[4−32]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第32話 そこまで見たいというのなら見せてあげますよ!
結論から言えば……ティスリはクジに細工をしました。
ユイナスさんとナーヴィンさんが、なぜか、クジの結果にもの凄く驚いていたので、わたしの細工に気づかれてしまったのではないかとヒヤヒヤしたのですが、どうやら大丈夫だったようです。
どんな細工をしたのかと言えば、魔法でクジをすり替えました。ちょっと罪悪感はあるものの、お遊びのクジ引きですしね。そもそも、アルデの魔の手からミアさんを守るためには、やむを得ない細工でしたし!
ちなみにグループ分けはこんな感じになりました。
1番手グループ……ミアさんとリリィ。
2番手グループ……わたしとアルデ。
3番手グループ……ユイナスさんとナーヴィンさん。
このグループが決まったとき、なぜかユイナスさんとナーヴィンさんは、部屋の隅でしばらく言い合いをしてましたが……何を話していたんでしょうね?
あとミアさんがコチコチに固まってました。やはり、貴族のリリィと二人きりというのは緊張してしまうのでしょう。だから申し訳ない気持ちで一杯ではありますが……
それもこれも、ミアさんの貞操を守るためなのですから、ここは耐えてもらうしかありません!
「肝試しと言っても、なんの仕掛けもないと驚くわけないよなぁ」
別荘の裏には比較的大きな森があって、わたしたちはそこで肝試しをやることになりました。その森を歩きながら、アルデがそんなことをぼやいています。
「ティスリはこういうの平気なのか?」
諸悪の根源であるアルデは、まるっきり悪びれもせずに会話してきます。
わたしの機転でミアさんの貞操が守られた結果、今のアルデにはとりあえず罪はないわけですから、普段通り会話することにしましょう。
それはもう、まったくもって普通に普段通りに。
「ええ……わたしは別に、暗所恐怖症でもありませんし」
「いや、そういう意味じゃないんだが……っていうか」
と、そこでアルデは、わたしの顔をまじまじと覗き込んできます。なのでわたしは、森を歩く足を止めざるを得ません……!
「な、なんですか? 人の顔を凝視するなんて失礼──」
「お前、さっきから顔がやたらと赤いけど、どうかしたのか?」
「は……!? ど、どうもしてませんよ!」
「いやしかし……」
至って平常心だというのに、どういうわけか頬がカッと熱くなりました! そして、走ってもいないのに心臓がもの凄く早く動いてます!
今の今まで普通だったわけですから、それもこれもアルデが──
「──あなたがわたしをジロジロ見るからです!」
「ジロジロなんて見てないだろ?」
「見てますよ! そもそも今日だって、ミアさんの新しい水着をジロジロ見てたじゃないですか!」
「み、見てないって!? 極力視界に入れないようにしてたんだから!」
「『視界に入れないようにしていた』ということは意識していたことであり、つまりそれはもう見ているも同然なのです!」
「理不尽過ぎる!」
「なら、リリィの水着姿はなんだったか覚えていますか!?」
「へっ……………………な、なんで急にリリィ……?」
「いいから答えてください!」
「え、えーっと………………確か、黒の……」
「今日のリリィは紫色のビキニでした!」
「え? そうだったっけ……?」
「まさにそれが意識していないということであり! つまりは見ていないということなのです! ミアさんの水着、よ〜く覚えているでしょ! つまりはジロジロ見ていたんですよ無意識に!」
「ぬ、ぬぐぐ……」
わたしの完璧な理論に反論できなくなったアルデは、それでも何やら屁理屈をつぶやいています!
「そ、そりゃ……ユイナスと同世代の子供に興味あるわけないじゃん……? 興味ないから覚えていないわけで……むしろ、興味あるほうがヤバイじゃん……?」
「何か言いましたか!?」
「いえ何も!」
「では明日からまた目隠しですね!」
「か、勘弁してくれ!」
しかしユイナスさんの手前、目隠しは出来ないでしょうけれども……そのくらい言っておかないと、アルデのいやらしさは尽きることを知りませんからね!
「と、とにかくだ」
そのアルデは、おずおずとしながら言ってきます。
「風邪か何かの病気じゃないんだよな……?」
「………………風邪なんて引いてませんし、別に赤くもなってません」
「そ、そぉですか……」
わたしを心配するような素振りで点数を稼ごうとしても無駄ですからね……!
ミアさんの水着姿に鼻を伸ばしていた事実は変わらないのですから!
アルデが変なことを言うから、思い出しちゃったじゃないですか!
そんなにミアさんの水着姿がいいんですか!?
だいたい、いくらプライベートビーチだからといったって、男性の前であんな、露出の多い衣服を着るほうがどうかしているわけで……
それにわたしだって、水着を着れば別に……
いやでも、露出が……
だからその……わたしが赤くなるのはアルデのせいで……
つまりアルデの視線が……
けど……見たいって……
えーーーっと…………………………
「おーい、ティスリ、さん……? そろそろ歩きませんか……?」
オドオドしながら聞いてくるアルデを、わたしはキッと睨み付けます。
「何もかもアルデのせいなんですからね!?」
「何もかもとは!?」
そしてわたしは、アルデの腕をガシッと掴みます!
「お、おいティスリ! どうしたんだよ!?」
わたし達は歩道を逸れると、潮騒が聞こえるほうへと早足で進みます!
「お、お〜い……ティスリさ〜ん……?」
マヌケな声を出すアルデをグイグイ引っ張って、やがてわたし達は、砂浜へと辿り着きました!
そしてわたしは半回転してから、再びアルデを睨み付けます!
「いいでしょう!」
「えーっと……何が?」
「そこまで見たいというのなら見せてあげますよ!」
「だから何を?」
そしてわたしは、ブラウスのボタンを一つずつ外していきます!
「え? ちょ、お、おいティスリ……? な、何してんだ! なんで服を脱ぐ!? もしかして酔ってるのか!?」
「酔ってません! あと服を脱いでるわけじゃありません!」
「脱いでるじゃん!?」
「水着姿になってるんです!!」
もはやアルデの顔も見られなくなって!
わたしは目をギュッとつぶりながら!
ブラウスを勢い良く脱ぎ捨てて!
ベルトも外したのでスカートがストンと落ちました!
「…………!?」
見えてませんがアルデの息を呑む様子が……なぜか目に浮かぶようです!
「な、何か言いなさいよ!?」
もはや自分でも、真っ赤になっていることは分かっています!
お、おかしい……!
アルデに水着姿を見せれば、反射神経的赤面は治るはずだったのに!
わたし、いま真っ赤!
なんで!?
っていうかわたし、なぜ水着に!?
どうしてこれで赤面が治ると思っていましたか!?
恥ずかしいんだから治るわけないじゃない!!
「お、おぉ………………」
そして、アルデのつぶやきが聞こえてきます……!
「な、なるほど……服の下に水着を着てたのか……」
わたしはうっすらと目を開けると……
アルデの呆けた顔がこちらに向けられていたので、思わず目を逸らします。
「だから……何か言ってください……!」
「え、あ……うん。よく似合ってるぞ……?」
「それだけ!?」
もはやわたしは涙目になって、アルデをキッと睨み付けます!
「あなたが見たいというから着てきたんでしょ!? 他の人に見せるのは恥ずかしいから二人きりのシチュまで作って! なのに『似合ってる』って、それだけですか!?」
「い、いやちょっと待て!? ほんと、よく似合ってるから!」
「同じコト言ってるだけでしょ!?」
「いやまぢで! すげぇって!」
「あなたの語彙力、どうかしてるんじゃないですか!?」
「だ、だからだな!? フリフリのその白ワンピ、すごくイイぞ! 他より露出は少ないものの、お前はむやみやたらと胸もデカいしスタイルもいいし、だからひじょーーーに胸が強調されて、しかも余計なフリフリは一見邪魔に見えるが、そこはかとなくチラリズム的なフェチを感じるし、いずれにしてもそれによって胸のデカさは元より腰のくびれをも強調されて、あと水着だからトーゼン胸の谷間はよく見えるわけだからして──」
「ナニ言ってるんですかもうホント黙りなさい!!」
「お前が言えっていったんじゃん!?」
「そういうことを言えとはいってません!!」
「じゃあどうしたらいいんだよ!?」
「やっぱり見せるんじゃありませんでした! アルデは徹頭徹尾いやらしさ全開の変質者ですーーー!!」
「なんでだ!?」
そしてわたしはもう耐えられず……海に向かって全力疾走します!
「あとでお仕置きですから覚えてなさい!!」
「お仕置きってなんだよ!? 水着姿を見ただけだろ!?」
「知りませんよこの変態!」
「それじゃこの世の男はみんな変態だぞ!?」
とにかくわたしは波打ち際をバシャバシャと走るのですが、身体能力の高いアルデを引き離すことが出来ず……
体力が尽きるまで、走ったり泳いだりする羽目になるのでした……
* * *
しかしその翌日、なぜか妙にこれまでのモヤモヤが取れていて……
いったいなぜなのかは分かりませんが、ひとまず苛立ちはなくなったので、アルデをお仕置きするのは勘弁してあげました。
でもどうして気が晴れたのでしょうね?
あ、もしかしたら……
昨夜は図らずもよく運動できたから、それで今日は気分爽快というわけなのでしょう。
海に来たというのに、わたしは水着を着ませんでしたから、運動らしい運動が出来ませんでしたからね。
こんな簡単なことに気づかないなんて。
バカンスだからって、いささか気を緩めすぎたかもしれませんね。