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[6−28]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第28話 今それを考えても、仕方がないことです
ティスリは、その報告を午後の執務室で受けました。
(民兵が……)
通信魔法越しに、ラーフルの務めて冷静な声が聞こえてきます。
(はい。四公領国の賦役召集は、民兵に仕立てるためだったようです。さらにその家族を人質に取るという、卑劣極まりない策を弄しています)
(………………)
(フェルガナ領で発覚した不自然な軍備拡張費がありましたが、民兵へ貸与されている武具は、おそらくはああいった形で購入されたものかと思われます。武具自体は、どれも使い物にならないほど劣悪ですが)
それを聞き、わたしは思い出しました。
あのとき……四大貴族の離反報告を受けた夏の日。
確かにラーフルは、不審な軍備拡張があると報告していました。
そのときわたしは……どうしてましたか?
なぜあのとき、その不審な点を調査しなかったのですか?
あのときのわたしは──
──アルデに気を取られて。
だから調査依頼することもなく……またもや見逃した。
だから防げるはずだった民の苦境を、防げなかった……!
わたしが半ば呆然としていると、ラーフルの声が頭の中に響きました。
(それと……リリィ様とユイナス嬢もこの村に来訪しています)
(………………)
(……殿下?)
(あ……すみません。えっと……なんでしたか?)
(いえその……リリィ様とユイナス嬢が、村に来ておりまして)
(村に? それはまた、なぜ……?)
(アルデを追ってのことだと思いますが……単に村に来るだけならよかったのですが、その道中で敵と遭遇。守護の指輪が発現し……撃退しています)
(…………!)
さらなる見逃しに、わたしは目を見開きます。
どうして、その可能性を考慮しなかったのか……
ユイナスさんの性格を考えるならば、黙って村に赴く可能性に気づけたはず。しかもリリィと仲がよいのですから転送魔法も使える。もし止められなかったとしても、せめて改良版の指輪を渡しておけば、相手に付け入る隙は与えなかった……!
(殿下……リリィ様もユイナス嬢も、かなり反省しているようでして……)
わたしの沈黙を不興と捉えたのか、ラーフルはそんなことを言ってきました。
だからわたしは慌てて説明します。
(いえ、二人の処遇について考えていたわけではありません。そもそもユイナスさんには個人的にお願いをしただけですから、なんら罰則はありません)
(そう言ってもらえるなら、二人も幾ばくか元気を取り戻すとは思いますが……いずれにしても、交戦したことにより状況は芳しくありません)
(そうですね……)
(もっとも、わたしとアルデも先発隊と交戦してしまったので、今さらではありますが……)
アルデの話が出てきて、わたしは……
この執務室で、アルデと一緒に葡萄酒を空けた誕生日の夜を思い出し──
──どうしてか、アルデに会いたくなりました。
(そのアルデは……どうしてますか?)
(先発隊の残党を追撃しています。アルデのことですから問題ないでしょう。仮に万が一があった場合も、殿下の指輪がありますから)
(そう……そうですね……)
今すぐにでも通信したい衝動に駆られますが……
追撃の邪魔になっては元も子もありません。
アルデの追撃は、民兵とその家族の命運が掛かっているのですから、ここは任せるしかないでしょう……
(では追撃については、引き続きアルデに一任します。進展があれば報告をしてください)
(了解しました)
(それと四公領国軍の部隊編成を、可能な限り調べてください。民兵の比率如何によって、戦略を修正する必要があります)
(承知しました。斥候を放ち、調査します)
一通りの報告を終えたラーフルは、わたしに確認を求めてきました。
(この後、国境隊に出撃命令を出そうと思いますが、よろしいでしょうか)
(ええ、その件はあなたに一任しましたし、妥当でしょう)
(殿下はいかがなさいますか?)
(わたしも出向きますが……ユイナスさん達が見つかったとなると、おそらく、転送ゲートは破壊されているでしょうね)
(早急に調べますが、その可能性が高いかと思われます)
(では転送ゲートの確認はお願いします。もし破壊されていた場合、わたしの到着は明日早朝となる見込みです。可能であれば、それまでは開戦を引き延ばしてください)
(承知しました。身命に変えても開戦は引き延ばします)
(よろしくお願いします。その他に報告は?)
(現時点では以上です)
そしてラーフルとの通信が終わります。
その後すぐに連絡が来て、やはり転送ゲートは破壊されていたとのことで……わたしは、飛翔魔法で村へと向かうことになりました。
だとしたら今すぐにでも出なければなりませんが……気が重く、体が言うことを聞いてくれません。
戦争回避のために、あるいは、その被害を最小限に抑えるために、考えなければならないことは無数にあります。
ただそれは移動中に考えれば済む話です。
だからここは、すぐにでも出発しなければならないのですが……
いつの間にか、アルデのことばかり考えていて……
だから本来やらねばならない対策をすべて失念し……
すでに、多くの民に迷惑を掛けている。
「どうかしてますよ、最近のわたしは……!」
わたしは王女です。
多くの国民の生命と財産と、そして幸福を預かる身なのです。
もう、王女を辞めたなどという戯れ言は通じません。
もちろん、アルデのせいでないことは分かっています。
でも王女としての職務に影響が出てしまうのなら……
アルデとは、もう……
「行きましょう……今それを考えても、仕方がないことです」
そうしてわたしは、重い体を無理やり立たせるのでした。