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[5−24]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第24話 当選した幸運な方々

 アルデオレとティスリは、学校に到着すると応接間に通された。

 その応接間には、なぜかユイナスがいた。オレ達を招待した張本人だからか?

 そんなユイナスが、珍しく自分からティスリに声を掛ける。

「で、どう? この学校のスローガンは」

「校舎の垂れ幕になっていたアレですか……?」

「そうよ」

「なんというか……あれ、絶対にリリィ発案ですよね……?」

「まぁね」

 ユイナスが頷くと、ティスリが深いため息をついた。

「はぁ……すっかり失念していました……この学校には、リリィも通っていることを。学校行事をなんだと思っているのか……」

 そんな感じで愚痴をこぼすティスリに、オレは苦笑を向ける。

「まぁいいじゃないか。この情勢なら、一致団結したほうがいいに決まってるし」

「とはいえ、学生まで気にする必要はありませんよ。本分は学業なのですから。そもそも、ああいう団結の仕方は好ましくありませんし」

 脱力しているティスリに、ユイナスが楽しげに言った。

「いずれにしても、あんた、今日は女神様扱いよ? この学校って、あんたのことをもはや崇拝しているからね」

「うっ……」

「ぜひ、女神サマとして振る舞ってよね〜」

「できれば、その思い込みを解消したいところですが……」

 なるほど……ユイナスのヤツ、これでティスリに一泡吹かせられると思って、それで呼んだってわけか。まったく……しょーもないこと考えるな。

 とはいえこれだと、ティスリが羽を伸ばせそうにないなぁ。なんとかしてやりたい所だが……

 オレが腕組みをしていると扉がノックされる。

 入ってきたのは、リリィとほか数名だった。

「お姉様! 我が校へようこそおいでくださいました!」

 そういって飛びついてくるリリィをひらりとかわすと、ティスリはリリィに言った。

「リリィ、あのスローガンはなんなのですか……!」

「もちろん、この国にご降臨された、誉れ高き女神様おねぇさまを称えまくるスローガンですわ!」

「わたしは女神ではなく人間です!」

「またまたご謙遜を」

「謙遜ではありませんが!?」

 普段から、謙遜のケの字も知らないティスリだから、女神様扱いなのは本当に嫌なんだろうなぁ。超絶天才美少女と大差ない気がしないでもないが。

 しかしティスリは、人の目があるのを気にしてなのか、リリィを叱責するのは最小限に留めると、一緒に入ってきた女子生徒達に視線を向ける。

 それだけで、女子生徒達はひれ伏すのではないかと思えるほどガチガチに緊張していた。

「それでリリィ、彼女達は?」

「学園祭実行委員の中でも、当選した幸運な方々ですわ」

「当選……?」

「ええ。お姉様にお目通りしたい生徒は、実行委員全員どころか全生徒ですから、彼女達を全員、連れてくるわけにもいきませんし。だから厳正な抽選の結果、選ばれたのが彼女達なのです」

「そうなのですか」

「本来、お姉様の案内はわたし一人で十分なのですが、どうしてもと言われてしまいましてね。御前講演前なら、多少の謁見もいいかと思ったのですが、どうでしょうか?」

「もちろん構いませんよ」

「さすがはお姉様ですわ! ではお姉様のお許しも出たところで……皆さん、お姉様に一通りご挨拶を」

「は、はひっ!」

 ガッチガチに緊張しまくった女子生徒達が、それぞれティスリに向かって挨拶をする。今日は、お忍びではないものの非公式訪問ということなので、ティスリが最敬礼されるのを嫌がり、その結果、全員が頭を90度にさげんばかりの勢いで挨拶した。

 う〜ん……彼女達、ティスリのことを本当に女神様だと思っているのかもしんない……

 全員が挨拶し終わると、ティスリがにこやかに言った。

「それでは皆さん、本日はよろしくお願いしますね」

『は、はい!!』

 今のティスリは、どこに出しても恥ずかしくない王女様モード──なんと見事な猫かぶりなんだ。普段から、オレに対してもあのくらい上品に接してほしいものだ、などとは口が裂けても言えない。

 そんなことを考えていたら、ティスリがこちらに視線を向けてきた。

「それと、彼はアルデ・ラーマと言いまして、わたしの護衛で(いちおー)側近です」

 護衛と側近の間に、妙な間があった気がしなくもないが……まぁいい。

 王都に来てからというもの、ティスリはオレのことを側近と紹介することが増えたが、どうやらそうすることで、オレの立場を強めるのが目的らしい。

 平民のオレが、兵士の教官にすんなり就任できたのも、『ティスリの側近』という後ろ盾があったからということだしな。貴族社会は何かと大変だ。

 ということでオレが女子生徒達に向かって挨拶をし終えると、そのうちの一人が聞いてきた。

「ラーマさん……ということは……」

「ああ、ユイナスの兄だ」

「まぁ! ユイナスさんの!」

「お噂はかねがね!」

「もの凄くお強いんですよね!」

「お会い出来て光栄ですわ!」

 お、おお……

 最近、剣術だけ、、の男と評されることが多かった身としては、こんなストレートに称賛されるのは、なんだかちょっとこそばゆいな。

 だからオレは、頬を掻きながら言った。

「ま、まぁ……そうでもないさ。剣術しか能がない男だし」

 すると彼女達は、ちょっと身を乗り出して言ってくる。

「そんなことありませんわ!」

「剣術に長けていることは、騎士として何よりも重要ですよ!」

「しかも今は、王城警備の教官までされているとか!」

「すごいですわ!」

 うう……なんて素直でいいコ達なんだ……

 王侯貴族なんて、ティスリとリリィしか知らないから(あとラーフルもか)、常にあんな、高飛車で人の話を聞かず、いつでも実力行使に出てくるようなワガママ娘ばかりだと思っていたが。

 よくよく考えてみれば、貴族の令嬢ともなれば育ちがいいわけだし、こんな感じのおっとりしたコが普通は多いのかもしれない。例えるなら、平和な牧場で過ごす羊のような……

 だとしたらそんな牧場に、狼のようなユイナスを解き放ったこと自体がむしろマズイかも。ユイナスから悪影響を受けなければいいが……

 などと考えて、ふと、右隣に座るユイナスに視線を送る、と……

 ユイナスは、なんとなく誇らしげな、それでいて不機嫌そうな、そんな複雑な顔をしていた。

「ちょっとあんた達、お兄ちゃんに憧れるのはいいけど、惚れたりしたら絶対に駄目だからね」

 ユイナスがドストレートに苦言をいったら、彼女達はいきなり真っ赤になった。

「も、もちろんですわ……!」

「い、いくらなんでも、初対面の男性にそんなこと……」

「剣技が凄いからといって……」

「そんな分不相応な感情は……」

 などと言いながら、こちらをチラチラ見てくる彼女達。

 な、なんてウブい反応をするんだ……!?

 思わずオレも照れてしまう──と。

「いてっ……!?」

 なぜか、手の甲を思いっきりつねられた!

「な、なんだよティスリ、突然……」

 するとオレの左隣に座っていたティスリが、横目でジロリと睨んでくる。

「言っておきますが、この国では、未成年に手を出したら犯罪ですからね?」

「だ、出さねぇよ!?」

「鼻の下を伸ばしておいて信用できますか!」

「伸びてないが!?」

 しかしオレは、咄嗟に鼻の下を手で隠した!

 そんなやりとりをしていたら、女子生徒達が急に真っ青になったかと思うと、身を乗り出して、ティスリに向かって唐突に謝罪する。

「も、申し訳ございません殿下!」「ま、まさか殿下とアルデ様が……!」「そのようなご関係だったとは露知らず!」「決して邪な感情を抱いていたわけでは──」

 彼女達の声が被ってしまい、その内容はよく分からなかったが、ティスリは聞き取れていたらしい。

「ちちち、違いますよ!?」

 彼女達の謝罪を遮って、ティスリが大慌てに言った。

「アルデは、あくまでも側近に過ぎませんから! それ以上でもそれ以下でもありませんから!!」

 うん、そりゃそうだろう。王女の側近以上となれば王様くらいしかいないし。まぁ以下に関してはたくさんいるけれど、今のオレの立場は、状況的にかなり上らしい。どのくらいなのかはよく分からんし、望んでもないけど。

 ティスリはなんだって、そんな当たり前のことを、顔を真っ赤にして説明しているのか……オレは首を傾げざるを得ない。

 しかしそれでも女子生徒には伝わったようで、彼女達はなぜか納得したような顔つきで、大きく頷いた。

「なるほど……分かりました殿下」

 するとティスリのほうは、ほっとした顔つきになる。

「わ、分かって頂けましたか?」

 女子生徒達のほうは、何かを得心したかのような顔つきだった。

「ええ、それはもうはっきりと」

「側近以上でも以下でもない。まさしく」

「わたくしたちは、肝に銘じて起きますわ」

「決して出過ぎた真似は致しません」

 それを聞いたティスリは、なんとなく渋面になる。

「なぜか……ひっじょーに勘違いされている気がしてならないのですが……」

 しかし女子生徒達は、身を乗り出したままに言ってきた。

「そんなことはありません!」

「まさしくお言葉通りに理解致しました!」

「決して、殿下の内心を勘ぐってなどおりませんわ!」

「その通りです! ここはそっとしておいたほうがいい──などとも思っておりませんわ!」

 彼女達の言葉を聞き、ティスリはますます難しい言葉になる。ちなみにユイナスは不機嫌そうにしているが口を挟んでこない。逆にリリィのほうはぽかんとしていた。

 そのリリィが女子生徒達に言った。

「あなた方は何をおっしゃってますの? いずれにしても、お姉様を困らせるようなことは──」

「も、申し訳ありませんリリィ様!」

「わ、わたしたち、決してそのような意図があったわけではないのです!」

「むしろ、アルデ様のおかげで殿下に親近感を覚えたというか!」

「その親近感が非礼だったことは、お詫びしてもしきれないのですが……」

 リリィに対しても猛烈に謝罪してくる女子生徒達に、リリィは首を傾げるばかりだったが、いずれにしてもそんな彼女達に、ティスリは苦笑を向けた。

「非礼だなんて、そんなことはまったくありませんから。親近感を覚えてくれたのなら、むしろ嬉しいですよ」

「本当ですか!?」

「ありがとうございます殿下!」

「殿下はなんとご寛大なんでしょう!」

「わたくし達一同、殿下に一生ついて行きます!」

「い、いえ……一生かどうかは、その時々で判断してください……」

 どうやら丸く収まったらしいな。言葉の裏に何が隠れていたのかは、結局よく分からなかったが、まぁこの子達のことだ、悪意が隠されているだなんてあるわけもないし。

 だからオレはティスリに言った。

「いいコ達じゃないか。お前もそんなにいぢめてやるなよ?」

「いぢめてませんよ! っていうか妙な雰囲気になったのはアルデのせいですからね!?」

 そしてどうしてか、オレが怒られるのだった……

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