[4−13]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第13話 お姉様の操り人形ということですね!?
ティスリがリリィを戒めていると、お役所の係員がおずおずと近寄ってきて、応接間へと案内してくれました。
これで、萎縮してしまった受付ホールの人達も胸を撫で下ろせたことでしょう。
そうして応接間で貴族の責任者を待っている間、わたしはリリィに言いました。
「あなたのことを信用したわたしが間違っていました」
「そそそ、そんなお姉様!? わたしのいったいどこが至らなかったというのですか!?」
「それが分かっていないから、わたしは怒っているのですよ!」
しかしここでリリィに言って聞かせてもあまり効果がないように思えます。過去にも散々言ってきたことなのに、リリィはまるで理解していないのですから。
そこでわたしは一計を講じます。
「ひとまずこの面談では、念話を繋げっぱなしにして臨むことにします。あなたがおかしな言動をしたらわたしが訂正しますから、訂正を受けたらそのように話してください」
「なるほど!」
わたしのその提案に、リリィは不服を申し立てるどころか嬉々として言いました。
「つまりわたしは、お姉様の操り人形ということですね!?」
「はいぃ──!?」
思ってもみないことを言われて、わたしが思わず言葉を詰まらせていると、リリィは恍惚としながら捲し立てます!
「お姉様の手足となって動けるなんて、これほど光栄なことがありましょうか!? いやもはや手足ではなく、言動も同じということは一心同体なのでは!? つまりわたしはお姉様に完全支配された人形といっても過言ではないのです!」
「人聞きの悪いことを言わないでください!?」
相変わらず理解不能なリリィの思考回路に、わたしは思わず声を荒げてしまい──と、アルデの横に座っているユイナスさんの視線が痛いのですが!?
「うわぁ……ティスリってば支配欲の塊じゃない。サイテー」
軽蔑の視線を向けられて、わたしは慌てて弁明します!
「ち、違いますよユイナスさん!? 支配とか一心同体とか、そんなこと微塵も考えていませんから! ですがリリィに任せていたら何を仕出かすか分からないから──」
「だからって、魔法でリリィをコントロールしようとするなんてドン引きだわー。それにさっきからリリィに暴力まで振るってるし、こわーい」
「うっ……!」
た、確かに……逐一指示を出そうとするのは元より、みぞおちを抉ったり、こめかみをグリグリしたりはやり過ぎだったかもしれませんが……
リリィの場合、いくら言っても効かないものですから、折檻するのが癖になっていて……
迂闊でした。確かに傍目から見たら暴力にしか見えません……!
「おいユイナス、いい加減にしとけ」
と、そこでアルデが助け船を出してくれます。
「お前、どうせ心にもないことを言ってるだけだろ」
「何よお兄ちゃん。仮にそうだとしても、暴力がいけないことに変わりないでしょ」
「む……それはそうだが、でもこいつらのやりとりは、そういうんじゃなくてだな……」
「アルデ、いいのです」
せっかくアルデが庇ってくれましたが、わたしはそれを遮って言いました。
「確かに……リリィに対する折檻はやり過ぎだったと思います……今後は一切手を出さないと約束するので──」
「そんなお姉様!?」
わたしの反省を遮って、リリィがわたしに掴みかかってきました。
「お姉様!? 折檻してくださらないなんてどうしてですか!?」
「………………えーと?」
もはやリリィの言動がさっぱり意味不明になり、わたしは首を傾げるしかなくなります。
「お姉様の折檻とはつまり愛の鞭! 最高のご寵愛なのですよ!?」
「………………………………」
ま、まさか……
わたしの折檻を、リリィがそんな風に捉えていたなんて露知らず……
わたしは絶句するしかなくなります。
「ユイナス!」
そうしてリリィは、涙目になってユイナスさんを睨み付けました。
「わたしとお姉様の仲を裂こうだなんて、どういう了見ですか!?」
するとユイナスさんは、なんだか投げやりな表情になっていました。
「別に、仲を裂こうなんてしてないわよ」
「ならば先ほどの発言は撤回してください!」
「あーもー、分かったわよ。ティスリは今後も、リリィには思う存分折檻すれば? わたし、あなたたちの関係なんて興味ないし」
「ということですわよお姉様! 今後も思う存分に愛の鞭を振るってくださいまし!」
「………………………………」
もはや、何を言っていいのやら……
わたしは言葉に詰まって、思わずアルデを見ます。
するとアルデは、頬を掻きながら言いました。
「まぁ……これまで通りでいいんじゃね? ユイナスの言ったことは、まったくもって本心じゃないから気にするな」
「そ、そうですか……」
とはいえ……やはりユイナスさんの言うとおり、折檻は良くないですよね。
それにリリィが、妙な勘違いをしまくっていますし……
だからわたしは、今後は折檻するのはやめようと密かに誓うのでした。
「な、なぁ……アルデ……ちょっとこっちに……」
わたしが密かに誓っていると、ナーヴィンさんがアルデを部屋の奥に連れて行きますが、さほど広くない応接間では会話が筒抜けです。
「ティスリさんって……もしかしてエスなの?」
「違いますからねナーヴィンさん!?」
やはり折檻は良くない! 絶対やめよう!
その決意を固めていると、応接間の扉がようやくノックされるのでした……