスタグラムの日本での成長と、インスタベースの購買体験の将来的な社会の変化を読み取り、インスタを軸としたブランド作りを考えました。しかし、どのような路線で行くべきなのか? 韓国系プチプラレディースファッションにたどり着くまでには試行錯誤がありました。「インスタグラム上で物を販売しようと考えたものの、じゃあ何を売ればいいのかという点は、すごく悩みました。10ショップくらいのアカウントを試験的に立ち上げて、そこで色々施策を打って、ユーザーのリアクションを見てというのを試行錯誤しましたし、その時期は苦労しましたね。1人で10ショップの管理とか…(笑)」(代表 塚原氏)
shopify「インスタ発の大人気ブランド「17kg」世界を目指す若き起業家の挑戦」
COHINAやoverEのように、女性創業者のコンプレックスが原体験となって作り上げられたのではなく、男性創業者がインスタの中から見えた顧客ニーズを捉えて科学的にコミュニティを形成してきたブランドと言えます。
<顧客接点:熱狂的ファンを生むインスタと超人気リアル店舗>
そのファンコミュニティを作り上げているのが
・フォロワー数554千人を持つインスタ
・若者の聖地 原宿のラフォーレ原宿の常設店舗
です。
ファッションブランドアカウントとしては驚異の数値とも言えるインスタフォロワー数を誇っており、見た所、毎日4〜5個ぐらいの画像を投稿しているようですが、ここでのエンゲージメントを分析して、反応があるもの、ないもの、例えばモデル着用か平置きか、どちらがエンゲージメントが高いかを分析して、ストアでの販売に繋げるマーケティングをしています。
インスタマーケティングのような若い感性が必要なことから、従業員の平均年齢22歳という組織も、この仕組みを回すための一つのファクターかもしれません。
また、常設店舗を出しているのも一つの特徴です。スタートアップでは賃料の問題もあり一等地に出店できない中、原宿のど真ん中、ラフォーレ原宿に出店しています。
全てピンクの内装で、インスタ映えする店内となっており、代表の塚原氏の談話などを読むと、まだまだリアル店舗への出店余地がある、という発言もあったので、今後もリアル進出が進むかもしれません。
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今回のまとめ
今回のピックアップブランドからは、
・コンプレックスから生まれた原体験型D2C
・メディアで形成したコミュニティにモノを届けるEC
という大きく2つのモデルが見えてきました。
どちらかというと前者がよく語られる「D2C」の定義に近いわけですが、今後のスケールのことを考えると、マイノリティに対する販売よりは、広くトレンドを追いかけるメディア型ECの方が販売額は大きくなると思います。
ただし、身体的マイノリティが消えることはないので、末長く受け入れられるのは原体験型D2Cであるとも言えます。そのあたり、今後に注目。
「顧客」との関わり方がD2Cの1つの面白みなので、今後も顧客接点に注目しながらnoteしていきたいと思います。
掲載画像は各ブランドHP、インスタから抜粋して掲載させていただいています。