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3年間の農業へのチャレンジ、そしてカミナシへ
私が農業の世界に踏み出した理由
私は2020年ごろから約3年間、農業に挑戦していました。カミナシには多様なバックグラウンドをもつメンバーが在籍していますが、私はその一例として「実際に農業をやっていたエンジニア」です。
カミナシの魅力や面白さを語る入社エントリは既に多くありますが、ここでは「カミナシにはこんな人もいるのか!」と知ってもらうたけに、私が取り組んだ農業の話を中心にお伝えします。農業にあまり興味がない方にも、「農業って意外といろんな形があるんだな」と感じていただければ嬉しいです。
なぜ農業を始めようと思ったのか
私は新卒からずっとエンジニアとして働いていましたが、いずれ自分で何か事業を興したいという思いがありました。事業を始める時に、自分の持つリソースを最大限に活かせる分野は何だろう?と考えたときに思い浮かんだのが農業でした。通常、就農で最も大きなハードルとなるのは農地の確保や地元とのコミュニケーションですが、私の場合は比較的クリアしやすい状況でした。
農地の確保
親が農家だったため、農地を借りるのが容易でした。
地元のコミュニケーション
地元の祭りの団長を務めた経験があり、地域のツテや人脈が豊富でした。これにより、周囲の農家さんともスムーズに交流できました。
こうしたアドバンテージがあったため、「自分がやるなら農業しかない!」と思い、2020年頃から徐々に準備を始めました。
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農業を始めるまで:イベントと出会いの広がり
2020年5月、前の会社でエンジニアとして働きながら、いつから農業を本格的に始めようかと考えていました。そんな中、2021年7月に参加した次世代農業サミットをきっかけに、物事が一気に動き出します。
次世代農業サミットでの宣言
イベントで話す機会をいただき、「農業を始めたい!」と宣言したところ、複数の参加者が声をかけてくださいました。私がトマトやイチゴの環境制御に興味を持っていることを話すと、トマトの環境制御を手がける農家さんを紹介していただくなど、多くの情報とアドバイスをいただきました。
トマトやイチゴから花へ方向転換
実際にトマトの環境制御を行っている農家さんにインタビューしたところ、トマトやイチゴを本格的に栽培するには初期投資がかなり高額で、立ち上がりまでに時間もかかることがわかりました。そんな中、地元の農家さんから「実家が花を作っているなら、野菜や果物ではなく花卉(かき)栽培を始めてはどうか」と提案をいただきます。両親から栽培ノウハウを学べるのでスムーズに始めやすいのでは、という考えでした。
方針の確立
こうした状況を踏まえ、私は以下の3つの柱を定めて本格的に動き始めることにしました。
花の栽培を行いつつ、ITエンジニアの仕事も続ける
安価な環境制御に挑戦し、農業にITを活用する方法を探る
認定新規就農者を目指す
この方針のもと、親の花卉(かき)農家をベースに、実際に準備をスタートさせました。
「認定新規就農者」とは、農業を新たに始める人が市町村に作成・提出する青年等就農計画が認められた際に得られる認定のことで、低金利・無利子、あるいは無担保で融資を受けられる制度の利用や、自治体・農業団体からの研修・アドバイスが受けやすくなるといったメリットがあります。
方針の詳細な理由
ダリアとスプレー菊を選んだ理由
市場規模と単価が伸びている
過去20年の花卉市場データを調査したところ、ダリアとスプレー菊は市場規模・単価ともに上昇傾向で、将来的な売れ行きに期待できるとかんじました。
ある程度の栽培難易度がある
ダリアやスプレー菊は気温や湿度に左右されやすく、種苗費や栽培期間もコストがかかります。ただ、高い難易度を逆手にとり、安価な環境制御で乗り越えられれば、大きな強みになると考えました。
地域の気候が適している
奈良の宇陀市はダリアで有名ですが、私の実家はその宇陀市と気候が似ており、露地栽培やハウスでも育てやすい可能性がありました。
安価な環境制御を行う理由
大きな初期投資はリスキー
トマトやイチゴのような本格的な環境制御には数千万円規模の投資が必要ですが、新規就農の段階でそのリスクを負うのは避けたいと考えました。
ITスキルでコストを下げられる
私のエンジニアとしての知識を生かし、市販のデバイスを組み合わせて自作すれば、従来の環境制御ほど費用がかからないのではないかと試算しました。
スモールスタートでリスクを下げる
いきなり大規模な施設を導入すると、台風など不確定要素が多い農業では取り返しのつかない損害を被る可能性があります。小規模の少額投資で実験し、軌道に乗れば拡大する方が現実的だと判断しました。
認定新規就農者を目指す
無利子・無担保で融資を受けられる制度を活用するためにも、まずは小規模でトライして経験を貯めておく必要があると考えました。
こうして、「ダリアとスプレー菊を栽培し、安価な環境制御に挑戦する」という方針が固まりました。
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大学の農業プログラムで学んだこと
さらに知識を深めるため、2022年4月から約10ヶ月間、大学の次世代農業マイスター育成プログラムを受講しました。ここを選んだ主な理由は以下のとおりです。
学問と実践の両立
最先端の研究に触れつつ、畑で田植えや収穫を行う実習も経験できる環境でした。
授業料の安さ
民間の農業大学校と比べると比較的安価で、多くの研究者や専門家の話を聴ける魅力がありました。た。
多様な受講生と出会える
実際に行ってみると、40~60代の方が多く、仕事を引退してからも学び続ける方や全く違う経歴を持つ方と交流でき、非常に刺激を受けました。
同時並行で週末には実家の花卉栽培を手伝い始めました。畑の耕運や草刈りなど、「花を育てる以前の土台づくり」が想像以上に大変だと痛感しました。
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「なぜ他の農業スクールを選ばなかったのか?」
農業を学ぶ手段としては民間スクールも候補でした。そちらでは実践的なノウハウを体系的に学べる魅力がありますが、私の場合は以下の理由から大学のプログラムを選びました。
学問的なアプローチ
研究やデータ分析の視点を取り入れ、体系的に学びたかった
費用対効果
民間スクールより授業料が比較的安く、研究者・専門家の講義を効率よく受けられると感じた。
ワークスタイルとの両立
通学頻度や授業日程が、自分の仕事スケジュールにフィットしていた。
もちろん民間スクールは「現場密着型で学びたい」「経営にダイレクトに役立つノウハウを得たい」という方に向いていると思います。私の場合は目的と合致していたのが大学のプログラムだった、というのが一番の理由です。
いざ栽培スタート!
2022年12月に大学のプログラムを修了し、2023年3月には前職の正社員を退職。業務委託契約に切り替え、エンジニアとしての稼働日数を減らしながら本格的に花卉栽培に取り組みました。
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ダリアの栽培
実家の畑を一部借りてダリア栽培をスタート。大阪でのダリア栽培は珍しいらしく、種苗会社の方が様子を見に来てくれたほどでした。
ダリアは春〜夏、秋〜冬の2シーズンで栽培しました
スプレー菊の栽培
実家では一時期スプレー菊を栽培していましたが、その後はやめていました。私が農業を始めるにあたり、再度スプレー菊にも挑戦してみることに。
農業 x IT の両立
農作業は早朝開始が基本ですが、ITの仕事は夜遅くまで対応が必要な場合もあり、生活リズムの調整が最大の苦労でした。
出荷と喜び
実際に自分の手で作物が育つ様子を見るのは何にも代えがたいモチベーションでしたし、初めて出荷した花が市場で売れて売上が立ったときの達成感は、言葉にできないほど大きかったです。「ああ、ちゃんとお金になるんだ」という実感とともに、ものづくりの手応えを強く感じたのを覚えています。
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撤退を決断した理由
しかし、試行錯誤を続けるうちにさまざまな課題が浮上し、2023年12月末をもって花卉栽培から撤退しました。その理由は大きく3つあります。
収益面の課題
ダリアは種苗費や箱代、運送費がかさみ、両親が作っている他の花と比較しても収益率がかなり低かった。
花卉は野菜ほどブランド化しづらく、コストを掛けても売上に反映させるのが難しい。
体力と時間のリズムの限界
早朝に農業、昼〜夜はITという生活は想像以上にハード。
真夏や真冬の過酷な気候、そしてアレルギーで体調を崩すことも多く、継続が難しくなってきた。
ITスキルを十分に活かせなかった
花卉のブランディングや付加価値のつけ方に限界があり、ITを活用しても費用対効果が合わないケースが多かった。
栽培品種と立地・気候のマッチングが不十分だと、安価な環境制御でもコストパフォーマンスは適地での露地栽培に劣ることがわかった。
撤退は悔しい決断でしたが、実際にやってみたからこそ得られた学びは非常に多かったです。
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農業をやって感じたこと
自分で作ったものが売れる喜び
「作って終わり」ではなく、市場へ流通して収益が発生したときの感動は格別でした。
体力がとにかく大事
早朝・真夏・真冬など、常に自然に合わせた働き方が求められ、ITとは全く異なる世界を痛感。何十年も続けてきた両親を改めて尊敬しました。
多くの人のサポートを頂いた
農業を始めるとき、栽培しているとき、そして撤退を決めるときも、農家仲間や友人、家族が相談に乗ってくれ、力を貸してくれました。大変だった場面も、人とのつながりが支えになりました。
そしてカミナシへ
花卉栽培の撤退を決めた後、2024年5月にご縁があってエンジニアとしてカミナシへ入社しました。カミナシには私のようにさまざまなバックグラウンドを持つ方がおり、SaaS事業とは一見かけ離れているようにも思えますが、この3年間の農業経験で、
ビジネスを自分の手で動かす難しさと喜び
体力を保つことの重要性
地域や人とのつながりの大切さ
を身をもって学びました。そんな私がカミナシを選んだ理由には、大きく3つあります。
農業の現場で感じた課題をテクノロジーで解消できる
農業を通じて“現場”で働く方々は、非効率や手間の多さに日々苦労していることを痛感しました。カミナシは製造・飲食・小売などあらゆる現場の作業を効率化するSaaSを提供しており、こうした「現場のリアル」に寄り添うサービスを展開している点に大いに共感を覚えました。
カルチャー・メンバーとの相性の良さ
農業をしていた頃に、カミナシのPodcastを聴いていました。代表である諸岡さんの人柄や、私の前職出身のエンジニアが複数いることなどから、チームのカルチャーが自分に合うと感じました。面談で実際に話を聞いてみると、「現場の方々を本気で支えたい」という想いが会社全体で共有されており、私のITスキルと農業経験を両立させられる環境だと確信しました。
農業×エンジニアという経験を活かせる
「ものをつくる」現場を実際に経験したITエンジニアはまだ少ないと思います。私が農業の現場で得た実感や課題意識を、カミナシの開発やサービスに活かすことで、多くの現場で働く人々にテクノロジーを届けられるのではないかと強く感じました。
おわりに
今後はカミナシで、「現場」で働く方々を支えるサービスをつくり上げる側として、これまでの学びを還元しながら成長していきたいと考えています。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
農業やカミナシに興味がある方は、ぜひお気軽にTwitter (X)で声をかけてください。これからもどうぞよろしくお願いします。