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[1−31]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第31話 もしかしたら、アルデが帰ってきたとか?
「二日酔い……まだ続いてますね……」
けだるい気分の抜けないティスリは、ため息と共にローテーブルに突っ伏しました。
二日酔いにも回復魔法は効いたので、昨日から、わたしは自身に何度も回復魔法を掛けているのですが、体のけだるさはいっこうに消えません。
頭痛や吐き気は、昨日の昼くらいには収まったというのに。さらに昨日はずっと寝ていたから、自然治癒も相まって回復しているはずなのに。
「まぁ……いいです。どうせ、急ぎの予定もありませんし……」
本当なら今頃は、魔動車を駆ってアルデの故郷に向かっているはずでした。
ですがアルデが急にいなくなり、だから唯一の予定もなくなって……わたしは、やりたいことがなんにもなくなってしまいました。
そうしたらどうしてか、これから先のことがすべて色あせて見えるようになってしまって……
「ぜんぶ、あのバカのせいです……」
わたしが二日酔いならぬ三日酔いで苦しんでいるのも、予定がなくなったのも、ヤル気が出なくなったのも、ぜんぶアルデが悪いんです。
突然、いなくなったりするから……
「別れの挨拶くらい、あってもよかったでしょう? わずか二日間の付き合いだったとはいえ……知らぬ仲ではなかったのですから……」
なのに、あんな手紙一つでいなくなるなんて。
所詮彼も、その程度の男だったということなのでしょうね。
いったいわたしは、彼に何を期待していたというのでしょうか……
ピロリロリローン、ピロリロリン──
そんなことを考えていたら、唐突に、来訪を知らせるチャイムが鳴りました。なんでしょう? 食事にはまだ早いですし、それ以外は誰も招かないよう女将には申しつけたはずですが。
なのでわたしは無視を決め込むと、さらにチャイムが鳴りました。
ピロリロリローン、ピロリロリン──
ああもう……人が三日酔いでけだるい思いをしているというのに、うるさいですね。いったい誰だと──
──そこでわたしは、ふと思い当たります。
もしかしたら、アルデが帰ってきたとか?
同室にいた人間ならば女将が通すのも頷けますし、アルデには鍵を持たせていましたが、入室の際はチャイムを鳴らすよう言い含めてもいました。万が一にでも着替えの時に入室されたら困るので。そもそも、こんなにしつこくチャイムを鳴らす人間なんて、無神経のアルデ以外に考えられません……!
わたしはそんなことに思い至り、気づけば立ち上がっていました。
ピロリロリローン、ピロ──
「うるさいですよ! 何度も鳴らさなくたって──」
三度目のチャイムの途中で、勢いよく玄関扉を開け放ちます。しかし……
「──え? ラーフル?」
玄関に立っていたのは、むさ苦しいアルデの姿ではなく、わたしの親衛隊隊長を務めているラーフル・ブルシェンシャフトでした。
あの男が戻ってくるはずないのに──わたしは、自身の勘違いで頬が熱くなるのを感じましたが、ラーフルには、わたしの赤面を見られる心配はありませんでした。
なぜならラーフルは、わたしが扉を開けた直後に片膝を床について最敬礼の姿勢を取っていましたので。
そして頭を垂れたまま、ラーフルが言ってきました。
「お休みのところ大変申し訳ございません、ティアリース殿下。火急の用件ゆえ、突然のご訪問をお許し頂きたく存じます」
すぐに追い返してもよかったのですが、ラーフルはこれまでよく尽くしてくれましたし、邪険にするのも気が引けます。なのでわたしは尋ねてしまいました。
「……なんの用ですか? それに、わたしはもう殿下ではありませんよ」
するとラーフルは、顔を伏せたまま言ってきます。
「王命を受け参った次第です。どうか、話だけでも聞いて頂けないでしょうか? でなければ自分の首が飛びます」
「王命……?」
今この国の状況で、王命を出すほどに差し迫った事態に陥るとは考えられないのですが……
まさか、おと……いえこの国の駄王が、よほどの失敗をしでかしたとか?
しかしここで考えても情報が少なすぎます。だからわたしはため息をついてから言いました。
「分かりました……入りなさい。でも話を聞くだけですからね?」
そうしてわたしは、ラーフルを招き入れたのでした。