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[6−35]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第35話 見上げても顔すら見えない、途方もない巨人

 ラーフルわたしは、もはや頭を抱えていた。

 殿下から「手段を問わずにアルデを捜せ」と言われても……

 その手段がどこにもないからだ……!

(どうする……どうすればいい……!?)

 今のわたしは、軍編成に組み込まれた一兵卒に過ぎない。粗末な鎧を着け、刃こぼれの酷い剣を片手に、震える民兵たちに前後左右を囲まれている。

 つまりこの状況で一歩でも動けば、周囲を監視している士官には一発で見つかる。しかも下手に動けば、開戦となってしまう恐れすらある!

(くそ……なんだってこんなことに……!)

 もちろん原因は分かっている。

 アルデ・ラーマ──アイツが、あらゆる歯車を止めるどころか、その歯車を引っこ抜いて何もかもをぶち壊しているからこうなっているのだ!

 昨日、アルデが姿をくらませなければ、わたしが徹夜で捜索する必要はなかった!

 民兵に混じって愚痴っているはずはなかった!

 殿下に無理難題を押しつけられることもなかった!

 そもそも論をいえば、アルデが殿下と出会わなければ、こんなことになっていないのだ!

 あの男は、この国の柱石である殿下をも狂わせているのだから!!

(殿下のあの慌てようでは……まともな和議が出来ているとは思えない……!)

 思い返せば、事ある毎に殿下の思考は逸れていた。

 今までは「まさかそんなはずがあるわけない」と思っていたが、あれは絶対に、アルデに気を取られて、普段の明晰な思考回路が働いていなかったのだ……!

 よくよく考えれば、殿下はまだ17歳の少女だ!

 なぜかこれまでは、見上げても顔すら見えない、途方もない巨人のように見えていたが……当たり前だが本来は、殿下だってうら若き乙女だったのだ!

 つまりアルデなどという無粋極まりない男が身近にいたら、悪影響を受けること必至だったというのに!!

(だからあのときわたしは……殿下とアルデの仲を引き裂こうとしたのに……!)

 王都で、殿下とアルデが旅館で一泊したときの、わたしのあの判断は間違っていなかった!

 どれほど殿下に恨まれようとも、咎められようとも、場合によっては親衛隊を追放されようとも、やはり殿下にあのような男を近づけるべきではなかった!

 いさめるべきだったのに!!

 などと延々と後悔を並べ立てていたら──

 ──前方から「わぁっ!」という悲鳴が聞こえてきた!

(アルデか!?)

 周囲が怯えまくるさなか、わたしだけが理解する。

 いよいよ、アルデが何かしでかしたな!?

 わたしは身を乗り出すと、どうやら小競り合いが始まっているようだ。それにつられて、周囲の民兵からは悲鳴が上がり、監視していた士官たちが声を荒げる。

「落ち着け! 落ち着けと言っている!」

「隊列を乱すんじゃない! そこ、逃げるなぁ!!」

「家族がどうなってもいいのか!?」

 民兵たちは戦闘が始まったと勘違いしたようだ。一気に浮き足だって、中には戦線離脱する者まで現れ、隊列が乱れ始める。

(これはチャンスか……!?)

 殿下からは「手段は問わない」と言われている。

 だからもう──この先がどうなろうと知ったことか!

 何はさておきアルデを捉えるまでだ!

「おいキサマ! どこに行くつもりだ!?」

 騒ぎの中心に向かって押し進むと、すぐに横から声を掛けられる。

 見れば士官の一人がわたしに槍先を向けていた。

 刃こぼればかりの刀剣で、騎士と戦えるはずもないが、わたしは無視して奥へ奥へとさらに進む!

「キサマ!? なんの真似だ! 止まらないなら容赦しないぞ!」

 しかしわたしは応じない!

「ふざけるなよ!?」

 業を煮やした士官が、いよいよわたしに槍を突きつける!

 ボン!!

 すると守護の指輪が発現し、盛大な爆発を巻き起こした!

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