[5−21]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第21話 なんとなく腑に落ちない感じ
アルデとミアは、噴水広場近くにあるカフェへと入った。
そうして注文を済ませるとミアが言ってくる。
「実はわたし、テレジア家に仕えることになったんだ」
「……は!?」
それが王都にいた理由なんだろうけれども、ますます意味が分からなくなってオレは唖然とするしかない。
だからさらなる詳細を聞いてみるに、まずバカンス中、テレジア家に仕える了承をリリィから得ていたという。
その後、ミアはいったん村に帰った。そうして村長──ミアの父親に、テレジア家に仕えることになったと知らせる。村長はだいぶ渋ったらしいが、ただの田舎平民が大貴族に仕えるなんて、普通ならあり得ない大出世だし、了解を得たのに今さら拒否するわけにもいかないしで、村長は渋々ながらも承諾したという。
「ああそれと、アルデのご両親にも説明しておいたからね」
そういや、ユイナス転校の言づてをお願いしてたんだっけか。
「なんて言ってた?」
「ため息をついてたけど、王都で学べるなんて滅多にない機会だからね。生活に困らないのなら自由にしていいって」
「ま、ユイナスは言い出したら聞かないからなぁ……しかも、現実不可能なことは絶対に言ってこないからむしろタチが悪い」
「ふふっ。ご両親もその辺はよく分かっている感じだったよ」
まぁ……期待はしていなかったが、ユイナスの村送還はこれで潰えたわけか……オレの休日が……
ということで、それぞれの親に話を付けた後、ミアは王都へと戻ってきたという。テレジア家にも転送魔法が使える専属魔法士はいるから、その人に送ってもらったんだとか。
それを振り返りながらミアが言った。
「よく考えたら凄い話だよね。ただの平民に、転送魔法をなんども使ってくれるなんて」
「言われてみれば確かにな。貴族だって、それこそ、リリィ並みの大貴族じゃないと転送魔法で移動なんてしないぞ」
「ほんと、リリィ様には感謝だね」
「それでミア、いったいどうしてテレジア家に仕えることにしたんだ?」
これまでの状況は分かったのだが、肝心なことに何も触れられていないので、オレは改めて聞いてみる。
「お前は村長の娘だし仕事は十分にあっただろ? ナーヴィンなんかと違ってさ。それに村長だって、お前が抜けたら何かと大変だろうし」
「………………」
オレのその問いかけに、なぜかミアはむすっとした感じになる。
「まぁ……お父さんはなんとかするでしょ。働き手もわたし一人ってわけじゃないし」
「そうか? とはいえなんでテレジア家に?」
「………………」
あ、あれ……?
なんか、ますますミアの機嫌が悪化しているような……
オレ別に、変な質問してないよな?
帰ったはずの幼馴染みがなぜか王都にいて、いわんやこっちで就職しただなんて知ったら「なんで?」って聞くのは普通だよな……!?
しかしミアは、どうにも不機嫌な感じになってしまい窓の外を眺める。
「それは、アルデが自分で考えてよ……」
ミアは、そんなことをぼそりと言ってから口を尖らせる。
いやだからなんで? ──とさらに問いかけようものなら、ミアの機嫌がティスリ並みに急下降しそうだったので、オレはかろうじて言葉を飲み込む。
その代わり近状を聞くことにした……ちょっと冷や汗を浮かべながら。
「わ、分かった……それで……仕事のほうは大丈夫なのか? 王都のテレジア家ともなれば、従者だってだいたいが貴族だろ?」
話題を逸らしたのが功を奏したのか、ミアは再びこちらに視線を向けて、普通に答えてくれた。
「そうだね。下働きなら平民もいるけど、どういうわけか執事補佐役になっちゃって。もちろん勉強もかねてなんだけど。だから貴族に囲まれた生活で緊張するよ」
「そうか……なら大変なんだな」
「あ、大変の意味合いが違うかも。みんないい人だから、イジメとかはないから安心して。思ってたより重要な仕事に関わらせてもらって、だから緊張するって意味だから」
「そうなのか。なら安心だよ」
今のミアは、テレジア家が担当する役所の一つで働いているという。さらには寮完備とのことで、むしろ村にいるときよりいい暮らしが出来ているんだとか。
そんな状況を聞き、オレは少し驚きながら言った。
「そうなるとテレジア家って、意外とちゃんとした貴族なのかもな」
「意外とっていうか……そもそも、ちゃんとしてなければ大貴族で序列一位なんてできないでしょうし。ただ……」
「ただ?」
「殿下への忠誠心が桁違い……というより……もはや崇拝?」
「あ、ああ……それはたぶん、リリィの影響かもな……」
ユイナスが、学校でも似たようなことがあったと言っていたし……リリィが関わると、ティスリが崇拝対象になってしまうのかもしんない。
リリィって、貴族やらせるより宣教師やらせたほうがいいのでは……?
オレが苦笑を浮かべていると、ミアが独り言のように言った。
「本当は、アルデ達が住んでるお屋敷で働きたかったんだけどな……」
「……え?」
「でもほら、ユイナスちゃんがいるじゃない? そうなると、ね」
「あ、ああ……そういうことか」
そりゃあ、ミアまで一緒に暮らすことになったら、ユイナスが烈火のごとく怒るのは目に見えている。だから屋敷で侍女をやることは断念したのだろう。
なんで屋敷で働きたかったのかは……なんとなく、聞かない方がいい気がしたので、オレは口を閉じる。
どうしてか、さっきから冷や汗が収まらないんだが……
「ああ、そうそう」
そんなオレに向かって、ミアがにっこり微笑んだ。
「もちろん、わたしが王都で就職したことも、しかもテレジア家に仕えることになったことも、ユイナスちゃんには黙っててね。これがバレちゃうと、リリィ様まで怒られることになるし」
「まぁそうだろうな……本来なら、大貴族のリリィがユイナスに怒られるだなんて、あるはずがないんだけど。妙なもんだ」
「うん。それにせっかく仲良しになった二人なのに、その仲に亀裂を入れるのは、わたしとしても本望じゃないから」
「だな……」
いやほんと、あの二人はなんであんなに馬が合うのか……まったくもって不可解ではあるのだが、あのユイナスが、リリィを受け入れている節があるからなぁ。
屋敷では、オレ、ユイナス、リリィの三人で過ごすことが多いのだが、ユイナスがその状況を容認していること自体が驚きなのだ。学生のころは、オレとユイナスの間に誰かが入ってきただけで、むちゃくちゃ怒っていたのに。とくにミアに。
でもユイナスは、リリィがいても、文句くらいは言うけれど怒ったりはしていないし、いわんや追い返したりなんてしたことはない。
まぁ……凄まじく世話になっているから、という理由なのかもしれないが、なんだかんだと話に花を咲かせてるし。
そんなことを振り返って、オレがちょっとしみじみしていたら、ミアが話題を変えてきた。
「ところで、アルデってお休みは不定期なんだって?」
「え? ああ、リリィに聞いたのか?」
「うん」
「不定期というか自由に取れるんだけど、そのうち一日はユイナスの面倒を見なくちゃなんだよな」
「そうなんだ……でも、ユイナスちゃんと一緒にいるのは一日でいいの?」
「本人は、オレの休みを独占したがってるけど、オレだって自由時間くらいほしいし。だから一日にさせた」
「そっか……だとしたら……」
そうしてミアは、ちょっと上目遣いになって言ってくる。
「わたしの仕事を手伝ってもらうのは、無理かな……? アルデの自由時間、なくなっちゃうし……」
「仕事の手伝い? 例えばどんな?」
「まさに今日みたいな感じ。今日は武具の事前調査だけど、それ以外にもいろいろ。情勢が情勢だから、軍事関係の人手が足りないらしくて」
「なるほど。これも反乱貴族の影響ってわけか」
「うん。でもわたし、そっち方面はぜんぜん分からないから……」
「とはいえオレも、そこまで軍事には詳しくないんだが……衛士時代に習ったくらいだし」
「ぜんぜん大丈夫だよ!」
オレが唸っていると、なぜかミアがちょっと身を乗り出して言ってくる。
「軍事っていうか、その……戦い慣れた人のアドバイスがあるだけですごくありがたいし!」
「そんなもんか?」
「うん! そんなものなんだよ!」
「ふぅん……まぁ、オレがどの程度役に立つかは分からないけど、戦闘経験からのアドバイスならお安いご用だぞ」
「ほ、本当? お休みなくなっちゃっても、いいの?」
「ああ。自由時間ってのは、ユイナスに付きまとわれないための方便だし。それに今ぶっちゃけ暇だから、オレが力になれることがあるならぜんぜんオッケーだ」
「そ、そっか……ありがとう……!」
どういうわけか、ミアはもの凄く喜んでいる。そんなに困っていたとは思わなかったな。
でもよくよく考えてみれば、いい人とはいえ貴族に囲まれて仕事して、しかも専門外の判断をしなくちゃいけないとなれば、そりゃ困るよな。しかも、単身で王都に住むことになって、気の許せる友達や知人の一人もいないわけだし。
だからオレは、出来る限りミアの力になろうと思っていると、すごい上機嫌になったミアが言ってくる。
「出来るだけ、お礼はするね!」
「え、別にいいよ、お礼なんて」
「そういうわけにはいかないよ! 今日も、お遣いが終わったらご馳走するから!」
「でも、あまり遅くなるとユイナスにバレるし」
「あ、そっか……じゃあこのあとランチをご馳走するから!」
頑なにお礼を拒むのは、むしろミアに悪いかと思ってオレは頷く。
「そうだな……そうしたらご馳走になるよ」
「うん! その後は演劇を見に行かない?」
「は? 演劇……?」
「うん! ほらこれ、演劇チケットをリリィ様がくれたんだ!」
「え、えーっと……武具選びは?」
「あっ! も、もちろんお遣いのあとで!」
武具を選ぶにはそれなりに時間がかかると思うのだが、演劇なんて見る時間あるのだろうか?
オレは首を傾げながらもミアに言った。
「まぁ……お遣いが終わって時間があれば、せっかくだし見に行くか」
「うん!」
そんな感じで……
オレは、なんとなく腑に落ちない感じを覚えながらも、ミアの仕事を手伝うことにしたのだった。