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[4−30]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第30話 慌てて視線を逸らしながらも口をとがらせて

 海のバカンス二日目。アルデオレ達は、シュノーケリングなるものをするとのこと。

 シュノーケリングなんて言葉を聞くのも初めてだが、海に潜ってカラフルな魚を見るんだとか。

 黄色とか赤色とか言ってたけど、そんな魚がいるなんてにわかには信じがたいな。それにしても見るだけで食べないとは、お貴族様は不思議な遊びをするもんだ。っていうかカラフルな魚なんて旨くなさそうだけど。

 ということでオレは、ナーヴィンと共に桟橋で女性陣を待っていると、ティスリとミアがやってきた。ユイナスとリリィの姿はなかったが、今日も水着選びに難航しているのかもな。

 そして朝の挨拶をしてから……ナーヴィンが肩を落とした。

「ティスリさん、今日も水着じゃないんですね……」

 そんなナーヴィンに、ティスリは、なぜかこちらをチラチラ見ながら答える。

「ええ……やはり、露出の多いものは苦手ですので……」

「そうですか、残念だなぁ……あ、別にオレ、アルデみたいな下心はないですよ?」

 いや、お前こそ下心しかないだろ!?

 オレはそうツッコみたくなったが、火に油となりそうだったので我慢する。

 というかティスリは、さっきからなんでこっちをチラチラ見てくんの? いまだに、オレがいやらしい視線でミアを見ていると思っているのだろうか?

 しかし今日のオレは、可能な限りミアの水着を見ていないぞ! 今日は白色ワンピの水着姿で、昨日とはまた違う水着を着てるんだなぁ……程度には見えてしまうが、それは仕方がないだろ? 今日は上着も羽織ってないんだし………………ゴクリ。

 あ、いやいや!? 生唾なんて飲み込んでないし、飲み込んでいたとしたらそれは暑いからだ!

 なぜか内心で言い訳をしているオレに、ナーヴィンが聞いてくる。

「なぁアルデ、お前も見たいだろ? ティスリさんの水着姿」

「えっ!?」

 ナーヴィンにいきなり話を振られて、オレは思わず言葉に詰まる。

 っていうか!

 一体どう答えればいいんだよ!? そんな質問に!

 ここで下手なことを言えば、またぞろティスリの不興を買うだけだぞ!?

「え、えーっと……」

 オレが言い淀んでいたら、ナーヴィンが不思議そうな顔つきになる。

「なんだよ? 見たくないってのか?」

 だから!

 ちょっとは空気を読めよお前は!?

 オレはティスリの様子を窺うと……ティスリは、オレから慌てて視線を逸らしながらも口をとがらせて、さらに頬を赤らめているのは……暑さのせいか?

 う、う〜〜〜む……あの表情はどういう感情なんだ? 怒っているようにも見えるし、何かを期待しているようにも見える。

 結局のところ……さっぱり分からん。

 仕方がないので、オレは正直な意見を言うことにした。こういうときは、正直になったほうがいいのだ、たぶん……

「見たいか見たくないかで言えば……そりゃもちろん見たいさ。オレだって男だし」

「……!?」

 その正直な意見に──ティスリが、驚いたかのように目を見開く!?

 や、やばい!

 あれは、驚きというより怒りの前兆かも!?

 だからオレは、ティスリが何かを言う前に捲し立てた!

「だ、だけど! 本人が嫌がっているのに無理強いはよくないだろ! だから水着を着なくてもいいんだって!」

 ティスリの様子に気づかないナーヴィンがしつこく食い下がってくる!

「えー? まぁそれはそうだけどさ……でもこの南国で、ティスリさんの美しさを表現しきるにはやっぱり水着が──」

「もういいから出航の準備でもしとけって!」

「なんでだよ!?」

 オレがあたふたと話題を逸らせようとしていたら、気づけばリリィとユイナスがやってきていた。

 そしてリリィは、頬に手を当ててティスリに言った。

「本当によかったのですか? お姉様。今日はシュノーケリングですし、水着がないと潜れませんわよ?」

 どうやら更衣室で、リリィにも水着になることを勧められたようだな。なるほど、それでティスリはちょっと迷った感じの表情になっていたのだろう……たぶん。

 ティスリは少し考える様子を見せるも、最終的には「大丈夫です。やはり水着には抵抗がありますので」と答えていた。

 そんなティスリに、リリィが別の提案をする。

「あ、肌の露出が気になるのでしたら、ウエットスーツという手もありますわよ?」

「いえ……それも以前に見たことがありますが、なんというかピッチリしすぎてますし……やっぱりいいです」

「そうですか……お姉様には、ぜひ熱帯魚や珊瑚礁を見て頂きたかったのですが……」

 どうやらリリィは、ティスリの水着姿が見られなくて残念というよりも、ティスリにカラフルな魚を見せられなくて残念がっているようだな。つまり純粋にバカンスを楽しんでもらいたいらしい。

 あのレズっにも、こういう素直な気持ちがあるんだなぁ、とオレは感心していると、いつの間にかユイナスが腕を絡ませてきた。

 ややぐったりしながら。

「うう……お兄ちゃん、ちょっと怠いから抱っこして……」

「言わんこっちゃない。だから酒は呑むなと──」

「の、呑んでないもん。ちょっと調子が悪いだけだもん」

「調子が悪いなら休んでないと」

「だ、大丈夫だってば。さっきティスリに回復魔法も掛けてもらったし、半日で回復するって言ってたから」

 だから、それこそまさに二日酔いなんだろ……オレはちょっと心配になってリリィに聞いた。

「二日酔いで海に潜るのはまずくないか?」

 するとリリィも困り顔で頷く。

「ええ……わたしも止めたのですが、ユイナスがどうしても見たいというので……」

「じゃあやっぱ駄目じゃん。ということで大人しくしてろよ、ユイナス」

「ええ……そんな……」

 がっくりと肩を落とすユイナスに、ティスリがぽんっと手を打った。

「それなら、魔法で潜水しましょうか」

 ティスリが言うには、魔法で巨大な気泡を作って、その中に入って海に潜るという。 さらにその巨大気泡は海上と繋がっていて、常に新鮮な空気が入ってくるとのこと。

 確かにそれなら泳ぐわけではないので、二日酔いのユイナスも大丈夫そうだな。

「あ、それなら……」

 そこでオレはティスリに言った。

「ティスリもその魔法で潜ればいいじゃん」

「そう言われてみればそうですね。ではそれぞれの気泡を作って、潜ることにしましょうか」

 ということで結局は、全員でシュノーケリングなるものをすることになった。

 ちなみにだが……カラフルな魚というのは、オレが想像していた以上に凄かった!

 なんというかもう……この世のものとは思えないほどだった!

 さらにはティスリの魔法によって、普通では潜れない水深まで潜ることができたのだが、海の底にはカラフルな草まで生えてるしな!

 あ、いや……アレは草じゃなくって動物なんだっけ? サンゴとかいってたか。

 まぁどっちでもいいか。とにかく想像以上に凄くて度肝を抜かれたな!

 さすがのティスリも、その絶景には見惚れたらしく、シュノーケリングが終わるころにはすっかり上機嫌になっていた。

 ふぅ……これでなんとか水着の件は失念したようだ。

 あとはミアやリリィをなるべく視界に収めないように、そして鼻の下を伸ばさないように気をつけながら、オレは海のレジャーとやらを満喫するのだった。

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