[5−28]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第28話 間違いなく誰よりも──
ティスリにちょっと見取れただけだというのに、散々な目に遭ったアルデだったが……
その後は、ティスリとユイナスの機嫌も直ったので学園祭を楽しむことが出来た。
オレとしても、学園祭見学なんて初めての経験だからな。うちの村じゃ学校が小さすぎてそんなイベント出来なかったし。だから見学していいと言われればしたいわけだ。
もっとも、女子生徒とは絶対に目を合わせないよう細心の注意を払う、という気苦労はあったわけだが……
ということでオレ達四人は、展示作品を見て回り、模擬店では軽食を取り、生徒による演劇なども鑑賞した。
展示作品の中には、ティスリのこれまでの政治経済的な功績を列挙したものなんかもあって、「よく調べてありますね」とティスリが称賛を送っていた。称賛された女子生徒は卒倒しそうになっていたが。自分の功績に称賛を送っているように見えなくもないが、まぁ普段から自画自賛してるしな。
逆に、演劇はティスリをモデルにした武勇伝だったのだが、それは気恥ずかしそうにしていた。ティスリが恥ずかしがるポイントがいまいち謎だ。ちょいと脚色されていたからか? もっとも演劇部の生徒にも称賛は送っていたが。
ってかこの学校、ガチでティスリのことを崇拝しているなぁ。これがリリィの影響だという話だから末恐ろしくもあるな、ほんと。
そんな感じで、のんびりと学園祭視察は進んでいき──
──やがて日も暮れて、後夜祭なるイベントになった。
なんでも、キャンプファイヤーを囲んでみんなでダンスを踊るのだとか。
オレ達四人は、そのキャンプファイヤーがよく見える貴賓席に通されたのだが、着席する前にユイナスがいってきた。
「お兄ちゃん! 一緒に踊ろうよ!」
ダンスは招待客も参加オーケーとのことだったが、当然、オレは踊りなんて出来ないし、そもそもダンスに参加しているのはほとんどが女子生徒だ。あの女子の輪に入っていったら……午前中の二の舞となりかねない。
オレは、思わず身震いしてからユイナスに言った。
「オレはいいよ。それにお前、さっき友達にダンスを誘われてただろ」
「えー、別に友達はどーでもいいよ」
「いいわけあるか。学園祭はずっとオレ達と一緒だったんだから、少しは社交性を身につけてこい」
「社交性は十分身に付いてるわよ!」
「ならそれを兄に見せてくれ。どうにもお前は心配なんだよ」
「もう……分かったわよ。お兄ちゃんが心配しているほど、わたし、友達が少ないわけじゃないんだからね」
そう言ってからユイナスは貴賓席から離れ、友達と合流する。その後はスムーズにダンスの輪に入っていった。
それを眺めていたオレは、かなり意外に感じる。
「へぇ……確かに、嫌がられている感じもしないな」
オレのそのつぶやきに、リリィが答えた。
「ユイナスは人気がありますわよ。特に貴族に」
「貴族に? ユイナスが平民だってこと、みんな知ってるのか?」
「ええ、みんな知った上での事ですわ」
「へぇ……でもあの気の強いワガママ娘が、どうして……?」
「どうしてと言われましても……最初は、お姉様の知人ということで注目を集めてましたが、今は、それを抜きにして好かれていますわね」
「し、信じられん……」
オレが唖然としていると、ティスリが朗らかに言ってくる。
「兄であるあなたが何を言っているのですか。ユイナスさんは、明るくて元気で、わたしに対しても物怖じせずに意見を言ってくれますし、非常に魅力的じゃないですか」
「そ、そぉかな……? オレとしては、あの向こう見ずな性格にいつもヒヤヒヤしているんだが……」
「それは考えすぎというものですよ。それに今は、どんな状況になったとしてもわたしが必ず守りますからね」
「それは非常に頼もしいが……」
そういやユイナスって、ティスリにもなぜかすごく気に入られているし……あとリリィとなんかは、もはや身分差なんて感じさせないほどの友達って感じだし……
アイツ、貴族たらしの才能でもあるのか? ってかどんな才能だよそれ?
オレがそんなことを考えていたら、実行委員長ということでリリィも呼ばれて貴賓席を離席する。
それを見送りながらティスリが言った。
「どうやらリリィも学校に馴染んでいるようですね。よかったです」
そんなつぶやきにオレは苦笑する。
「なんだかんだ言っても、リリィにも目を掛けているよな、お前」
「そ、それは……別に嫌いではありませんから……ちょっと、というかだいぶ鬱陶しいだけで……」
嫌いと鬱陶しいは違うのだろうか?
ま、いいか。いずれにしてもティスリが素直じゃないのは今に始まったことじゃないから、リリィのことも普通に気に入っているのだろう。
オレは、友達と踊っているユイナスやリリィを眺めながら言った。
「そういや、お前の学生時代はどうだったんだ?」
「わたしは、学校には行ってませんよ」
「へ?」
意外な返事に、オレは驚いてティスリを見た。そんなティスリは不思議そうに言ってくる。
「そもそも、この学校制度を作ったのがわたしですから、わたしが通うわけないでしょう?」
「いや、自分が作った制度で自分が通ったっておかしくは……っていうか、お前、この制度を作ったのっていくつのときだよ……?」
「確か四歳でしたね」
「はぁ……!?」
四歳って……リリィの幼少期を思い出してみるに、おしゃべりは出来ていたが、読み書きとかは出来なかったぞ?
だというのにティスリは、そんな幼少期ですでに国の中枢を動かしていたとか……
「とんでもない天才児だったんだな、お前……」
「最初からそう言っているではないですか」
「い、いやまぁ……もちろんそうなんだけど……それでも恐れ入るよ……じゃあ勉強なんて不要だったのか?」
「いえ、もちろん勉強はしましたよ。すでに確立された理論は、ゼロから考えるより過去の知識を学んだ方が早いですからね」
「そ、そんなもんなの……?」
「ええ。だからわたしにとっての教師は図書館でしょうか。幸い、王都にも王城にも蔵書はたくさんありましたから。それを一通り読みました」
「えーっと……図書館の本を読んだの? ぜんぶ?」
「ええ。二歳のときには完読しました」
「………………」
「それで『このままでは国が滅亡する』と気づいたので、父を焚きつけ──いえ陛下に進言して、様々な改革を行ったわけです」
いやもう……なんというか……
開いた口が塞がらないどころか、閉口するしかない。
王城の連中──とくに中年より上の世代が、ティスリを畏れたり盲信したりの理由が今さらながらによく分かった。ティスリの神童ぶりを間近で見てたんだろうからな。
オレが唖然としていると、キャンプファイヤーを眺めながらティスリが言った。
「そしてこの光景は、わたしが求めていたものでもあります」
「求めていたもの?」
オレが首を傾げると、ティスリが頷く。
「ええ……貴族とか平民とか、そういう身分の垣根を無くすこと。それが、わたしが行った学校政策最大の目的です。ユイナスさんは、まさにそれを体現してくれています」
キャンプファイヤー周辺で踊る生徒達を眺めながら、ティスリがそんなことを言った。
その眼差しは秘めたる決意が感じられて、オレは思わず見取れてしまう。
「願わくば、この光景が国中に……いえ、世界中に広がるといいのですが」
そんなティスリの横顔を見ながら、オレは思う。
ティスリは、間違いなく誰よりも──優しい。
冷静すぎて、一見すると冷たく感じられてしまう外見とは裏腹に、その内心では誰よりも、他人のことを想っている。
だというのにどうしてそれを上手く話せないのか……なんともアンバランスなヤツなのだ。
でもまぁ、いいか。
身近にいるオレ達が、それを分かってやれるのなら。
ああだこうだと言い合いながらも、オレ達が側にいるのなら。
ティスリはもうぼっちじゃないんだからな。
だからオレは、ティスリに言った。
「きっと広がっていくさ。オレ達も協力するからな」
「え……?」
まるで予想外のことを言われたとでもいうような顔つきで、ティスリがオレを見る。だからオレは首を傾げた。
「なんだよその顔は」
「い、いえ……アルデがそんなことを言うだなんて、ちょっと意外というか、なんというか……」
「おいおい、あんまりオレを見くびるなよ? オレだって国が平和に発展していくことを望むのは当然だろ。だったら協力は惜しまないさ」
「そ、そうですか……」
ティスリがオレから目を逸らして頬を赤らめる。
「ならば精々、扱き使ってあげますよ」
うん、こういうところがなければ、もっと友達や協力者が増えると思うんだがなぁ……
でもオレなら、コイツが照れ隠しをしているだけということくらい、さすがにもう分かるしな。
「へいへい、なら殿下サマのために、馬車馬のように働いて見せますよ」
「殿下はやめてください。そして馬車馬のように働くのは当然です」
「当然なのかよ……!?」
などと軽口を叩き合っているうちに、徐々にその軽口も少なくなっていき──
気づけば、オレはティスリから目が離せなくなっていた。
そして、ティスリもオレから視線を逸らさない。
そのティスリが、オレに言った。頬をほんのり赤くしたまま。
「アルデ……あ、あなたは……」
「ちょっとーーー! 何してんのあんた達!?」
ティスリが何かを言いかけたところで、いきなりユイナスが割って入ってくる。
それに驚いて、オレは思わず声を上げた。
「うおっ!? なんだよユイナス! 踊ってたんじゃないのか……!?」
「一通り踊り終わったのよ! ってかなんなのこの雰囲気!?」
「雰囲気……? いやオレ達は、いま至極真面目に国の将来を話し合ってだな?」
「そんな話、一つも出てなかったじゃない!」
そしてユイナスは、ティスリをギロリと睨む。
「あんたまさか……わたしがちょっと目を離した隙に、お兄ちゃんを口説いたんじゃないでしょうね!?」
「そそそ、そんなことしてませんよ!?」
「やっぱり、あんたなんか招待するんじゃなかった!」
「で、ですからユイナスさん!? わたしは決してそんなことしてませんてば!?」
と、こんな感じで……
後夜祭の馬鹿騒ぎは留まることがないのだった。