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[4−38]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第38話 どうしてか、胸騒ぎを覚えました

 想像以上の人混みに、ティスリわたしは驚いていました。

 過密とはまさにこのことなのでしょう。これほどの密集状態を体験するのは初めてです。

 というよりも、さすがにこの混雑は不自然では? それに先ほどから、ほとんど進めていませんし。

 などと思いながら周囲の人の声に耳を澄ませていると、どうやら会場出入口が、貴族によって一時的に入場制限されているとのこと。

 はて? それはいったいどういうことなのでしょう? 入場制限する理由なんてないと思いますが……

 この島を治める貴族とは面識がありませんが、よく遊びにくるというリリィなら何か知っているかもしれないと思い、わたしは周囲を見回します。

 すると、リリィ以外のメンバーがいないことに気づきました。

 リリィだけは、人混みに揉まれてふぅふぅと息を切らしながら、わたしの後に付いてきていました。

「リリィ、他の人達はどうしましたか?」

「こ、この人混みで、はぐれてしまったようですわね……」

「そうですか……ところでこの混雑は、出入口を貴族が入場制限しているせいらしいのですが」

「そそそ、そうなのですか!?」

「なぜそんなに慌てているのです?」

「いいい、いえ別に慌ててなどいませんわ!?」

 見るからに慌てているのですが……しかしリリィが入場制限に関与する理由もまるでありませんし。

 だからわたしは元々の質問を口にします。

「この島の領主がどのような人物か知っていますか? テレジア家の領地ではありませんが、よくバカンスにきているというあなたなら面識があるのかもと思いましたが」

「え、ええ……今回はお忍びですが、公式訪問なら領主が挨拶に来ますので面識がありますわ。それでここの領主ですが、温厚なお爺さまですわよ。王都からは遠く離れておりますし、この気候によって農業や漁業は安定しているとのことで、だから権力争いなどとは無縁に生きてきた感じですわね」

「ふむ……そうですか」

 であれば、嫌がらせなどで入場制限しているとは考えられません。それに入場制限といっても、人混みは少しずつ動いているので、完全に封鎖しているわけでもないようです。

 考え込むわたしに、リリィが言ってきました。

「もしかしたら、予想よりも民衆が一気に会場へと詰めかけてしまい、それで一時的に制限しているのでは? であれば問題ないと思いますが」

「ええ……そうかもしれませんね」

 ちょっと不自然な混雑である気もしますが、リリィの言っている可能性も高そうです。だとしたら、わたしが出しゃばったところで邪魔になるだけでしょう。

 はぐれてしまったユイナスさん達が気になりますが、守護の指輪があるので危険はないでしょうし。それに今ここで通信したところで、これだけ混雑していては合流できません。

 ということでわたしはリリィに言いました。

「こういう混雑も、一般会場の醍醐味なのでしょうね。あまりに進まないようなら何か対策を講じますが、今は人の流れに任せることにしましょう」

「ええ、それがいいですわ。花火までの時間もあまりないですし、入場制限もすぐ解除されますわよ」

 ということでわたしたちは、人混みの中をゆっくり移動していきます。

 するとリリィの言うとおり、間もなく入場制限が解除されたのか、人混みは徐々に動き始めました。

 それからしばらくして、わたし達は花火会場の出入口へと辿り着きます。

 するとナーヴィンさんが待っていました。

「あ、いたいた! ティスリさん、こっちです!」

 そう言いながらナーヴィンさんが駆け寄ってきました。

「ふぅ、すごい人混みでしたね。アルデ達はまだ見つかりませんが……」

「ええ、いちど通信を──」

 わたしが言いかけたところで、人混みの奥から、ユイナスさんが早足で向かってきました。どうやら一人のようです。

「ちょっとリリィ! どういうことなのこれは!?」

 ユイナスさんはなぜか怒っていて、合流するなりリリィに食って掛かります。リリィのほうは慌てながらユイナスさんを押しとどめていました。

「で、ですから! こういうのはコントロール出来ず裏目に出るかもと──」

「いいからこっち来なさい!」

「恨みっこ無しと言ったじゃないですか!?」

「恨みは無くてもつらみはあるのよ!」

「どういうことですの!?」

 などと言い合いながら、ユイナスさんはリリィを引っ張って向こうに行ってしまいます。

 ほんと、あの二人は仲がよくて羨ましいです……

 わたしが羨望の眼差しを二人に向けていると、ナーヴィンさんが言ってきました。

「となると、あとはアルデとミアですね」

「そうですね……」

 そんなことを言われて。

 なぜかわたしは、二人が一緒にいる光景をイメージしてしまい……

 どうしてか、胸騒ぎを覚えました。

「通信してみますので……少しお待ちください」

「あー、そうそう。オレ、その通信呪文ってのを忘れちゃって」

「大丈夫です。わたしが覚えていますから」

 そうしてわたしは、まずアルデに通信を繋げてみました。

 するとアルデはすぐに応答して、今はトイレに向かっているとのこと。

(ミアさんは一緒じゃないのですか?)

 わたしがそう問いかけると、アルデは少し沈黙してから──

(あー……今は一緒じゃないけど、もし合流したら連れて行くよ)

(そうですね。わたしたちは出入口の前で待っていますので)

(分かった)

 そんなごく普通の会話をしてから、わたしは通信を切りました。

 しかしなぜなのか、胸騒ぎが消えません。

 だからわたしはすぐにミアさんにも通信を入れましたが──

 ──ミアさんのほうは、通信に出ません。

 この通信は基本的に非常用を想定しているので、着信に気づかないということはないはず。どれだけ騒音の中にいようとも、頭に直接作用する着信音は、耳から入る音とは干渉せずに聞こえるのです。

 それでも通信を受けられないのだとしたら、受信呪文を忘れたか、誰かと話しているかくらいしかありません。

 受信呪文は、アルデでも覚えられるよう簡単にしてあるので、ミアさんが忘れるはずもありません。あるいは意識を失っていたら出られませんが、今の状況でそんなことは考えられませんし……であれば誰かと話しているということになりますが……いったい誰と?

 この島に、ミアさんの知り合いはいないでしょうし。

 花火会場までの道に屋台もありませんでしたから、買い物で会話することもないはず。

 だからわたしは……気になって、発信魔法を発現させました。

 これも守護の指輪に付与した魔法の一つで、自分の視界内に、相手の居場所が赤色のマーカーとして表示されます。救難信号を応用して付けておいたものですが……

「え……?」

 すると道からだいぶ逸れた森の中に、ミアさんのマーカーがありました。

 そして同じ場所に、アルデのマーカーも。

 今さっき、ミアさんとは「一緒じゃない」とアルデは言っていたのに。

 通信を終えてすぐミアさんと合流できた……ということ?

 もしそうじゃないのなら、二人は示し合わせて──

「あ、ちょっと! ティスリさんどこへ!?」

 ──気づけばわたしは、走り出していました。

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