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[4−21]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第21話 殿下は人の身であらせられるけれども……

 ラーフルわたしは、無駄に豪華な領主の執務室で、一人頭を抱えていた。

「あああ……また仕事が増えていく……」

 ただの地方貴族に過ぎないわたしが領主代行になったことで、ここの文官達がのらりくらりとなかなか動かず、だから仕事は溜まる一方だった。

 わたしの領主代行就任は、王女殿下が直々に任命された背景もあるので、さすがにボイコットまではしてこないが、文官達は、わたしが不眠不休で働かざるを得ない程度には仕事を遅らせてくるのだ。

 そんな実に姑息な嫌がらせに辟易していたところに……また、新たな仕事が降ってきた。

「で、殿下……それほどわたしにお怒りということなのですか……?」

 わたしは涙目になってその書類を見つめる。

 そこには、殿下が向かわれた地域についての対応要件が書かれていた。

 まず税金を三割も徴収していたとのことで、速やかに還付させること。つぎに中央の役人を派遣して監視を強化すること。そして領内の他地域でも同様のことが行われていないか即座にチェックすること。

 さらなる追加要件として、憲兵隊の軍紀が乱れているとのことで、これも可及的速やかに対処する必要がある。

 何やら殿下と憲兵隊が揉めたようなのだが、この揉め事に関しては、そこの憲兵隊長が殿下の正体に気づき、ぎりぎり収束したらしいが……

 もしも収まっていなかったら、全国の憲兵隊をごっそり再編制しなければならなかったかもしれず、わたしはゾッとした。

「しかし中央から役人派遣と言われても……どうしろというのですか、でんかぁ……」

 広い執務室で一人、わたしは情けない声を上げる。自分でも情けないことは重々承知しているが、このところ満足に寝ることもできていないので、このくらいは勘弁してほしい。

 どうせ、わたしの回りには誰もいないのだから。信頼できる親衛隊員も、みんなリリィ様に持って行かれたし……

 ということでわたしは机の上に突っ伏して、ああでもない、こうでもないとしばらく愚痴をこぼしていたが……やがて起き上がる。

「はぁ……こんなことをしていては、仕事がさらに溜まっていく一方だ……せめて、急ぎの報告くらいは殿下に届けないと……」

 殿下から領主代行を拝命する際、いくつかの指示があったのだが、もっとも急務だったのが使途不明金についてだった。

 逮捕された元領主は、あの手この手で荒稼ぎをしていたのだが、いったいその資金は何に使われていたのかを、殿下は非常に気にされていた。

 短慮なわたしは「どうせ豪遊していたのだろう」と思って、この調査はすぐに終わると思っていたのだが……自体はそんな単純ではなかった。

 もちろん、元領主が豪遊していたのに違いはないが、それにしては、あまりに巨額な資金を集めすぎている。どれだけ豪遊しようとも使い切れないほどに。

 だとしたら余った資金はどこに流れていたのか……ここまで調べてわたしもようやく気になってきた。

 それを殿下は最初から見抜いていたわけで、まったくもって、その慧眼には恐れ入るばかりだ。

 仕事はハードすぎるけど……

 そうして先日、その調査がようやく完了し、今し方、わたしはその報告をまとめ上げたところだった。

 間違いがないよう、その報告書を念入りに読み返していく。

 使途不明金は様々に使われていたのだが、大きく分けると二つの傾向が見て取れた。

 一つ目が接待交際費で、二つ目が軍事費だ。

 接待交際費は、名目としては元領主が豪遊していただけのように見えるのだが、その内容を聴取していくと、違う側面が浮かび上がってきた。

 どうやら元領主は、頻繁に、諸外国の貴賓を招いていたようなのだ。

 もちろん、諸外国の貴賓を招くこと自体は問題ない。最近は、都市間の交流も盛んだからそれ自体はいいことだ。

 しかし問題なのは使った金額だ。都市間交流というには金額が大きすぎる。これでは、ちょっとした外交費ではないか。外交は領主の任務ではないというのに。

 そして二つ目の軍事費。数字上は「ちょっと増えてるな」程度なのだが、その内訳がおかしい。

 何がおかしいのかと言えば、やたらと武器防具を増やしているが、兵数がまったく増えていないことだった。これでは宝の持ち腐れだ。武器防具を装備できる兵士がいなければ、なんの意味もないのだから。

 というわけで、帳簿に現れる数字だけでは分からなかった事実が、領地に入り込んでしっかり調査することで明るみになっていく。

「接待費の名目を借りた外交費に、不自然な軍備の増強……まるで戦争準備でもしているかのようだが……」

 だがしかし、この状態で戦争になっても戦えない。兵士がいないのだから。

 元領主が想像以上に無能だったとしても、さすがに戦えないことくらいは分かると思うが……

 ましてや、元領主は誰と戦うつもりだったのか?

 十数万の軍勢を、たった一人で殲滅できる殿下と戦うつもりだったのだろうか?

 いくらなんでもバカげているし、軍備の不自然な増強からも、戦争を前提としている線はない気がする。

「……まぁいい。今回は調査依頼だからな。あとは殿下が考えてくださるだろう」

 もはや疲労困憊しているわたしに判断なんてできるわけがないのだ。

 それに仕事も山積みだし、ここで悩んでいる暇はない。

 今はただ、殿下の手足となって働くのみだ。

 殿下がわたしを赦してくれるその日まで。

「……うう……赦してくれるのかなぁ……?」

 再び涙目になりながらも、報告書を送るべくわたしは立ち上がる──と。

 デスクから一枚の紙がヒラヒラと落ちる。

「ん? これは……」

 どうやら、殿下が送られた書類にはもう一枚あったようだ。疲れ切っているせいで二枚目を見逃していた。

 わたしはその書類を拾い上げ──絶句する。

「ととと、特命大臣!?」

 その書類は、正式な辞令が書かれており──わたしは領主代行兼特命大臣に任命されていた。

「う、嘘だろ!? 大臣なんて国の中枢だぞ!?」

 大臣とは、この国を治めるエリート中のエリートだ。

 いやこの国の場合……殿下がすべてを取り仕切っていたから、その能力がいかほどなのかは甚だ疑問ではあるが、少なくとも伝統と格式だけは最高峰の地位なのだ。

 当然、領主より遙かに地位が高いし、地方貴族出身者がその地位に上り詰めた前例もない。

 そもそも中央貴族の中でも、ほんの一握りの貴族が拝命する程度だ。例えばリリィ様のテレジア家からとか、その他の五大貴族からとか、そのくらいに少数精鋭(?)なのだ。

 そして特命、、大臣とは、常任大臣とは別枠で宛がわれた大臣のこと。つまり何かしらの理由で大臣を一人増やすわけだ。

 その実権については、その時々で色々と変わる。中には名誉職として特命大臣を任命されることもあるが──

「いやこれ、ほとんど五大貴族の権限と同等じゃないか!?」

 ──今回に限って言えば、そういうことだった。

 とはいえいくら権限があったとしても、運用する予算がなければどうにもならないのだが──

「殿下のポケットマネーって、国家予算を超えてますが!?」

 ──特命大臣わたしが運用する予算は、殿下のポケットマネーでまかなうとのことだったが……それは国家予算を超えていた! 殿下のポケットは四次元か!?

 た、確かにこれなら……例えば、嫌がらせをしてくる文官達を一掃して、信頼している親衛隊で領地経営を固めることもできるし、有無を言わさず中央から役人を引っ張ってきて、かつ、迅速に対応させることもできるだろう。

 だがしかし、大きな権力には、当然、大きな責任も伴うわけで……

 そもそも嫉妬やひがみは今以上に膨れるだろうから、いつ足元を掬われるかも分からず……

 そんな状況で強権をもちいて国を動かし、盛大に失敗でもしようものなら……

 当然、首をくくるしかなくなる。

「で、殿下はわたしに何をお求めなのですか!? わたしはただの軍人ですよ!?」

 わたしは思わず空に向かって泣き叫ぶ。

 だってもはや、天を仰ぐしかないだろう? 殿下は人の身であらせられるけれども……

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