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[3−31]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第31話 お前、ぼっちだったもんなぁ……

 懇親会が始まり、ティスリわたしは和やかな雰囲気を楽しんでいました。

 基本的にはナーヴィンさんがこの場を盛り上げてくれて、村のことや農業のことなど、冗談を交えつつ話してくれました。市井には疎いわたしにとっては、なかなかに興味深い話です。

 ミアさんからは、学校時代のアルデの話を聞けました。まぁ予想していたことではありましたが、勉学に関してアルデは落第寸前だったようですね。本人は認めていませんでしたが。

 最低限の読み書き計算は出来るようになったようですが、衛士の必須科目である法律法令についてはもうすっかり忘れているようですし、もしかしたら、読み書き計算も半分くらいは忘れているかもしれません。

 わたしの護衛兼従者としては、それなりの学も求められますし、四則計算も忘れていたら生活にも支障が出ますから、今後、アルデには、定期的に教育が必要かもしれませんね。

 であればわたし自らが教育してあげましょうかね。

 アルデは嫌がるかもしれませんが、これも従者の務めですし……ふふ……ふふふふふ……

 などと考えていたら、ユイナスさんの視線に気づきました。

「ん? どうかされましたか、ユイナスさん」

 わたしは、できるだけ柔らかい感じでユイナスさんに話しかけると、ユイナスさんは視線をぷいっと逸らしてしまいます。

「別に……何を一人で笑ってるんだか、と思ってただけよ」

「えっ……今わたし、笑ってましたか?」

「………………」

 わたしは思わず口元を押さえますが、ユイナスさんは顔を背けたまま答えてくれません。

 懇親会が始まって小一時間くらい経ちましたが、ユイナスさんはこんな感じでだんまりなんですよね……なんとか会話の糸口を見つけたいところなのですが……

 それに農業体験を終えてからは、なぜか怯えられている気もしますし……

 わたしが考えあぐねていると、アルデが声を掛けてきました。

「ところで、飲酒魔法は成功したみたいだな」

 そう言われて自分のグラスを見ると、混成酒は三分の一ほどになっていました。

「当たり前です。わたしの魔法はいつだって完璧です」

「いや、以前は失敗してたじゃん」

「お酒からアルコールを抜くこと自体は成功していたでしょう? まずくなってしまったのは魔法のせいではありません」

「へいへい。まぁ、お前が悪酔いしなければなんでもいいんだけどさ」

「…………悪酔いなんてしてませんよ、いつだって」

 ふと、妙な記憶が脳裏をよぎった気がしたので……わたしは慌てて、飲酒魔法のチェックをすることで、黒歴史を振り切ることにしました。

 発現中の飲酒魔法は、現在でもきちんと機能していることが感覚的に分かります。それでいて、体の中からほんのり暖かさも感じるのは……これがいわゆるほろ酔いという状態なのでしょう。

 これならば、どんなに酒精のキツいお酒を、あたかもジュースのように呑んだところで泥酔することはないですね。

 これでわたしも酒豪の仲間入りというわけです。自分の魔法で酒精を克服したんですから、酒豪といっても差し支えないでしょう。というか、わたしは別に酒豪になりたいわけではありませんけれども。

 しかも体内に酒精がほぼ取り込まれないわけですから、体にも負荷はかかりません。酒精は知能を下げるともいいますし、今後はおバカなアルデにもこの魔法を掛けてあげましょう。内緒で。

 などと考えていたら、わたしと同じく、いい感じに酔っている様子のナーヴィンさんが言ってきました。

「なぁなぁ、せっかくの夏なんだし、みんなでどっか行こうぜ」

 すると麦芽酒を片手にしたアルデが言いました。

「どっかに行くって、どこに?」

「そうだなぁ……いっそ海とかどうよ? 泊まりがけで!」

「泊まりって……収穫時期の今に村を出るわけにもいかないだろ」

「いやほら、今年はティスリさんのおかげで、あっという間に収穫が終わりそうじゃん?」

 そうしてナーヴィンさんはわたしに視線を向けてきます。だからわたしは答えました。

「そうですね……農業魔法を封じ込めた魔具を、村の皆さんにお渡しすれば、この村の農地の広さから逆算すると数日で収穫は終えられると思います」

「数日!?」

 この場にいる全員が目を丸くします。そしてアルデがつぶやくように言いました。

「ま、まぢかよ……通常は1ヶ月以上かけて、しかも連日作業するってのに」

 ナーヴィンさんは大いに喜んでいました。

「そうしたら、一ヵ月も夏休みを取れるじゃんか!」

「いや、作業は収穫だけじゃなくて、他にもいろいろあるだろ。けどまぁ、ちょっとした休みは取れるかもしれないな」

 ミアさんも呆然としながら言いました。

「この時期に、休みが取れるだけでも信じられないよ……」

 ふむ……余った時間が急に出来ると、いずれは麦畑の拡張となっていくのでしょうけれども、そうすると市場価格にも気をつけねばなりません。食べきれないほどの麦が出回れば暴落しますし、それは農民の首を絞めることになってしまいます。

 であれば魔法を絡めた農具開発は、もう少し緩やかにしたほうがいいでしょうね。人口増加に合わせる形で。

 その辺はのちのちきちんと計画するとして、この村の皆さんに、魔具をあげることくらいは問題ないでしょう。どのみち、わたしの作る魔具は、向こうしばらくは誰にも再現が出来ないのですから。

 魔具の影響について目算していると、アルデがわたしに聞いてきました。

「それじゃあ、農作業が一段落したらどこかにでも行ってみるか?」

「バカンス、ということですか……それもいいでしょうね」

 貴族たちは、長期休暇を取ってよくバカンスに繰り出していたようですが、公務をしていたころのわたしは、そんな暇もありませんでしたからね。

 今は公務を気にする必要もありませんし、バカンスを体験してみてもいいかもしれません。

 とはいえ、海に出向いて何をするのかはよく分かりませんが、まぁ行けば分かるでしょう。知らないまま体験するのも楽しみの一つですし。

 ということでわたしは、みんなに向かって頷きました。

「それでは、農作業が一段落したら海に行ってみましょうか」

「そうこなくっちゃ!」

 なぜかナーヴィンさんが一際喜んでいました。よほど遊びたいのでしょうか?

「メンバーはこの面子でいいか?」

 ナーヴィンさんがみんなに尋ねると、ミアさんは「いちどお父さんに聞いてみなくちゃだけど、農作業が終わったら大丈夫だと思う」とのこと。

 ユイナスさんは「お兄ちゃんがいくなら当然わたしも行くわよ」とのことでした。このバカンスは、ユイナスさんと親交を深めるよい機会になるかもしれませんね。気合いを入れないと。

 そんなことを考えていたら、ミアさんが言ってきました。

「ティスリさん、もう一杯いかがですか?」

 言われてふとグラスを見たら、ちょうど空になっていたところでした。

「そうですね。では今度は葡萄酒の赤を頂こうかしら」

 何しろわたしはこれまで、葡萄ジュースを呑まされていましたからね。酔わせないためにやむを得なかったとはいえ、その事実を知った今となっては、周囲の気遣いにはむしろ不満を感じなくもないわけで……

 そもそもわたしがお酒に弱いことを、家臣の誰かが教えてくれさえすれば、アルデの前であんな醜態をさら……いえいえ!

 醜態なんて晒していません! わたしは常にカンペキです!

「ティスリさん? どうかされました?」

「へっ?」

 グラスを手渡しながらミアさんが首を傾げるので、わたしは思わず上擦った声を出してしまいました。

「い、いえ……どうもしていませんよ……」

 そういって、わたしは葡萄酒を口に含みます。

 んーーー………………

 アルデと出会ったとき、チープな酒場で葡萄酒を呑みましたが、それと同じような渋味が口の中いっぱいに広がっていきました。

 そんなわたしを見て、アルデがニヤリと言ってきます。

「お前には、葡萄酒はまだ早いんじゃね?」

 ……なんだか失礼な顔ですねっ!

「別に早くなんてありませんよ。晩餐会などではよく呑んでいたのですから」

「だからそれは葡萄ジュースだったんだろ」

「葡萄酒も葡萄ジュースも、原材料は同じなのですから似たようなものです!」

「いや、それを似てると言っている時点で味が分かってないじゃんか」

「いいえ! 十二分に分かっています!」

 そう言ってわたしはもう一口、葡萄酒を口に含みます。

 独特の渋味と、それでいて果実の甘みがごくわずかに感じられて、あとはなんというか……コクがあったりなかったり……?

 う、うーん? はっきり言って、ミアさんが作った混成酒のほうがぜんぜん美味しいんですけど、なんでこのようなお酒が市場に出回っているのでしょうね? 貴族の間では高値で取引されていると聞いていますが……

 わたしが不思議に思っていると、ミアさんが言ってきました。

「安い葡萄酒だし、ティスリさんの口には合わなかったかも……ごめんなさい」

 好みでないことが顔に出ていたのか、頭を下げてくるミアさんにわたしは慌てて言いました。

「いえ、そんなことありませんよ。ぜんぜん大丈夫です……!」

 そしてわたしは、水を飲むかのように葡萄酒を喉に流し込みました。

「お、おいティスリ! そんな飲み方して大丈夫なのか……!?」

 アルデがにわかに慌てますが、わたしは鼻を鳴らします。

「もちろん大丈夫に決まっていますよ。なにしろ飲酒魔法がバッチリ発現していますからね」

「お前さん、その割に頬がほんのり赤くなってきてるんだが……」

「そんなはずありません。それはアルデの気のせいというものです」

「いや、気のせいじゃないと思うが……ナーヴィンもそう思うだろ?」

 アルデがナーヴィンさんに話を振ると、ナーヴィンさんはなぜかウットリとしていました。

「ああ……ほろ酔い加減の美少女……素晴らしい……」

 意味不明なことをつぶやいていたので、わたしもアルデもナーヴィンさんのことは放っておくことにします。

 そしてわたしは、改めてアルデに言いました。

「とにかく、別に酔ったりしていませんから。だいじょーぶですから」

「本当だな?」

「ほんとーです。かりにほろ酔いだとしても、ほろ酔いだからだいじょーぶなのです」

「なんだか、徐々に呂律も怪しくなっている気がするが……」

「そんなことありません!」

 わたしが断固としてそう主張していると、ミアさんが楽しそうに笑っていました。そんな彼女を不思議に思ってわたしは問いかけます。

「どうかしたんですか?」

「あ、いえ……すみません。アルデと接しているティスリさんって、楽しそうだなと思って」

「べ、べつに、たのしくなんてありませんが!?」

 ミアさんも意味不明なことを言ってきますが、これもあれです、酔いが回り始めたからなのです。

「でも──」

 ですが意図せず、わたしの口から、ふと言葉が出てきました。

「──こうして普通に、誰かと呑んだりなんて、今までしたことがなかったですから……そういう意味では楽しいですよ?」

 すると、すかさずアルデが邪推してきます。

「ああ……お前、ぼっちだったもんなぁ……」

「お酒が呑めなかったからという意味ですよ!!」

 わたしがそう訂正しても、ミアさんはニコニコ笑うだけだし、ナーヴィンさんはウットリしたままだし……わたしの話、聞いてますか!?

 ユイナスさんだけはまだむっつりしていますが……お酒が入っていないのだから仕方がないのかもしれませんね。

 これから時間を掛けて、ゆっくり仲良くなっていけばいいでしょう。

「ということでミアさん、お酒お代わりです! 今度は葡萄酒の白をお願いします!」

「おいティスリ……いくら魔法が効いているからって、本当にほどほどにしておけよ?」

「だいじょーぶですよ、らいじょーぶ!」

 そんな感じで、皆さんとの親睦は深まっていくのでした。

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