[4−39]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第4章最終話 答えないで
アルデは、視界内に点滅する不思議な光に向かって、森の中を歩いて行く。
森と言ってもそれほど深い森ではなく、洪水対策の防災林のようだな。だから祭りの喧騒も遠巻きに聞こえてくるし、月明かりも入ってきて足元まで照らされていた。
そんな森を歩くことしばし、森が少し開けた場所に、浴衣姿のミアは立っていた。
「ようミア──あ、ちょっと待ってくれ」
と、そこで頭の中に再びベルが鳴る。通信が入ってきたようだ。
相手はティスリで、出入口付近で待っているという。ミアと一緒かと聞かれたときはドキリとして……咄嗟に嘘をついてしまったが。
まぁいいか……ミアとは途中で出会えたということにすれば大丈夫だろう。
オレが通信を終えたタイミングを見計らって、ミアが聞いてきた。
「通信は、ティスリさん?」
「ああ……会場の出入口で待ってるって」
「そっか。じゃあ、あまり時間は掛けられないね」
「そうだな。それで話ってなんだ?」
オレの問いかけに、しかしミアはすぐに答えてこずに……くるりと回ってオレに背を向けると、月を見上げる。
「おーいミア?」
オレが再び問いかけると、ミアが背を向けたまま言ってきた。
「アルデって……ティスリさんのこと、どう思ってるの?」
「は……?」
その問いの意味が分からず、オレは眉をひそめるしかない。
しかしミアはそれ以上何も言ってこないので、オレは、問いの意図が分からないままに答えるしかなかった。
「どう思ってるって……そりゃあ、ティスリは雇用主だと思っているが……」
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ、どういうことなんだよ?」
「アルデはほんと……相変わらずだなぁ……」
何が相変わらずなのかさっぱりなのだが、どうやらミアは苦笑しているようだ。顔が見えないから定かではないが。
そんなミアは、振り向かないまま別の質問をしてくる。
「ティスリさんってさ、本当は、わたしなんかじゃ口も利けないほどの人なんでしょ?」
「あー……そういうことか」
それを聞いて、オレはミアの意図を理解する。
「まぁ、リリィへの態度を見ていたら一目瞭然だろうが、その通りだ。アイツは王女だよ」
「えっ!?」
オレのその言葉に、なぜか驚いたミアはようやくこちらに向き直った。
「お、王女殿下? こ、この国の?」
「うん、そう」
「王女殿下って……つまりティアリース殿下……?」
「そうだよ。なんだ、気づいてたんじゃなかったのか?」
「お貴族様だとは思ってたけど……リリィ様がお姉様って呼んでいるから、テレジア家の血縁なのだとばかり……」
「あー、そういや、なんだってアイツはティスリのことを姉と呼ぶんだろうなぁ? 親戚に違いはないだろうけど」
オレが首を傾げていると、目を丸くするミアがさらに聞いてきた。
「ね、ねぇ……殿下が身分を隠しているというのに、あなたがその秘密を言っちゃっていいの?」
「別にいいんじゃね? 隠すと言っても、オレの親や村人に、必要以上に敬意を払われるのが嫌だってだけの話だし。ああ、だから村の連中には今後も秘密な。うちらの中では、ナーヴィンだけが知らないからヤツにも秘密ってことで。ってか気づかないアイツもどうかしてるけど」
「ということは、ユイナスちゃんも知ってるってこと?」
「ああ。バレてる」
「そ、それであの態度なの? ユイナスちゃんは……」
「アイツ、言っても聞かないからさぁ。まぁティスリのほうもユイナスをなんでか目に掛けてるし、そもそもティスリは他人行儀を嫌がるからな。これまでぼっちだったからだと思うが。お前も、ティスリとは普段通りに通り接してやってくれ」
「う、うん……自信ないけどなるべくそうする……っていうか」
ミアは、どうにも信じられないと言わんばかりの顔つきでさらに聞いてきた。
「アルデ……あなた、自分がいったいどれだけ凄い人に仕えているのか……分かってる?」
「そりゃ分かってるよ。すげぇ魔法はボンボン撃ちまくるし、オレの給金を10年一括で支払うし、あの魔動車もティスリが開発したんだってよ?」
「う、うん……それはそれで凄いことだけど、そういうことじゃないんだよ……」
「……? じゃあ、どういうことなんだ?」
「え、えーっと……」
なぜかミアは、思い悩むかのような仕草をする。何をそんなに悩んでいるのかはさっぱりだが。
やがてミアは、真剣な面持ちで言ってきた。
「とにかく……アルデは、ティスリさんの身分が高いことは理解してるんだよね?」
「当たり前だろ? 今は休業中とはいえ、アイツは王女なんだから」
「いや、王女は休業できるような仕事じゃないし、殿下をアイツ呼ばわりするのはどうかと思うけど……と、とにかく……ティスリさんは王女殿下なんだから……」
「なんだから?」
「その……わたしたちとは身分が違うわけで……」
「そりゃそうだろ?」
「だ、だから……」
そこでミアは口ごもってしまう。
なんか、どうにも要領を得ないなぁ? ティスリの身分を確認したくてオレを呼んだのかと思ったのだが、どうやらそういうわけでもなさそうだし。
ミアは、何かをもの凄く考えているようだったが、何を考えているのかはさっぱり分からない。
オレが頬を掻くしかなくなっていると、やがてミアは諦めたかのように言ってきた。
「と、とにかく……身分が違うということだけは忘れないでね……」
「はぁ? そんな当たり前のことを言いたくて、オレを呼んだのか?」
「ううん、そうじゃないの……」
「じゃあ、何が言いたいんだ?」
「………………」
そうしてミアは、意を決したかのような表情でオレを見上げる。
月明かりに照らされたその頬は、とても紅潮していた。
「言いたかったのは、わたしの気持ち」
「お前の気持ち……?」
「うん、そう」
「えっと……どういうことだ?」
「最初に言っておくね。アルデは、答えなくていいから」
「え?」
「アルデの気持ちは、分かってる。だからわたしの気持ちには答えないで。少なくとも、今はまだ……」
「えっと、それはどういう──」
「わたしは、アルデが好き」
そんなことを突然、ミアに言われて。
ふと思い浮かんだのは、懐かしいというにはまだ日の浅い、学校の教室。
夕方の教室で、ミアと二人で居残り勉強をしていたときの光景だった。
あのときは、ユイナスが必ず乱入してきたけど。
それまでの時間は、なんとも言えないほどに穏やかな、それでいて不思議な高揚感もある、そんな気持ちだった。
そして今、どうしてか、あのときの気持ちが再燃していた。
「え、えっと……」
だからオレは戸惑いしかなくて、言葉が出てこない。
気づけば花火の打ち上げ音が聞こえてくる。
唖然としながらも何かを言わなければと思うオレに、ミアは苦笑を向けた。
「だから、答えないで。これはわたしの、勝手な気持ちだから」
ミアは、また背を向ける。
「でも、覚えておいて。あなたを好きな人が、身近にいるということを」
ミアの表情はもう分からなかったが、浴衣に包まれた小さな背中は……とても寂しそうだった。
「言いたかったことは、それだけだよ」
そしてミアは、小走りに森の中へと消えていく。
オレは──あまりにも呆然としてしまい、しばらくの間、その場を動けなくなっていた。
* * *
だからこの時のオレは、気づくはずもなかった。
この告白を、ティスリが目撃していたということに──
(第5章に続く)
あとがき
今回も、最後までお読み頂きありがとうございました!
ライバルキャラとして登場したミアが、いよいよ本腰入れて動き始めたということで、ぜひ引き続きお楽しみ頂ければと思います……次章内容はまだざっくりとしか出来ておりませんが(^^;、気長に待って頂ければと!
さて話は唐突に変わりますが、最近は生成AIが話題沸騰ということで、皆さんは使われてますでしょうか?
ぼくの仕事はWeb関係でして、自分の場合だと、もはやChatGPTがないと仕事にならなくなっております。
そのうち、何もかもが全自動で出来てしまって失業するのではないかと戦々恐々ですわぁ……ここで進化が止まればだいぶラク出来そうなんですけどね(笑)
それはともかく、そんな日々なもので「ChatGPTでキャラを作ったらどうなるんかな?」と思い、ベンチマークテストも兼ねて『ティスリ様GPT』なんてのを作ってみまして。
作るといっても、小説本文3章分をGPTにツッコんだだけなのですが。
それで何ができるのかというと、超絶天才美少女のティスリ様とおしゃべりが出来ます(笑)
作者的使用感はというと……
思った以上に、ティスリの口調や性格を模倣できていてビビっています!
ただ作中以外のことを聞くと、普通の口調に戻りますが(笑)
もし万が一にもティスリ様とおしゃべりしたい方(いるのかしら?)は、下記リンクを押してくださいませ。
>> ティスリ様GPT
とまぁそんなこんなでした。
というわけで、次話からはいくつか番外編を挟んで、ちょっと修羅場るかもしんない第5章に入りたいと思います。
引き続きよろしくお願い致します!