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[4−40]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

番外編1 ティスリの二日酔い(その1)

 あああ……ティスリわたしは一体、なんということをしてしまったのか……

 止まらない目眩にツラい吐き気、そうして激しい後悔にわたしはさいなまされていました。

 何を後悔しているのかといえば……昨日の同窓会改め懇親会での一席についてなわけで……

 結局酔っ払ってしまったわたしは……

 わたしはユイナスさんに……

 一体何をしてましたか!?

 ベッドの上でのたうち回っていたら二日酔いの気持ち悪さで「うっ……!」としたところで、扉がノックされました。

「おーいティスリ、起きてるのか? 昼食が出来たんだけど、どうする?」

 どうやら、昼になっても姿を現さないわたしを心配したのか、アルデがやってきたようですが……

 顔を合わせられるわけがありません!

 何しろ、超絶天才美少女であるわたしは、どんなに酔っ払っていてもあらゆる記憶が残っているのですから!

 さすがですねわたし!

 まるで他人事のように、昨夜のわたしを思い出すことが出来ますよ!?

 いっそ忘れていたほうが楽になれるというのに!!

 そんなわたしに、アルデが再び、扉越しに声を掛けてきます。

「ティスリ、もしかして体調が悪いのか? 水差しを持ってきたから、ちょっと入るぞ、いいな?」

 えっ……!?

 今はパジャマ姿のままで、髪の毛も整ってないし身支度もしていないというのに、乙女の部屋に入ってくるとかどういう神経をしているんですか相変わらずですねアルデは!?

 わたしは思わず、爆発魔法を発現しかけましたが、すんでの所で思い留まります。

 ここはアルデの実家ですから、入室禁止の権限はそもそもわたしにありませんし、黒焦げアルデをユイナスさんに目撃されようものなら、それこそ嫌われてしまいます!

 ということでわたしは、アルデ爆殺(瀕死)は断念すると、布団の中に丸まって身を隠しました。

「おいティスリ、どうした? やっぱり具合でも悪いのか?」

 心配そうなアルデの声が布団越しに聞こえてきますが、ここは寝たふりを決め込みましょう。

「ティスリ、寝てるのか?」

 すると無神経極まりないアルデが、いきなり布団をポンポンしてくるものだから、思わず体をビクリと撥ね上げてしまいました……!

 これで寝たふりがバレてしまったのかと思ったのですが……アルデはそこを追求してくることはありませんでした。

「水差しとコップ、サイドテーブルに置いておくからな」

 アルデにしては……妙に気を使ってくれていますね……

 あ……でも……

 わたしの姿を見せなくていいのなら、ちょっとだけ、話をしていたいかも……

 だからわたしは、布団の中から手だけ出して、アルデを掴まえました。どうやらズボンの裾を掴んだようです。

「ん? なんだよ?」

 しかしアルデを掴まえてみたものの……

 何から話せばいいのか……

 知りたいのはユイナスさんの様子ですが……もしも怒り心頭だったら、どうしましょう……!?

 そんな感じでわたしが逡巡していると、アルデがいきなり布団を引っ張ってきました!?

「おーいティスリ、目が覚めてるなら、とりあえず顔を見せろよ」

 やっぱりデリカシーがないですねアルデは!?

 寝起き女性の姿をそのまま晒させるなんて、どうかしてますよ!

 だからわたしは、両手両足で必死に布団を押さえていると、やがてアルデは諦めたのか部屋を出て行こうとするのですが……

 だから! あなたはなんでそんなに気が利かないのですか!?

 わたしはやむを得ず、出て行こうとするアルデのズボンを再び掴みました!

「……おいティスリ、いったい何がしたいんだよ?」

 そんなの決まってるでしょ!

「黙ってたら分からないだろ?」

 黙っていても分かるのが優れた従者なんですよ!

「なんとか言えよ、おーい?」

 だというのにあなたは、イチからジュウまで説明しないと分からないのですか!?

 などと、言ってやりたい文句は山のようにあるのですが、今回ばかりはわたしにも過失がないわけでもないこともないわけで、だから何も言えません!

 というわけでわたしは、アルデが部屋を出て行かないようにという意思表示としてズボンを掴み続けます。

 そんなわたしの意図がようやく伝わったのか、アルデはため息をつきながら、ベッドサイドのスツールに腰を下ろす気配がしました。

 なのでわたしは、ほっとしていると──

「隙アリ!」

「あっ……!」

 アルデに布団を剥ぎ取られてしまいました!

 すると二日酔いの気持ち悪さと、寝起きを見られた恥ずかしさと、あと昨日の後悔とかがごっちゃごちゃになって、思わず目頭が熱くなっていきます……!?

 そんなか弱い今のわたしに向かって、アルデは──

「………………はいぃ?」

 ──などとマヌケ極まりない声を出すばかり!

 こ、この男!

 ほんっっっとうに!

 配慮という概念が脳内から欠如しているのではないですか!?

 しかも!

 わたしを不躾なほどに見つめてくるんですが!?

 だからわたしは、もはや怒りより恥ずかしさが勝ってしまい、思わず両手で顔を押さえます!

「み、見ないでください……!」

「え、あ、え? あ……はい……」

 う、うう……

 もはや体を覆う布団も何もないから、わたしの寝起き姿が露出してしまっています……!

 しかもここはアルデの実家だから、部屋から逃げ出すこともできません!

 だからわたしは、ベッドの上でちんまりと座り込むしかなくなって……やがてアルデが言ってきました。

「あ、あの……これ……」

 そうして、わたしから奪い取った掛け布団をよこしてきます。

 気遣いが遅すぎるのですよあなたは!

 っていうか、わたしの弱ってる姿を見たかっただけなのでは!?

 などと怒りを覚えながらも、依然として恥ずかしさが勝るわたしは、無言のまま掛け布団を受け取り──

 ──再び、布団の中に丸まって身を隠します。

「おーい、ティスリ? いったいどうしたってんだよ? オレは退散していいのか?」

 わたしは体を横に揺らして、「出て行くな!」という意思表示をしてみます。

「じゃあ、なんなの? 何か話でもあるのか?」

 話があるに決まってるから、わざわざ乙女の寝室に留まらせているんですよ!

「おーいティスリ。黙ってたら分からんだろ」

 だから、黙っていても察しなさいよ!?

「せめて、どうして泣きじゃくっていたのかを──」

「泣いてなんていませんよ……!」

 思いも寄らなさすぎることを言われて、わたしは思わず反論してしまいます! 二日酔いのせいで、思った以上に声もカラカラです……!

 しかし……二日酔いで苦しんでいるというのに、アルデは容赦というものを知りません!

「めっちゃ涙目になってたじゃん」

「二日酔いが酷くて、目が充血してただけです!」

「そんなの魔法で治せばいいだろ?」

「二日酔いはなぜか魔法で治せないのですよ!」

「そうなの?」

「最低でもきっちり半日は苦しむのです! しかも今日はまだ気持ち悪いのです!!」

「まぁお前、昨日はムチャクチャ呑んでたからなぁ……」

「………………!」

 お、思い出したくもないことをズゲズゲと……!

 不躾すぎるアルデへの怒りで、昨夜のことをせっかく忘れられたというのに!

 しかもアルデは、さらに畳みかけてくるではありませんか!?

「昨日のお前、ぶっちゃけ……酷かったぞ?」

「………………!?」

 わたしの体は、思わずびくっ!と震えてしまいます!

「ナーヴィンとは馬鹿話ばっかりしていたし」

 びくっ……!

「それを見ていたミアにはドン引きされていたし」

 びくびくっ……!

「ユイナスに至っては、もはやダル絡みをしまくってたし」

 びくびくびくっ……!!

「せっかく農業でみんなの好感度を稼いだってのに、それを相殺して有り余るほどの醜態だったな。ほんっと、昨日が少人数でよかったよ」

「あ、あなたは……!!」

 もはや辛抱堪らなくなって、わたしは顔だけ布団から出すと、精一杯の反論を試みます!

あるじを慰めるとか励ますとか、そういう気遣いは出来ないのですか……!?」

「慰めたって、昨日の醜態は取り消せないが?」

「………………!!!?」

 すでに恥ずかしさが限界突破しているわたしは、布団の中に顔を隠すしか為す術がありません!

 アルデが、人の弱みにこれほどつけ込んでくる人間だったなんて見損ないましたよほんと!

 これきっと、完全無欠なわたしに対する嫌がらせですよね!?

 なんて心の狭い男なのでしょう!

「あなたが、そんなに冷たい人間だったとは知りませんでした!」

 わたしの避難に、しかしアルデの声は淡々としたものでした。

「だってなぁ。人の忠告を無視して、酒を呑みまくったのはお前じゃん。弁明の余地ないだろ」

「こうなることが分かっていたなら、無理やりにでも止めなさいよ!?」

「えー、イヤだよ。攻勢魔法の雨あられになるかもしれないし」

「その魔法をかいくぐってでも止められるでしょ!? あなたなら!」

「………………魔法を放つのは決定事項なのか?」

 この場で攻勢魔法を雨あられにして、いっそ冗談ではなくしてあげましょうかね!?

 わたしが、いよいよ本格的に「家屋を破壊せず、かつユイナスさんに気づかれずアルデを黒焦げにするにはどうすればいいか……」と考え始めていたら、アルデが言ってきます。

「慰めろというなら慰めるけどさ。酒に慣れていないころは、誰だって一度や二度は醜態を晒すもんだ。だから気にすんな」

 ふむ……その言い方だと、アルデにも宴席での醜態があるようですね。っていうかアルデなら、その醜態は一つや二つではないはず。百や二百だってあるに決まってます!

 なのでわたしは反撃すべく、演技でしおらしくなりながら、布団から顔半分だけ出しました。

「…………アルデは、どんな悪酔いをしたのですか?」

「そうだなぁ……オレの場合は……って、お前、オレの悪酔いを聞き出して、どうするつもりだ?」

 ……ちっ。

 こういう所だけは勘の鋭い男ですね。

 それでもわたしは素知らぬ顔で聞き出そうとするも、アルデが「絶対になじってくるだろ!?」と言ってくるので言い合いになりました。

 そうして最終的にわたしは「もうお酒は呑みません!」と宣言します。

 勢いで宣言したのではなく、もうほんと、心底お酒を呑むのはやめようと思うのでした……

(その2につづく!)


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