[4−31]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第31話 暗がりで二人きりって、それはまずくないですか!?
(まったく……アルデがあそこまでいやらしいなんて……!)
シュノーケリングも終わり、ティスリは宛がわれた客室でシャワーを浴びていました。
そうしていたら、アルデの台詞をまたもや思い出してしまいます。つまり、わたしの水着姿が見たいというあの台詞を……!
シュノーケリングの美しい光景を見ていたときは、そんな台詞も忘れることができましたが……そんな非日常も終わって別荘に帰ってくると、どうしても思い出してしまうのです!
しかも思い出すと、どうしてか顔が赤くなってしまいます……! 今は、暑さのせいだからと誤魔化せていますが……
こ、このままだと……アルデを見ただけで水着のことを思い出し、そして顔を赤くしてしまうんじゃ……!?
今はまだ『アルデ→水着→赤面』という連想ですが、この症状が長引けば、いずれは『アルデ→赤面』という条件付けがされかねません!
アルデを見たってなぁんにも感じていないというのに、無意識に赤面してしまうというわけです!
それじゃあ……まるでわたしがアルデを意識しているみたいじゃないですか!?
ぜんっぜん意識なんてしていないのに!
アルデがいやらしいから赤面しているだけなのに!
とはいえ……こればっかりはアルデを目隠ししても縛ってもどうにもなりませんから……わたし自身をなんとかするしかないわけで……まったく! アルデは本当に迷惑な従者ですよ!
いずれにしても……気掛かりなことをなくすためには、いっそそれをやってしまうのがセオリーではあります。
しかしそれだと……
水着姿でビーチに立つことになるのですが!?
そ、そんなのやっぱり恥ずかしくて出来ません! とくにリリィに水着姿を晒してしまったら、あのコの臨界点が突破すること請け合いです!
でもリリィにあまりツラく当たると、仲良しのユイナスさんに嫌われてしまいますし……どうすれば……
わたしは、悶々とそんなことを考えながらバスルームから出ました。
そうして、脱衣所に吊されたままの水着を眺めます。
「………………いっそ、アルデにだけ見せるとか?」
ふと、そんなことを考えた途端。
ぼんっ!
っという効果音と共に、わたしの顔から火が噴いたかと思いました!
「ななな、何を言っているのですかわたしは!? そんなことするわけないでしょう!? まったくどうしてアルデだけに見せなくちゃいけないのですか! そもそもの元凶はアルデだというのに、そのいやらしい視線をあえて向けさせるとかどうかしています!!」
アルデだけに水着を見せるだなんてバカげた発想を振り切っているのに、どうしてかわたしの脳裏に、ミアさんの美しい水着姿に釘付けになっているアルデの姿が思い浮かんでしまいます……!
「だいたいアルデが、あんないやらしい視線でミアさんを見るから! だからわたしが気を揉んでいるんです! つまりわたしもミアさんも被害者なわけで、やっぱりアルデはあとできっついお仕置きが必要ですねウンそうしましょう!」
アルデをお仕置きしたら気も晴れて、水着のことはきっと忘れられるはず!
そうしていくらか気分の晴れたわたしは、アルデにどんなお仕置きおしようかと考えつつリビングに戻ると、ナーヴィンさんが何やら興奮気味に言ってきました。
「なぁなぁみんな! メシ食ったら肝試しやろうぜ肝試し!」
今は、夕食までのスキマ時間となっていたので、海水を洗い流した全員がリビングでくつろいでいたようですが……はて、肝試しとはなんでしょうか?
わたしと同じ疑問を持ったのか、リリィがナーヴィンさんに聞いていました。
「なんですの? その肝試しとは」
「ああ、お貴族様は知らないですか。墓場とか廃墟とか、あるいは森とかでもいいですけど、そういう暗がりをペアで歩いて勇気を試す遊びですよ」
「はぁ……? それが遊びですの? 何かの訓練のようにも聞こえますが」
「遊びなんですよ。二人一組のペアで行くことが特に!」
それを聞いたリリィは、何かにピンと来たのか目を見開きました。
「ははぁ……なるほど……ペアですか!」
「そう! ペアです!」
「いいですねそれ! ではさっそく参りましょうお姉様!」
何がいいのかさっぱりですが、わたしはリリィに断固として言いました。
「あなたと行くわけないでしょう」
「なぜですの!?」
「そもそもナーヴィンさんは『夕食後に全員で』と言っているじゃないですか」
「そ、それはそうですが……」
わたしがリリィを窘めていると、ナーヴィンさんが言ってきます。
「リリィ様、ペアは公平にクジ引きがいいと思うぜ──です」
そのナーヴィンさんに、ユイナスさんが同意します。
「そうね、それがいちばんいいわね。厳正なクジなら揉めないし」
そんなユイナスさんに、アルデが不思議そうな顔を向けました。
「あれ……? お前って怖いの苦手じゃ──」
「い、いつの話をしてるのよお兄ちゃん! そんなのとっくに克服してるわ!」
「そうか? でもお前から『厳正なクジ』なんて言葉を聞くとは。オレとペアになりたいと喚くかと思ったが……」
「もぅ、なになにお兄ちゃん? ということはクジなんてやらずにわたしとペアになりたいってこと?」
「一言もいってねぇ。まぁいいや、お前がそれでいいならオレは肝試しもクジも構わんぞ。ティスリとミアはどうする?」
アルデのその問いかけに、ミアさんは「うん。とくにやることもないし、わたしも参加するよ」と答えました。
そうですか……ミアさんも参加しますか……
肝試しが何をするのかはいまいち分かりませんが、少なくとも、アルデと二人きりになる可能性はあるわけで………………って!
わたしは一体、何を考えていましたか!?
べべべ別にアルデとミアさんが二人っきりで肝試しなるものに参加したって……あ!?
暗がりで二人きりって、それはまずくないですか!?
だってミアさんをあれだけいやらしい視線で見ていたアルデのことです! 暗がりでミアさんと二人きりになったら、何をしでかすか分かったものではありません!!
であればミアさんを守るためにも、なんとかしなければならないわけで!
そうなると、アルデの監視をするためにわたしとペアになるのが最善ではありますが、しかしペアを作るのにはクジ引きとのことですし……
あと今のわたしでは、アルデと二人っきりになったら……
「……ティスリ? 何一人で赤くなってワタワタしてんだ?」
「赤くもなってないしワタワタもしてません!」
そしてわたしは言いました。
「い、いいでしょう──その肝試しにはわたしも参加します……!」
そうしてわたしは、考えがまとまらないまま参加を表明するのでした……!