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[5−14]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第14話 剣の腕だけの男

 ユイナスの転校に決着がついたところで、ナーヴィンがアルデオレに向かって聞いてきた。

「な、なぁ……もしかしてなんだけど……ティスリさんって……平民じゃないのか……?」

 あ、しまった。

 ナーヴィンには、ティスリが平民で政商の娘ってことにしてたんだ。

 もはや今さらだけど……

「えーっと……なんでそう思う?」

 ダメ元でオレが聞いてみると、ナーヴィンがオドオドしながら言ってくる。

「いやだって、ラーフルさんが『殿下』って……」

 ああ……そういえばさっき敬称で呼んでたっけ? だからついに気づいたのか。

 それを聞いたラーフルが、驚きのあまり立ち上がったかと思えば大きくのけぞった。

「えっ!? ここにいる方々は、全員殿下のことを知っているのでは!?」

 そういえばラーフルには、そこんとこ、詳しく話してなかったっけ?

 だからオレは、頬を掻きながらラーフルに説明する。

「いや実は、積極的に伝えたわけじゃないんだが……ナーヴィンだけが気づかなかった」

「オレだけ!?」

 驚くナーヴィンに、誰も視線を合わせようとしない。まぁここまで鈍いと、もはやフォローのしようがないしな。

 と、そこで。

 ラーフルが、オレの両肩をガシィッと掴むと前後に揺さぶってきた……!

「ききき、貴様!? わたしを填めたな!?」

「ななな、なんだよ填めたって!? ってか揺らすな!?」

「わたしの失脚を狙って失言を誘ったのであろう!? 殿下が隠されていることをあえて言わすとか、まるで貴族のように狡猾なヤツだ!?」

「そんなの狙ってねぇよ! だいたい、ティスリだって気にしてないってば!」

「そういう話じゃない! 殿下が隠されているのに──」

 と、そこで、ティスリがラーフルに声を掛ける。

「ラーフル、落ち着きなさい。身分がバレたところで問題ありません。単に、村の方々を驚かせたくなかっただけなのですから」

「し、しかし……この男に填められたとはいえ、失言をしてしまったのは事実……」

 いやだから、オレは填めるつもりなんて微塵もなかったし、ティスリが言うとおり、まったくもって大した問題じゃないんだが。

 顔面蒼白になるラーフルに、ティスリはため息をついた。

「まったく。あなたは相変わらず頭が硬いですね。ならばこの件は不問にします。以後、話を蒸し返さないように」

「は、はっ! 殿下の寛大なる恩情、深く感謝いたします!」

 そうしてラーフルは、場違いなのを気にも留めず、片膝を付いて最敬礼をした。

「ですから、非公式の場で最敬礼もやめなさい」

 ティスリに促され、ラーフルは神妙な面持ちで席に戻る──その一瞬だけ、オレはめっちゃ睨まれたが。

 こりゃもはや、ラーフルとの関係は修復不能かもな……同僚っぽい働き方なのに、これからやっかいだなぁ……

 などと考えていたら、その一部始終を見ていたナーヴィンが、ぽかんとした表情のまま言ってくる。

「え、えーっと……ということは、つまり……ティスリさんは……」

 そのナーヴィンに、ティスリは苦笑交じりに答えた。

「はい。わたしはこの国の王女、ティアリース・ウィル・カルヴァンです」

「おおお、王女様!?」

「ええ。欺すような真似をして申し訳ありません」

 ティスリも、ナーヴィン以外は全員気づいていることを悟っているのだろう、ナーヴィンに向けて謝罪をする。

 しかし事態を未だ飲み込めないナーヴィンは、目を見開いたまま言った。

「こここ、この国の……王女様って……超絶天才美少女と名高い、あの王女様!?」

「ええ、そうですよ」

 いやいやいや?

 まずその台詞、ティスリ以外から始めて聞いたんだが? 平民でも王女のことはよく話題になってたが、そんな超絶ナントカだなんて言われてたっけ?

 っていうかティスリも、自分のことなのに肯定するなよ、ってか自分で言ってるくらいだから肯定するほうが自然なのか……?

 いったいどこから突っ込めばいいのか思わず悩んでいると、ナーヴィンがこちらを向いてきた。

「ってかお前……な、なんで王女様の付き人やってんだよ……?」

「いや、付き人っていうか側近だが?」

「肩書きなんてどーでもいいんだよ!? 衛士追放されたってのになんで!?」

「いや……なんでと聞かれてもなぁ……?」

 改めてそんなことを言われると、オレ自身、なんでティスリに雇用されたのか謎だし。

 ということでティスリを見たらちょうど目が合って……なぜかティスリは、ちょっと赤面して目を背けてから言った。

「そ、それはもちろん、衛士追放されたアルデが情けなく『助けてくれ〜』と言ってきたからです!」

「いやオレ、そんなこと一言もいってないが? そもそも酒に酔った勢いでお前が採用したんだろ」

「だからそれは、アルデが情けなくすがってきたからですが!?」

「落ち込んでいたのは事実だが、縋ってはないだろ……!? ってか失業直後だったんだから仕方ないじゃん!」

 はっ……! ま、まずい!

 何がまずいのかと言えば、じぃ〜っとこちらを見ているユイナスに気づいたからだ!

 ユイナスの目の前でティスリとケンカなんぞしようものなら、またぞろクビだの失業だの言いかねない! となると話がますますややこしくなる!

 ティスリもそれに気づいたのか、一瞬だけハッとしたあと、一気にトーンを抑えた。

「と、というわけで……最初は同情からだったわけですが、い、いまは……いまは………………アルデの剣技をかってのことですから……」

 台詞の最後のほうは、聞き取れないほどにか弱いものだった。

 いやあの………………オレを褒めるのがそんなにイヤなの?

 まぁいずれにしても、ユイナスの目の前でケンカになることは避けることはできたか。だからかユイナスはつまらなさそうに「ふんっ」と鼻を鳴らすだけだった。

 オレが胸を撫で下ろしていると、いつの間にか意気消沈していたナーヴィンがつぶやく。

「くっ……やはり剣の腕ですか……」

「ええ、そうですね。アルデは、剣の腕だけ、、は確かですから。剣技だけ、、は、他者の追随を許しませんので。だから剣術だけ、、だったとしても雇用する価値があります」

 いやあの『だけだけ』しつこくない……?

 ふとユイナスを見てみたが、妹は満足そうに大きく頷いている……いや、そこで頷かれると、オレは本当に剣の腕だけ、、の男ってことになるのだが……

 褒められているはずなのになぜか自信を失っていると、ナーヴィンは、どういうわけか泣きそうな顔でティスリに言った。

「な、なるほど……だとしたら……もしティスリさん……いえ殿下のお側に仕えようと思ったら……」

「そうですね……アルデ並みの剣技があるか、あるいは、わたし並みの頭脳か魔力か弁術か人脈かがあれば検討に価しますね」

 うんお前、自分のことを褒めすぎじゃね? あとお前って、王女だからそりゃ仕事の人脈はあるだろうけど、プライベートはオレより絶対に人脈少ないからな!

 などと文句の一つでも言ってやりたいところだが、やっぱりユイナスの前ではそれができないので、オレはぐっと堪えた。

 んでもってナーヴィンは、がっくりと肩を落とす。

「そ、そっすか……ま、まぁ……そもそもが王女様ですしね……近くで働きたいといっても無理ですよね……」

 ああ、そういえばナーヴィンは、ティスリの元で働くことを目指していたんだっけ。志望理由は下心だけど。

 政商ならまだ可能性もゼロではなかったわけだが、王侯貴族の、しかも王女様となっては、その可能性もついえたわけで、だから落ち込んでいるわけか。

 いや政商だったとしても可能性はゼロだろうが。あいつ、学生のころは算数も満足に出来ていなかったし。

「ごめんなさいね、ナーヴィンさん。衛士職などで口を利いてあげることは可能ですが、正式には試験を受けてもらわねばなりません」

「は、はい……大丈夫です……戦う力がないオレじゃ衛士は無理だし……諦めます……」

 ということでナーヴィンの下心は、ここで潰える。

 それをミアがじっと見つめていたことに、オレは気づかないのだった。

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