[1−27]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第27話 事実上、無敵じゃんか
「いたぞ! 覚悟おぉぉぉぉぉ!」
ぼんっ。
「ここで会ったが百年目! お命頂戴──!」
ぼんっ。
「であえであえ! 賊が姿を現したぞ! ひっとらえ──」
ぼんっ、ぼんっ、ぼぼんっ。
牢屋を逃げ出したアルデは早くも衛士たちに追われていたが、剣を切り結んだ瞬間に、彼らは次々にトーストされていく。
っていうか剣を合わせなくても──例えば背後から襲われそうになっても爆発、横からでも爆発、なんだったら攻勢魔法や弓矢による遠距離攻撃でも、その攻撃を防御結界で完全遮断した上で、放った連中が爆発……という具合である。
……なんだかちょっと気の毒になってくるな。
衛士の中には見知った顔もいたが、今やその顔は黒焦げで見る影もない。まぁもっとも、オレの追放に積極的な関与こそしなかったものの、平民のオレを同僚や後輩として受け入れてくれた衛士なんて一人もいなかったので、気に病むほどではなかったが。
っていうか……ティスリの指輪、凄まじいな。
放たれた攻撃のすべてを無力化し、その敵を爆殺(瀕死)にするってことは……事実上、無敵じゃんか。
これってもしかして、徒歩でも正門から逃げ出せるんじゃね?
この魔具の効果がいつまで続くかは分からないが……効果があるうちにさっさと逃げ出した方がいいのではなかろうかと思えてくる。
しかしそれでも、オレが城内にとどまる理由は二つあった。
一つ目は、オレの個人情報がこの城内のどこかにあるからだ。
オレは衛士だったから、その入隊時、出身地は元より実家住所や家族構成まで書類に記入している。だからもし、オレが犯罪者として行方をくらませたとなれば……おそらく田舎にまで手配が回り、両親と妹、そして愛くるしいわんこが捕らえられてしまうだろう。
それでもオレが姿を現さないのなら家族全員が打ち首だ。いわゆる見せしめというやつだな。
もちろんそんな事態は容認できない。オレが追放になったときに書類も処分されていればいいのだが、追放されてまだ日も浅いから、城内のどこかに残っている可能性のほうが高いだろう。
だが……この広い城内で、たった一枚の羊皮紙を見つけるのは困難を極める。でもオレは城内から出るのを躊躇っていた。
そしてオレが城内にとどまる理由二つ目は……たんに迷ったからだ。
だって仕方がないじゃないか……! オレは城壁より先には入れてもらえなかったのだから。
城内に入れたときといえば、衛士入隊時に行われた城内見学のときくらいだ。しかもその見学だって、王族が住まうフロアなどの重要な場所には入れていない。
だから城内の構造がさっぱり分からないのだ。半地下であろう牢屋から上の階を目指していたはずなのに、衛士たちに追い回された結果、今のオレは地下のどこかに潜っている状態だし。
さらにこの王城は、緊急時は迷宮結界という魔法が張り巡らされるのだという。迷宮結界とは、例え単純な内部構造であったとしても、まるで大迷宮にでも迷い込んだかのような錯覚を人間に与える魔法らしい。
この王城は、もともと要塞のように複雑な内部構造をしているから、そんな魔法まで使われたら迷わないはずがない。
なお迷宮結界も王女殿下──つまりティスリが作った魔法で、言わばこの王城自体が巨大な魔具というわけだ。
「まったく……あいつはどんだけ天才なんだ?」
ティスリに思いを馳せて、オレは思わずぼやいていた。昨日まで接していた彼女は、ぶっきらぼうで空気が読めず酒に弱くて身寄りのない、そんなちょっと残念でぼっちな美少女、って印象だったんだがなぁ……
しかしいずれにしても、迷宮結界魔法が使われていたら、城内で羊皮紙一枚を探すのはなおさら不可能だろう。
そんなわけでオレは、追いかけ回されながら城内を迷っていた。腹の空き具合からして、ほとんど丸一日城内で鬼ごっこをしているっぽいな。牢屋で起きたのが朝だとしたら、今はすでに日も暮れているだろう。
今では、衛士たちもオレとの接敵をすっかり避けるようになっていた。気配から、廊下一本分向こうにかなりの数が集結しているようだが、今までのように突貫はしてこなくなった。あそこまで爆発させられれば、そりゃ衝突はさけるようになるか。
城内では、結界では防げないような大魔法も使えないだろうし、とりあえず、オレの身は安全と考えてもよさそうだ。
とはいえ……オレは、腹の虫がぐーっとなるのを感じて腹を押さえた。
「さすがに……腹が減ったな……」
このまま城内を逃げ回っていても、空腹感が増すだけだろう。それにこれから夜になるし睡眠だって必要だ。
旅館で寝ている間に連れ去られたことを考えると、ティスリの指輪は、誘拐や拘束にまでは反応しないようだからな。仮眠を取っているうちに、魔法が効かない牢屋にでも入れられては溜まらない。
今晩くらいなら徹夜で逃げることもできるだろうが……こんな状況が数日も続いたら、不利になるのはオレのほうだろう。
この状況を打破できる鍵になるのは、やはりティスリだ。
王女を連れ去ったとか誘拐したとか、ティスリをたぶらかしただとか身ごもらせただとか、その辺は一切合切ぜんぶ誤解なのだ……!
その誤解を、王女本人の口から語ってもらう。そうすれば、こんなバカげた騒動は終わるはずだ。
となると問題になるのは、ティスリの所在だが……
これまでの会話から察するに、どうやらティスリはまだ王女のようだから、そんな彼女を牢屋に入れているとは考えにくい。噂に聞くティスリの実力があれば、例え魔法封じの牢屋だとしてもたやすく突破できるだろうし。
だとしたら王族が住まうフロアに連れ戻されている可能性が高いか?
あるいは……まだ二日酔いで寝てるとか……? 前回は、この指輪のおかげで早期回復できたようだが、今はオレが所持してるしなぁ……
うん、きっとまだ二日酔いでフラフラしてるな。もう時間も経ったしだいぶマシになっているとは思うが、あれだけ酒に弱いって事は、二日酔いも長引くだろうし……
「はぁ……だとしたら王城に連れ戻されて私室で寝てるか、まだ旅館で寝かされているかだな」
まったく……あいつのお膝元ではオレが大変な目に遭っているというのに、のうのうと寝てやがるとは……
ぜんぶティスリのせいだというのに……!
オレがいささか腹を立てていると、それに刺激されたのか、またもや腹の虫がぐーっと鳴って、だからか、通路の向こうから大変にいい匂いが漂っていることに気づく。
「……罠か?」
オレは不審に思うも、しかしそれ以上に食欲が激しく主張してくる。何しろ昨晩、とても美味しい高級料理を口にしてからこっち、水の一滴も呑んでいないのだ。
そういや、よく水すら飲まずに活動できてるなオレ。逃亡初期のころは衛士達に追いかけ回されていたから、けっこうな運動量だったと思うのだが……
もしかすると、これも指輪のおかげかもな。この指輪、回復魔法の効果まであるようだし。
であれば食欲とか眠気とかも取ってくれないかな……? 少なくとも、食欲は無理のようだが。
「……まぁ例え罠だったとしても、この指輪があるなら大抵のことは切り抜けられるか……?」
オレは食欲に抗うことは出来なくなって、いい匂いのする方へと歩き出した。