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[3−8]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第8話 それは絶対だめぇーーー!

 分けの分からないことを言い始めた妹に、アルデオレは、とりあえず待ったを掛けた。

「おいユイナス。何を言っているのか分からんが……」

「どうして分からないのお兄ちゃん!?」

 ユイナスは、オレの首元を掴んでガクガクしてくるので、オレは目を回しそうになる。

 そんなやりとりをしていたら、家の玄関が開いた。

「アルデ?」

 玄関から出てきたのはおふくろのアサーニだった。屋外の騒ぎが家の中にまで聞こえていたのだろう。

「帰ってたの? っていうかそちらの女性は……」

 またぞろ説明が振り出しに戻ることになるのでオレは言った。

「全員に説明するから、とりあえず中に入ろうぜ。このくそ暑い中、立ち話もなんだし」

 そうしてオレたちは、ようやく家の中へと入る。ユイナスは不服そうに、おふくろは不思議そうに。

 ちなみにシバは、庭の木陰へと戻っていった。基本的に室内で飼っているのだが、この季節は木陰のほうが涼しいから、日中は風通しのよい場所を見つけてはそこで涼んでいるのだ。なかなかお利口さんなわんこである。

 そしてティスリは、見たこともないほど居心地の悪そうな顔をしている。だからオレは、廊下を歩きながらティスリに言った。

「どうしたんだよティスリ、らしくもなく硬くなって」

 するとティスリは、困惑顔を向けてくる。

「そ、それは……わたしにもよく分からないのですが、どうしてか体の動きがぎこちなくって……」

「体どころか、表情も声音も普段と段違いにぎこちないぞ?」

「そ、そうかもしれません……なぜなのでしょう……?」

 どうやらティスリ自身、その理由が分からないらしい。実家に来る前から緊張してはいたが、まさかここまで調子を狂わせるとは。

 廊下でそんな雑談をしていたら、ユイナスが振り返ってキッと睨んでくる。それだけでティスリは肩を縮めてしまい押し黙った。まったくらしくないなぁ?

 そしてオレたちはリビングに入り、ダイニングテーブルの席にそれぞれ座った。おふくろが「お父さんも呼んでくるわね」と言ってリビングを出て行く。

 うちの両親は、この家で内職を生業としているので、別室で仕事をしているはずだ。オレが家を出るときには、手編みのかごを作っていたが、それ専業の職人というわけでもないので、その時々で内職の内容は変わってくる。

 体が弱いから、職人として修行に出るわけにも行かず、結果、少し学べば誰でも出来る手作業しか出来ないんだよな。内職がない時期もあるし。だから我が家は基本が貧乏なのだ。

 オレが王都に出稼ぎに出てからは、経済面はだいぶよくなったと思うのだが、家の中の家財一式は昔と変わらず質素なものだった。

 そんなことを振り返っていたら、おやじを連れ立っておふくろが戻ってきた。ついでにお茶も持っている。

 おやじのガットは、相変わらず痩せぎすな感じだったが、頬コケはなくなっていた。顔色も、以前と比べると幾分よくなっているようだし、仕送りの結果、食事事情は改善しているようだ。

 そんなおやじは、弱々しい笑みを向けてきた。

「アルデ、よく帰ってきたね。変わりないかい?」

「ああ。結果的に問題ナシだけど、状況はいろいろ変わったからこれから説明するわ」

 そしてオレは両親にもティスリを紹介する。ティスリは、よりいっそうカチコチに固まっていたが。

 両親は、衛士追放になったことはあまり驚かなかった。もしかすると、なんとなく予見していたのかもしれないな。オレが家を出るときも、反対こそされなかったが心配していたようだし。

 だから衛士追放よりも、オレが、衛士よりも高給取りになったことのほうに驚いているようだった。

 だからおやじはぽつりとつぶやく。

「どうりで仕送りが増えたわけだ」

「ああ。10年一括で給金もらってるから、一気に振り込んでもよかったんだけど、いきなり大金が入ってきたら驚きすぎるだろ?」

「そうだね。驚くよりむしろ恐怖だよ」

「だから毎月の増額にしておいたんだ。一括振込は、事情を話してからにしようと思ってな」

「そうか。だがなんにしてもありがたいことだ。ティスリさん、こんな粗忽者に目を掛けて頂き、本当にありがとうございます」

 おやじとおふくろが深々と頭を下げると、王女として頭を下げられ慣れているはずのティスリは、なぜかワタワタと両手を振りながら言った。

「と、とんでもありません。わたしは、アルデの実力に見合った給金を支払っているに過ぎませんから……」

 ティスリのそんな物言いように、おやじは首を傾げる。

「そうですか? けどうちの息子は、剣の扱いを多少覚えたくらいの人間ですが……」

「多少どころではありません。アルデさんの剣術は、間違いなく世界一ですから」

 ティスリに『さん付け』されるなんて、なんとも妙な気分だな……

 そんなことを考えていたら、おやじは目を丸くしていた。

「世界一とは……またずいぶん期待されているんですね。アルデは村で一番の剣術達者ではありましたが」

「期待ではなく事実です。わたしは、武術大会の世界戦もたくさん見てきましたが、アルデさんほどの使い手は一人もいませんでした」

「本当ですか?」

「はい、本当です。現在の世界ランク一位の剣術家であっても、アルデさんなら一瞬で勝てます」

「一位の人に……!?」

「ええ。その証拠に、先日行われた領都の武術大会では優勝しています。その噂はまだ回ってきてませんか?」

「それは知りませんでした」

 オレに対するティスリの評価に、両親は顔を見合わせる。オレが世界レベルの剣術家だったり、武術大会で優勝したりだなんて、小さな村で、さらには狭い家の中で過ごしている両親にとっては信じられないのだろう。

 もっとも、オレ自身が信じられないわけだが……っていうか、ティスリにそんなベタ褒めされるとなんだかこそばゆい。

 オレが、なんとなく居心地の悪さを感じていると、おふくろがティスリに言った。

「いずれにしても、アルデの実力を見いだしてくれたのはティスリさんでしょう? 本当にありがとうございます」

「いえそんな……わたしは大したことしていませんし……」

 謙遜するティスリだなんて、珍しいことこの上ない状況にオレは目を丸くしていると、今までムスッと話を聞いていたユイナスが、突然、テーブルをバンッと叩いた。

「お父さんもお母さんも欺されないで!」

 するとおふくろが頬に手を当てて首を傾げる。

「ユイナスは何を言っているの? 欺すも何も、ティスリさんは実際にアルデを雇用してくれて、破格なお給金まで支払ってくれているのよ?」

「それはきっと、コイツが何か悪巧みをしているからよ!」

 ユイナスはティスリをビシィっと指差す。こんなことを言われたら、普段のティスリなら、ユイナスが泣いて逃げるくらいの話術を披露するはずだが、今は肩をすぼめてうつむいているだけだ。

 ……もしかして、ユイナスに敵視されていることに落ち込んでいるのか?

 あのティスリが?

 だとしたら……いったいなんで……?

 ますますティスリの心境が分からなくなって、オレは唖然とするばかりだったが、オレの代わりにおふくろがユイナスをたしなめる。

「こらユイナス。人様を指差したりなんてしてはいけません」

「で、でも!」

「そもそも、いったい何を根拠に、ティスリさんがアルデを欺しているというのですか?」

「だってこの女、お兄ちゃんを殺そうとしたのよ!?」

 ユイナスのその台詞に、ティスリの肩がびくりと跳ね上がる。それから困り顔でオレを見てきた。

 ティスリが助けを求めてくる姿も初めて見たぞ……実家に帰ってきてから、何かとてつもないことが起こってやしないだろうか?

 でもまぁそんな珍しさはひとまず後回しだ。こっちを見てきたのは、ユイナスを止めて欲しいからだろう。その要望に応えるべく、オレは割って入った。

「ユイナス、さっきも説明しただろ。それはちょっとした誤解だったんだよ」

「誤解で王城を半壊させるというの!?」

 王城半壊には両親も瞠目した。だがオレは慌てず騒がずうそぶく。

「ティスリは魔法士でもあるんだ」

 オレの台詞に、両親もユイナスも驚いてティスリを見た。魔法士なんて珍しい存在、こんな田舎に住んでいたら一生掛けても出会えないだろうからな。

 三人が驚いている隙に、オレは説明を畳みかける。

「だから、攻勢魔法をちょっと威嚇射撃したら王城に着弾したんだ。で、王城は思ったより老朽化しててな。だから半壊したというわけだ」

 ティスリと戦ったときのあの魔法は、ちょっとなんてもんじゃなかったが、そこは伏せておく。

「いずれにしても、ティスリもオレも本気でやりあったわけじゃない」

 そして今の台詞は真実だ。そもそもオレはティスリの魔法に太刀打ち出来なかったのに、ティスリはとどめを刺せなかったわけだからな。

 しかしユイナスは引き下がらない。

「だからといって、そもそも魔法発現すること自体が異常でしょ!」

「それだけオレが強かったってことだろ、なぁ?」

 ティスリに話を向けると、ティスリは赤くなって目を逸らしながらも「そ、そうですね……」とだけ答えた。面と向かってオレを称賛するのは抵抗があるようだ。

 それからオレは、話を締めくくるべく家族三人に顔を向ける。

「とにかく、最初はちょっと誤解があって戦ったりもしたが、その結果、ティスリはオレの実力を認めてくれたわけだし、その後は戦ったりしていないし、だからぜんぶ帳消しだ。帳消しどころかお釣りが有り余るくらいだよ」

「けど……!」

 それでも何かを言い募ろうとするユイナスに、オレは言った。

「オレもティスリも納得してんだから、お前は関係ないだろ。なんでそんなにムキになるんだ」

「そ、それは……!」

 ユイナスはいっとき黙り込む。

 こりゃあ……ユイナスがかんしゃくを起こす前に、話を終わらせたほうがよさそうだ。

 だからオレはおふくろに向かって言った。

「それでさ。ティスリは視察旅行でこの村に寄ったわけだから、しばらくこのうちで寝泊まりさせたいんだがいいか?」

 するとおふくろは笑顔で「ええ、もちろん──」と言いかけたところで、またもやユイナスが割って入る。

「それは絶対だめぇーーー!」

 涙目になって叫んでくるユイナスに、オレもいささか苛立ちを覚える。

「だ・か・ら。お前はなんだってそうティスリを邪険にするんだ。ティスリはお前に何もしてないだろう?」

「さっきも言ったじゃない! この女がお兄ちゃんを狙ってるからよ!」

「それは誤解だったと説明しただろ?」

「命のことじゃない!」

 そしてユイナスは、椅子を蹴飛ばして立ち上がると宣った。

 とんでもないことを。

「この女、お兄ちゃんのことが好きなんだよ! 分かってないの!?」

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