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[4−44]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

番外編5 リリィと屋台料理

「これは……食べ物ですの……?」

 夏祭りに繰り出したアルデオレ達は、まずは腹ごしらえをしようということになった。

 王女のティスリと大貴族のリリィを連れて、屋台の食べ物を食べさせるのは普通なら大問題だろうが、今はお忍びだし、何より面白そうだしまぁいいか。

 最初、リリィは屋台の食べ物をティスリに食わせることを嫌がったが、当のティスリが「現地の食材を頂かないと視察の意味がありません」と言うので、リリィは渋々ながらも引き下がったりもした。

 そもそもティスリの場合、この旅路で庶民の食事にだいぶ慣れたしな。食べ歩きには未だに抵抗があるようだから、夏祭りの休憩所で、屋台の食べ物を買って来ての夕飯とはなったが。

 しかしリリィは、庶民の食事なんてまるで知らないようで、丸い形状の食べ物を見て、その目も丸くなっていた。

 ティスリのほうは、どうやらその辺のことも調べてきたようで、リリィにティスリが説明する。どことなく得意げに。

「リリィ、これはタコ焼きという食べ物です」

「タコ焼き……? え? タコというのは、あの海のタコですの……!?」

「ええ、そうですよ」

「あのグロテスクな海洋生物を食べるんですか!?」

「見た目はそうかもですが、意外と美味しいんですよ、コリコリとしてて」

「お、お姉様は召し上がったことありますの!?」

「ええ、公務で訪問した国で出されたことがあります」

「そ、そうでしたの……ですが、このタコ焼きはずいぶんと柔らかそうですわよ……?」

「そのまるっこいのは、小麦粉をベースに作られた生地ですよ。その中にタコが入っているのです」

「そ、そうなんですか……お姉様が召し上がったというのであれば、わたしが食べないわけにはいきませんわ……」

「そんな理由で無理する必要はないですが」

「いえ、食べますわ!」

 そうしてリリィは、恐る恐るとたこ焼きを口の中に入れる。

「あっつ!?」

 出来たてほかほかのタコ焼きは、その中身が思いのほか熱いからな。だからリリィは目を白黒させながら、しばらくは「はふーっ、はふーっ」としていた。

 そんなリリィに、今度はユイナスが言った。

「どうよリリィ、屋台を代表する粉物の味は」

「そ、そうですわね……」

 リリィはちょっと考えてから感想を口にする。

「美味しいかまずいかで言えば美味しいのですけれども……なんというか……濃いですわね」

「ソースの味が濃いってこと?」

「ええ……しかしタコには癖がありませんね。お姉様の言うとおり、味よりも食感を楽しむ感じでしょうか。総じて、ざっくりとしたお味ですわ」

 そういやティスリも、庶民料理に以前そんな感想を言っていた気がする。

 宮廷料理とか食べ慣れていると、この手の食事は、ざっくりとした濃い味付けに感じられるのかもな。まぁそこがいいんだけども。

 あとは焼きそばとかじゃがバターなんかをつまみ、その後に菓子系を堪能し始める。

 喉も渇いたので、オレとナーヴィンで人数分のかき氷を買ってくると、ユイナスはなぜかにんまりと笑った。

「よしリリィ、かき氷の早食い競争よ」

「早食い? なんですのそれ」

「このかき氷を早く食べるって意味よ」

「はぁ? それになんの意味がありますの? そもそもはしたないですわ」

「それがかき氷を食べるときのマナーなのよ!」

「ふむ、そういうものですか……郷に入っては郷に従えと言いますしね」

 そうしてすっかりユイナスに欺されたリリィは、かき氷をせかせかと食べ始めて……すぐに顔をしかめた。

「いった! 頭が痛いですわ!? まさか毒!?」

「くくっ、引っかかった〜! 毒なわけないでしょ。冷たいものをいきなりかっ込んだら、頭痛がするのは当然じゃない」

「ユ、ユイナス! あなたまた謀りましたわね!?」

 いやこいつら、なんかまぢで仲いいな? ユイナスに友達ができるのは兄として喜ばしいことだが、面倒な妹に面倒な友達ができてしまったというか……

 などと考えていたら、頭の中に突然ティスリの声が飛び込んできて、オレは思わず声を出しそうになる。

(アルデ。ちょっと聞きたいことが──)

(うおっと!? な、なんだ魔法か……ビビらせるなよ)

(そんなことより、聞きたいことがあるんですっ)

 なぜかティスリは、恨みがましそうな顔でこちらを見てくるので、オレは眉をひそめた。

(聞きたいことってなんだよ?)

(どうしてユイナスさんは、リリィにあれほど懐いているのですか!?)

(いや、オレに聞かれてもなぁ……?)

 ユイナスのヤツは、あの性格から、学校でも友達がいないようだったからな。学校が終わると真っ先にうちに帰ってきたものだが、それってぼっちだからではなかろうかと、当時のオレはずいぶんと心配したものだ。

(ユイナスは、気性が荒くて友達が少なかったようだが……けどリリィもそれなりに荒いし、だから似たもの同士で相性がよかったのかも?)

(ならばわたしも気性を荒くすれば、ユイナスさんと仲良くなれると!?)

(いやお前も十分に気性が荒い──あ)

 し、しまった……この念話という魔法は、思ったことを相手に届けてしまうものだからして、ついオレが思ってしまったことが筒抜けじゃないか!?

 案の定、ティスリの瞳は逆三角になった……

(アルデ。あなたとは、あとでじっっっくり話し合う必要がありそうですね?)

(いいい、いやだから、似たもの同士だったらユイナスと仲良くなれるって話で……)

(似ているのだとしたら、わたしとユイナスさんの距離感に説明つかないでしょう!?)

(う、う〜ん……なら気性の荒さは関係ないのか?)

(あなたが、実の妹は元よりわたしについてもまったく理解していないことがよっく分かりました!)

(そうは言っても……ユイナスの行動には謎が多いわけで……)

(わたしから見たら単純明快でわかりやす過ぎですよ!)

(ま、まぢで?)

 などと言い合っていたら、ミアが不思議そうに言ってきた。

「アルデ、どうしたの? ずーっとティスリさんを見つめて……」

「は? あ、いやいや……見つめてないが?」

「そう? でもわたしから見たら──」

「いやいや! 周囲の様子を観察してただけだよ? あ、ほら、向こうで民族舞踊をやっているから、なんとなく視線がそっちに言ってただけだ! その視線上にティスリがいたってだけだな!?」

「ふぅん……ならいいんだけど……」

 オレの苦し紛れの言い分けに、ミアは、どことなく剣呑な目になって……

 その隣に座るティスリも、超絶剣呑な目になっている。

 はぁ……

 オレの平穏は、この旅行中に訪れるのだろうか……?

 っていうか、こうなることはなぜか予想できてたから、ミアを誘うのに消極的だったわけで……

 ということでオレはため息をつくしかないわけだが、ミアを誘ったナーヴィンは気分上々のようだった。

「いやぁ……それにしてもオレ、今が人生で最良の時かも……」

 夜祭りってことですでに一杯引っかけたからか、唐突にナーヴィンがそんなことを言ってくる。

 だからオレは眉をひそめてナーヴィンに言った。

「なんだよ藪から棒に。昨日まで不満げだったのに」

「いや、オレは考えを改めたよ」

「はぁ? どういうことだ?」

「だって考えてもみろ。今この瞬間、オレは、これほどの美女美少女たちに囲まれてるんだぜ!?」

 妙なことを言い出すナーヴィンに、オレは呆れるしかない。

「いや、お前を囲んでいるわけじゃないだろ」

「だがこうして同じテーブルに付いていれば同じことだ! 見てみろ! 周囲にいる野郎共の羨ましそうな視線を!!」

「お、おい……! 声がデカいって……!」

 ナーヴィンがこれ見よがしにいうものだから、近くにいた男性陣の視線がキツいものへと変わる。

「あぁ……この羨望の眼差しが堪らない……!」

「はぁ……いよいよになったら、お前を囮にして逃げるからな」

「助けろよ!? お前の取り柄は腕っ節だろ!」

「お前が難癖付けるような真似してるんだから、助ける道理はないだろ」

「酷すぎる! それでも親友か!?」

 でもまぁ喧嘩まで売ってくる連中はいないようで、オレは放置することにしたが。

 あともちろん、オレも視線には気づいていた。確かにナーヴィンの言うとおり、うちのテーブルだけ、異次元のレベルで華やかだから、単純に見取れている男性から僻みまくりの連中まで、様々な視線がこちらに向いている。

 さらに今日は、異国情緒たっぷりの浴衣なんて着ていて、ある意味で、ドレスアップしているかのような新鮮さがあるから、視線を集めないわけがない。見慣れたオレだって、うっかりすると呆けてしまいそうになるわけで。

 しかしこれは今に始まったことじゃないしな。ティスリと行動している時点で注目を集めるのは日常茶飯事だったし、その度に牽制していては埒があかないのだ。

 とはいえ、ナーヴィンが騒いでしまったからには、ここに長居するのもよくないか。食事も一通り済んだようだしな。

「そうしたら、そろそろ移動するか」

(to be continued──)


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