[4−19]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第19話 やっぱりアイツ、性格がどうかしていると思うの
再び郡庁に向かうということで、アルデたちは宿屋を出たわけだが。
当然、宿屋の周囲は憲兵に取り囲まれている。さらにその周りには、この街の住人たちが遠巻きにこちらを見ていた。
そしてオレたちが姿を現したら、憲兵隊長が大楯の奥から怒号を放ってきた。いや、隊長というよりこの規模だと班長あたりか。
「ようやく観念したか! そのまま大人しく投降しろ! 妙な魔法は使うんじゃないぞ!? 使ったらさらに罪が重くなるぞ!?」
憲兵隊に手を出した時点で死罪なのは確定だから、これ以上、罪を重くしようがないと思うが。
いかに憲兵隊と言えども、こんな田舎に魔法士はいないようだから、だから相当に臆しているらしい。魔法を使われたらひとたまりもないからな。
そんな連中から視線を動かさないまま、オレはティスリに聞いた。
「さて……どうするティスリ? こいつらを蹴散らすことはたやすいが、一応あれでも憲兵だ。しかもナーヴィンは確かに襲撃者を黒焦げにしたようだし」
「黒焦げにしたのはオレじゃねぇよ!?」
オレの言葉を聞いていたナーヴィンが悲鳴をあげるが、とりあえずスルーした。
「いずれにしても、後々面倒になるのは避けられないんじゃないか?」
するとティスリは、つまらなさそうに肩を上げて見せた。
「後々のことなんて気にする必要ないでしょう」
「え、でも……」
「こういうときも想定して、ラーフルに──つまりわたしの側近に領主代行を任せたのです。すべての後始末は彼女にしてもらいましょう」
「そいつ………………大丈夫なのか?」
「元は軍属の人間なので手こずるでしょうけれども、優秀ですので。なんとかするでしょ」
いや、オレが聞いたのはそいつの能力ではなく心労についてなのだが……まぁいいか。
ティスリの側近になったがために、これまでにもとてつもない苦労を強いられてきたんだろうなぁ……なんか分かり合える気がする。
その側近にオレは同情していると、ティスリが全員に向かって言った。
「では皆さん、郡庁へ向かいましょう。付いてきてください」
そんなティスリに、ユイナスが怪訝な顔を向ける。
「いや、向かいましょうって。あいつらどうするのよ?」
憲兵に囲まれているというのに、ユイナスは怯えている様子がまったくない。我が妹ながら、なんでこんなに肝が据わっているんだ? ナーヴィンなんて、いちばん後ろで震えているというのに。
ちなみにリリィは、いじけた感じで道端の小石を蹴っていた。さきほどティスリに冷たくあしらわれたせいだろうが……ティスリに構って欲しい雰囲気を露骨に出していた。チラッチラッとティスリに視線を送っているし。が、ティスリは一顧だにしていない。
そしてティスリは、ユイナスに向かって説明する。
「憲兵は構う必要ありませんよ。守護の指輪が確実に守ってくれますから」
「ほんとに大丈夫なの?」
ユイナスが疑わしげに指に填めている指輪を見る。そんなユイナスにティスリが言った。
「ではまず、わたしが試してみましょう」
いや、いちばん身分の高いお前自らが試すなよ……と言いたいところだが、ティスリならなんの問題もないしな。
そんなことを考えていたら、止める間もなくティスリが憲兵隊に向かって歩いていた。班長が慌てて声を上げる。
「お、おい!? なんだキサマは! 犯罪者の仲間なのか!?」
「………………」
「おい答えろ! さもないとキサマも逮捕だぞ!?」
「………………」
「キサマ! 聞いているのか!? 反抗するというのなら容赦しない──」
ボン!
班長が、剣の切っ先をティスリに向けたら爆発四散した──かのように見えて、実際は黒焦げアフロになって倒れていた。
「お、お前!? 班長に何をし──」
ボボボン!
勢い余って抜刀した数名の憲兵隊員も、同じく黒焦げになってどうと倒れる。他の憲兵達は硬直しており、抜刀しなかったおかげで難を逃れたようだ。
そしてティスリは、憲兵隊の目前でくるりと半回転してこちらに向き直る。
「どうですかユイナスさん。これで、どのようなことがあっても安全であることが分かって頂けたでしょうか」
にこやかにそう言ってくるティスリに、ユイナスは顔を引きつらせて──オレに耳打ちしてくる。
「ね、ねぇお兄ちゃん……やっぱりアイツ、性格がどうかしていると思うの」
う、う〜ん……さすがのオレも、憲兵隊を真っ黒焦げにしておいて気にも留めないティスリをどう庇えばいいのか……適切な言葉が見つからなかったが、とにかく話を逸らすことにした。
「な、なぁティスリ……指輪の効果は分かったが、オレはその指輪をしていないんだが?」
オレがそう言うと、ティスリは心底不思議そうな顔になる。
「忘れたあなたが悪いんでしょう?」
「いや、そうだけども……」
「それにアルデなら、指輪がなくたって別にどうということはないでしょう?」
「そりゃそうだけど、でもほら、そうなると直接手を出したのはオレってことになるじゃん? でもオレはなんの権力もツテもないわけで」
「それはご愁傷様です。定期的に面会には行きますからね」
「どこへの面会を想定してるんだ!?」
まぁ、とはいえだ。
五人中四人もの人間が、一撃(ほぼ)必殺の爆発魔法を使えるような状況では、オレが手を出すまでもないか。
ということでオレたちは、憲兵隊が制止するのも聞かずに郡庁へと歩き出す。
「くそ! 止まれ! 止まらんか!? キサマら、街中で交戦する気か!?」
班長のあとを継いだ副班長らしき人間が、上擦った声で制止するも、もちろんティスリがそんなのに応じるわけがない。
ティスリを先頭にしてオレたちが、憲兵の壁に近づくと、その壁は見事に真っ二つに割れていった。取り囲んでいる意味がまるでないな。
「お、おいお前達!? いったい何をしている! どうして捕まえない!?」
どうしても何も、捕まえたら爆殺されることが分かっているからだろ。憲兵達は、怯えたり、怒ったり、悔しがったりと、様々な表情をしながらオレたちを見るだけだ。
やがてしびれを切らした副班長が大声で命令を放つ。
「突撃だ突撃! 憲兵隊の名にかけて、なんとしても犯罪者を引っ捕らえろ!」
そんな命令が下されてしまっては、憲兵隊も動かないわけにはいかない。
「くそー!」だの「ちくしょー!!」だの、中には「お母さまーーー!」だの、もはや破れかぶれの玉砕覚悟──というか玉砕するのだが、そんな悲壮な覚悟で憲兵隊が突っ込んで来るも……
ボンボンボボン! ボボボン、ボン!!
その全員が、小気味よく討ち死に(瀕死)した。
「な、なぁ……アルデ……」
それを眺めていたナーヴィンが、アホ面さげて言ってくる。
「オレ、街中でこれほどの人間が倒れていく様なんて、初めてみたぜ……」
「オレもだよ。まぁ一昔前にドンパチやってたころは、どこの街もこんな惨状だったそうだから、いい時代に生まれたよな、オレたち」
「あ、ああ……そうだな……」
とりあえず、怯えるナーヴィンをなんとなくなだめながら、オレ達は郡庁へと向かうのだった。