[4−42]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
番外編3 ミアとスイカ割り(とティスリ)
「スイカ割りしようぜスイカ割り!」
ミア達が小一時間ほど海水浴を楽しんで、休憩用パラソルに帰ってくると、ナーヴィンがそんなことを言ってきた。
アルデがティスリさんの不興を買った罰として、男性陣は目隠しをさせられている。だから泳ぐことも出来ず、パラソルの下でぼーっとしていたようだけど、そこで目隠し状態でも出来るスイカ割りを思いついたんだろう。
なんだかちょっと気の毒ではあるけれど……でもやっぱり、水着姿を見られるのはまだ恥ずかしいし……
アルデには、もうちょっとだけ目隠しをしてもらおうかな。
午後くらいにはわたしも覚悟を決めるから……
そんなことを考えていたら、ティスリさんがアルデに聞いていた。
「そのスイカ割りとはなんですか?」
するとアルデは、目隠しをされているのに器用にもティスリさんに顔を向けていた。声の聞こえる方向で分かったのかな?
「ああ、やっぱり知らないか。スイカ割りというのは、目隠しをしながらスイカを割るゲームだよ。オレ達、目隠ししてたら遊べないじゃん? だから──」
「遊べないのは、アルデがいやらしいからでしょ」
「い、いや……またそれを言い合うと話が進まなくなるから勘弁してくれ……」
「分かりましたよ。で、スイカ割りとはなんなのですか?」
アルデがスイカ割りの説明をして、リリィ様の別荘にもスイカがあるとのことで、とりあえずやってみることになった。ちなみにスイカを割る道具は警備員用の木刀とのこと。わたしたちの家だったら木刀なんてあるはずもないし、さすがはお貴族様だなと思う。
そうして砂浜にスイカをセットすると、ナーヴィンが明後日の方向に拳を振り上げた。
「よし! そしたらオレからやるぜ!」
アルデと違って、周囲の状況がぜんぜん分かっていないらしい。まぁ目隠しされてたら普通はそうなるよね。
だからナーヴィンはスイカの位置も分からないので、わたしがナーヴィンの手を引きながら説明することにした。
「ここがスイカの位置ね。そしてここから20歩離れた場所がスタート地点」
「オッケーだ!」
「そしたら五回転でスタートだよ」
そうしてナーヴィンは、スタート地点で五回転してからスタートしたけど……なんか最初からスイカとは大きくはずれた方向へ歩いて行くなぁ……
さらにそれをアルデとユイナスちゃんが囃し立てていた。
「ナーヴィン、いいぞ〜、そのままそのまま〜」
「いや違うわよ、もっと左よ左〜!」
さすがに海に向かって一直線に歩いて行くのは危ないので、わたしが「違う違う、戻ってきて」と言ってもナーヴィンは足を止めない。声が重なり合って上手く聞き取れないみたいね。
そうして結局ナーヴィンは「四の五の言わず、オレに任せとけ!」などと言って、まったく違う場所で木刀を振り下ろす。
「手応えなしだと!?」
驚くナーヴィンは、その周辺で何度か木刀を振り下ろすけど、そもそも、スイカとは全然違う場所に歩いてしまったので当たるはずもなかった。
その後、わたしとユイナスちゃんが挑戦してみるも……見事に空振り。スイカ割りなんて子供のころ以来ですっかり忘れていたけれど、思ってたより難しくてびっくりした。
そうしてスイカ割り初挑戦となるリリィ様がやることになって……リリィ様、ちょっとウキウキな感じで可愛いな。
それにしても大貴族様だというのに、こういう庶民的な遊びに抵抗ないなんて、リリィ様って思ったより親しみやすいお方なのかも?
でもリリィ様は、ユイナスちゃんによって、スイカとは正反対のほうへと誘導されてしまう。
「あ、あれって大丈夫なの……?」
わたしは驚いてアルデに問いかけるも、今のアルデは目隠し状態だから首を傾げるばかり。だからわたしが状況を説明すると……
「ああ、大丈夫だろ。リリィが貴族と言っても、あの二人、友達みたいなものだし」
「そ、そうなの……?」
アルデが大丈夫というので様子を見ていたのだけれど、空振りに終わって目隠しを外したリリィ様は大変にご立腹だった……!
「ちょ!? ユイナス! 正反対じゃないですか!」
「くふふ。そりゃあ回転しているとき、スタートを真逆の位置にしたからね」
「謀りましたわね!?」
「最後の回転が半分だったのに気づかないリリィの負けです〜」
う、うん……
リリィ様、確かに怒ってはいるけれど……
でもそれで、ユイナスちゃんを権力によってどうこうする気はまるでないらしい。まるでないというか、考えてもいなさそう。
例えるなら、子猫同士のじゃれ合いという感じね。
わたしも、村長の娘としてお貴族様とは面識あるけれど……あんな感じに接してくれる人、今までいなかったな。
やっぱり大貴族にもなると、細かな礼儀作法なんて気にしないのか……あるいはユイナスちゃんが凄いのか……
そもそもユイナスちゃんって、ティスリさんにも慕われてるんだよね。アルデ達は隠しているけれど、ティスリさんって、十中八九お貴族様だと思うし……テレジア家関係の。
そうじゃなければ、リリィ様がお姉様呼びしないと思うし。っていうかアルデ、あれで隠しているつもりなのかな?
だからそのティスリさんにも気に入られているということは……やっぱりユイナスちゃんが凄いのかも……
あの物怖じしない性格がいいのかな? いやでも……わたしがあんな感じでお貴族様に接したら、下手したら投獄されるな……
だとしたらなんでだろ? ユイナスちゃんって、お貴族様を魅了する才能でもあるのかしら……?
などとわたしが考えていたら、そのユイナスちゃんがアルデに向かって言っていた。
「じゃあつぎ、お兄ちゃんやってみてよ!」
「おう。しっかり割ってやるよ」
アルデも目隠しを外せないから、ユイナスちゃんが手を引いて、スイカの位置関係を説明してからスタートとなる。
「それじゃ、スタート!」
そしてユイナスちゃんの掛け声と同時に、アルデが歩き出す。
それにしてもアルデって……
すごく……
すごく引き締まった体をしてるなぁ……
ナーヴィンはひょろっとした感じで頼りなさげなのに対して、アルデはガッシリした安定感がある。
それでいて太ったりしてなくて、むしろしなやかさもあって……っていうか、どうすれば無駄なお肉をあれだけ落とせるの……!? まるで彫刻みたい……!
う、羨ましい……わたしなんて、ちょっと油断したらすぐお肉がついちゃうのに……とくに胸とお尻……
でもこれは、男女の違いで仕方がないんだろうけれども。
もちろん、アルデが武芸達者なのは知ってるし、だったら体が引き締まるのは当然なんだけど……
こ、こんなにまじまじと見るのは、初めてっていうか……
子供の頃は、二人で水遊びとかしたり(必ずユイナスちゃんが割って入ってきたけれど)、さらには一緒にお風呂なんて入ったりしたけど(やっぱりユイナスちゃんも一緒だった)……
い、いま考えたら恥ずかしすぎる!
いやでも、子供の頃の話だし?
あの頃は、アルデの体付きなんて気にもしてなかったから、ぜんぜん覚えていないけど……
少なくとも、今みたいに格好よく感じた記憶はない。
い、いやいや!
今だって別に、格好良くなんて感じてないし!?
ただ、無駄なお肉がなくて羨ましいだけだし!
そんな感じでドキドキしていたら、アルデは、ナーヴィンのウソ誘導にも惑わされず、一直線にスイカへと向かうと、迷いもなく木刀を振り下ろす。
そうして、見事にスイカを割っていた。
「きゃーーー! さすがお兄ちゃん! すごいすごい!」
そんなアルデに、ユイナスちゃんが飛びついて喜んでいる。
わたしの横では、ナーヴィンが不服そうに言っていた。
「チッ……そりゃあ、武芸達者なお前じゃ簡単だよな」
「まぁな。目隠し程度で相手を見失ってたら戦いにならないしな」
「そ、そうかなぁ……? 戦いにならないほうが普通だと思うがなぁ……?」
うう……今さっき、妙なことを考えていたから、アルデとおしゃべりするのが恥ずかしい……
アルデが目隠しされてて本当によかった。じゃないと、真っ赤になったわたしの顔で、何を考えていたのかバレかねない……!
だからわたしは、アルデにむかってつい憎まれ口を叩いてしまう。
「やっぱりアルデは、剣技だけは凄いよね」
そんなわたしに、アルデは、大して気にした様子もなく答えてきた。
「剣技だけとはなんだよ、だけとは」
「あれれ〜? じゃあ勉強のほうも凄かったっけ?」
「ぐっ……そ、それは……」
「なら剣技だけって限定されても仕方がないよね〜?」
「ぬぐぐ……」
「ちょっとミア!? お兄ちゃんと話すんじゃないわよ!」
恥ずかしさを誤魔化すためにアルデをからかっていたら、ユイナスちゃんに割って入られたので、話はそこでおしまいとなってしまう。
でもまぁ……いいか。
これでちょっと、心を落ち着けられたし。
ドキドキの収まりを感じていたら、リリィ様がティスリさんにスイカ割りを勧めていた。
「お姉様もいかがですか? スイカ割り。スイカはまだありますし。なかなか興味深い体験でしたわよ」
「……そうですね。やりましょう」
ティスリさんは、なんとなくムッとした感じだった。ど、どうしてかな……?
そうして無言のまま木刀を手に取ると、目隠しをして回転を始める。
その後、木刀を構えたティスリさんは……同性のわたしが見ても惚れ惚れするほどサマになっていた……!
な、なんというか……すごく格好いい……!
華奢な体だというのに、慣れた手つきで木刀を構えるその姿勢は、すごく凜とした感じで美しかった! あと、白いワンピースで木刀を構えるというそのアンバランスさも絶妙で、思わず見惚れそうになる。
「では、始めます」
そうしてティスリさんも、目隠しをしているのにも関わらず迷わず歩いて行き、一気に木刀を振り下ろす。
「えっ!?」
そのときわたしは、思わず驚きの声を上げていた。
なぜならスイカが、まるで包丁で切られたかのように、スパッと真っ二つに分かれる──どころか六等分に切り分けられていたのだから!
なんで木刀なのに……あんな鮮やかな切り口なの!?
「凄いですわお姉様! 木刀でスイカを砕くのではなく、切ってしまわれるなんて! 魔法ですか!?」
感動しているリリィ様に、ティスリさんは目隠しを外しながら答える。
「魔法を使うまでもありません。抜刀術を応用すれば木刀でも切れるのです」
「さすがですわ! 原理はまったく分かりませんがステキ過ぎですわ!!」
そんなリリィ様の称賛を受けながら、ティスリさんはアルデに視線を向けた。
「ふっふっふ……分かりましたか、アルデ」
「えーっと……何を?」
「あまり調子に乗っていると、あなたの頭がこうなるということを、ですよ」
「調子にも乗ってないし、スイカがどうなったのかも見えんのだが……お前の言わんとすることは分かる……」
「ならばよくよく自重することです!」
「オレが先にスイカを割ったのが、そこまで気に食わないと?」
「そういうことを言ってるのではありません!」
「じゃあなんで怒ってんだよおまいは!?」
「お、怒ってなんていませんが!?」
などと言い合いが始まる。そこにユイナスちゃんも参戦して、その混乱はいよいよ混沌となっていった──
──あ?
も、もしかして……
わたしがアルデに見取れていたこと、ティスリさんにバレてたのかも……
だ、だから不機嫌になってしまったとか……?
いやでも、それでアルデを怒る理由にはならないよね? わたしが怒られるならともかく。
だから結局、ティスリさんが不機嫌になった理由は分からなかったけれど……
でもなんだか楽しそうだな……あのふたり。
* * *
ティスリは、なぜ皆さんがスイカを割れないのかさっぱり分からなかったのですが、アルデだけは難なくスイカを割りましたね。
それはそうですよね。目隠しと回転程度では、方向感覚も平衡感覚も狂わせることなど出来ませんからね、普通は。魔法を使って狂わせるならともかく。
そんなことを考えていたら、ユイナスさんが興奮してアルデに飛びついていました。
「きゃーーー! さすがお兄ちゃん! すごいすごい!」
ナーヴィンさんも不服そうに言っています。
「チッ……そりゃあ、武芸達者なお前じゃ簡単だよな」
ふむ……二人の反応からすると、アルデのやったことは、実は凄いということでしょうか? こういった評価は、わたしは厳しすぎるきらいがあるので、世間的には凄いのかもしれません。
そう思って、一般的な感覚を持っているであろうミアさんに視線を向けると……
……えーっと……
なんだかとっても、熱視線をアルデに向けているような……?
見取れているというか、惚れ惚れしているというか……
目隠し&回転でスイカを割ることが世間的には凄いことだったとしても──
──そうは言っても、たかがスイカですよ!?
そんなに見惚れるようなことでしょうか!?
わたしが唖然としていると、ミアさんも称賛するかと思いきや、しかしその台詞は揶揄を含むものでした。
「やっぱりアルデは、剣技だけは凄いよね」
「剣技だけとはなんだよ、だけとは」
「あれれ〜? じゃあ勉強のほうも凄かったっけ?」
「ぐっ……そ、それは……」
「なら剣技だけって限定されても仕方がないよね〜?」
「ぬぐぐ……」
「ちょっとミア!? お兄ちゃんと話すんじゃないわよ!」
途中でユイナスさんが会話に割り込んだので、二人の会話はそこまでとなりましたが……
あのミアさんの感じは……なんというか……
いえ別に、ミアさんが悪いというわけではないのですが……
なんというか……
なんというか……!
あ、そうです!
ミアさんが悪くないのだとしたら──
──やっぱりすべてはアルデが悪いのです!
アルデが自身の技能を見せつけるべく、調子に乗ってスイカを割っているから!
怒りの正当性を確認してなぜか安堵していたら、リリィが言ってきました。
「お姉様もいかがですか? スイカ割り。スイカはまだありますし。なかなか興味深い体験でしたわよ」
「……そうですね。やりましょう」
ふっふっふ……見てなさいよアルデ……
そうやって調子に乗っているとどういう目に遭うのか、ここは、しっかりと教え込まねばなりませんね!
だってそれこそが、主としての責務ですから!
ということでわたしは、スイカをアルデの頭に見立てて向き合うのでした!
(ちゃんちゃん)