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[5−29]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第29話 そろそろクリスマスだけど

 季節もめっきり寒くなり、すっかりコートが手放せなくなった──そんな年末。

 アルデオレは、今週もミアと会っていた。街中の喫茶店で。

「なぁミア、今日の仕事って……」

「え、あ、うん! 今日はあれかな! お休みっていうか、リリィ様がこれまでのお手伝いをねぎらってくれてね……!?」

「けどオレ、最近は大した手伝いもしていないが……」

「そ、そうだったっけ……!?」

「うん。先週なんかは、街をブラブラしたり、私物を買ったり、サテンで休憩したり、そんで早めの夕食を食べて帰っただけだったぞ?」

「と、途中で買った私物に必要なものがあったんだよ!」

「えーっと……お前の服を選んだだけだったような……」

「そ、それは……今度の晩餐会でわたしたちが着る衣装でね!?」

「え……そんな重要な服をオレが選んだのか……!? ってか、そうだとしても軍事になんの関係もない気が……」

「防御力! アルデに選んでもらったから防御力が高かったんだ! みんな喜んでた! さすがだね!」

「はぁ……?」

 いや防御力って……誰が選ぼうとも、手編みセーターに防御力があるとは微塵も思えないが……

 オレは疑問符を浮かべるばかりなのだが、目の前のミアは、汗を流しながらニコニコしている……いったいどんな心境?

 そんなミアが、笑顔のままに言ってくる。

「あ、そうそう! そろそろクリスマスだけど、アルデはどうするのかな!?」

「ん? どうして突然、クリスマス……?」

「今度の晩餐会って、クリスマス晩餐会のことだったから思い出したんだ」

「ああ、なるほど。オレの方は、何かと忙しくなりそうだぞ」

 この国にはクリスマスなる一大イベントがある。

 元々は、冬至にお祈りするだけのイベントだったが、その時期にティスリが生まれたことにより、誕生祭が加わったそうだ。

 最初は、王城で誕生祭が執り行われていて、王族と中央貴族しか関わっていなかったのだが、いつの間にか街中でもお祝いイベントが様々に開催されるようになった。

 しかも『王女殿下は美しい乙女』と噂が流れたことで、それにあやかりたいという女性達が積極的にイベント企画した結果、カップル同士のイベントという色合いが強くなり……現在に至る。

 これまでのオレなら無縁のイベントなのだが、今年はティスリの側近になっているからな。無縁というわけにはいかないのだ。

 ということでオレは、当日の予定をミアに説明した。

「クリスマス当日は、ティスリの護衛で付きっきりだな。いろんな予定が入ってたし……詳細は覚えてないけど」

「覚えなくていいの……?」

「ティスリが覚えてるからな。護衛として付いていけばいいだけだし」

「そうなると、クリスマス晩餐会にはアルデも出席するってこと?」

「護衛だから出席扱いってわけじゃないだろうけど、会場にはいなくちゃだろうな」

「そっか。そうなるとその前から忙しいのかな?」

「いや、オレの場合はそうでもなくてな。前日に休みをくれたんだ。当日は忙しくなるからって」

「え……そうなの? ちなみに前日って……ユイナスちゃんは?」

「ユイナスは学校だけど、夜は一緒にメシを食おうって話になってる」

「そうしたら……アルデは、イヴの日中は予定ないってこと?」

「まぁ……そうなるかな?」

「な、なら……!」

 そこでミアは身を乗り出して言ってくる。

「わたしと会ってくれないかな……!?」

「え……?」

「イヴの日は……仕事抜きで……」

「え、えーっと……」

「わ、わたし……この王都には友達が誰もいないじゃない……!? そうなるとせっかくのイベントなのにどこにもいけなくて寂しいし……それに、何度も転送魔法を使ってもらうわけにもいかないから帰郷することも出来ないし……」

「な、なるほど……」

「あ、あくまでも友達として、少し会ってくれたら嬉しいなぁって……そう、友達として! ほんと、イヴだからって深い意味はないんだよ!?」

「お、おお……」

 確かにミアは、王都で気楽に会える友達といえばオレしかいないだろうし、イベント期間中に一人ってのは何かと寂しいだろう。

 とはいえ、なぁ……

 オレは、ミアの気持ちを知っているわけだし……

 ここで、仕事でもないのに会うというのは、なんというかその……気後れするというか、むしろ悪い気がするというか……ミアが寂しい思いをしないためなんだから、悪い気がするというのも妙なんだが……

 そもそも、どうしてかティスリの怒る顔が脳裏をよぎったりもする……なんでだ?

 オレが答えられずにいると、ミアが少し悲しそうな顔になった。

「そんなに警戒されると……さすがに寂しいな……」

「い、いや別に、お前を警戒してるわけじゃなくてな……!?」

「もちろん、分かってる。分かってるけど……」

 そしてミアは、懇願してくるかのような瞳をオレに向ける。

「少し会うだけでも、駄目なの……?」

 ………………くっ!

 そ、そんなふうに頼まれたら、断れないじゃないか……!

「分かったよ……」

「ほ、ほんと!?」

「ああ……でも、ユイナスが帰ってくるまでの間だからな……?」

「もちろんだよ! ありがとうアルデ!」

 ミアは飛び上がらんばかりの勢いで喜んでいたが……どうしてかオレは、理由の分からない罪悪感を抱くのだった……

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